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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「マルセル様も……。そう、ですよね。皆さんのお力を借りてるんだし、きっと大丈夫ですよね」
 そう言ってきゅっと口角を持ち上げたポピーの前で、ブライが釘をさす。
「あまり楽観視し過ぎるのも軽率じゃが、こればかりはやってみるしかないですな」
 折角持ち直したところに水を差す発言に、アリーナが憤慨し始める。
「ブライ、落ち込ませるんじゃないわよ!」
 そしてマーニャも肩を竦め、口をへの字に曲げた。
「いくらマヒャドの使い手だからって、場を凍らせてどーするのよ。見てこの空気」
 広げた扇で口元を隠したマーニャの声はすっかり揶揄いモードになっていたが、どこか白けた空気を察したポピーが慌てて両手を顔の前で振る。
「わ、わたしは大丈夫です。あの、ちょっと心配になっただけですから……すみませんブライ様、変なこと言ってしまって」
 気を遣ったポピーだったが、実のところブライは平然としていた。この程度の軽口はいつものことだからである。
「いやいや、こちらこそ申し訳なかった。なに、大丈夫だと思いますがの」
 そう言ってニイっと皮肉げな笑みを浮かべてみせ、聞き慣れぬ異国の王女だというポピーに気遣い不要との態度を示した。内心では「姫様にもこれくらいの器量があれば」などととても不敬なことを考えていたのだが。
 パデキアでぎっしりと埋め尽くされた麻袋を、リュカとティミーが一つずつ背負う。もう行くのだと態度で伝わり、ソロがリュカへと声をかけた。
「で、どうする? 追うのか」
「そうだね、どのみちピエールとバトラーとも合流しないといけないし」
 重みで肩に食い込む麻袋の紐の位置をずらしながら、ティミーが言葉を繋ぐ。
「もしこっちに置き去りになっちゃったら、ピエール泣くよね」
「いや泣かないだろ……流石に」
「お父さんとお母さん探してた頃、ずーっと寂しそうにしてたよ。泣くって絶対」
 そこでリュカは笑みを消し、ティミーの母譲りの青い瞳を見返す。
 石化が解け子供たちと共にグランバニアに帰還したとき、狂喜乱舞した多くの仲間たちの中に小さな騎士の姿はなかったことを、リュカは覚えていた。デモンズタワー戦で主人を守れなかった不甲斐なさに、合わせる顔がないと城近くの森に身を潜めていたピエール。匂いを辿ったプックルに難なく探し出されようやく再会できたものの、地面に額を擦り付ける様にして頭を下げたまま微動だにしなかった彼を宥めすかし、涙でぐしゃぐしゃの顔から笑みを引き出すまでには相当骨を折った記憶がある。
 ふとその出来事を思い出したものの、騎士である彼の名誉を傷つけてはならないと思ったリュカは、静かに瞬きながら適切な言葉を探し、ゆっくりと話し出す。
「……だとしても、だ。あいつは騎士だ。こんなことでピーピー泣くようなやわな根性してないよ」
 小さく笑って、愛息子の言葉をやんわりと否定する。
「そうかなあ……まあ、お父さんの方が付き合い長いんだし、実際そうなのかもね」
 口振りはどこか納得のいかない様子ではあったが、ティミーは父の言葉に頷いて朗らかに笑う。
「どうせみんなでグランバニアに帰るんだから、どっちだっていいよね!」
「そういうこと」
 口角を持ち上げたリュカが、息子の頭をぽんとはたく。
「いつ戻っても良いように、集まっておこう。行くよ」
 そうして一行は場所を移動し始めた。

 ピエールはふと動きを止めて耳を澄ませた。
 複数の足音が近づいて来ている────そう思った矢先、聞き慣れた主人の声が響いた。
「ピエール! 無事か!」
 ちょうどイゴーと赤子にはピサロとバトラーが攻撃を仕掛けていた最中、ピエールは一旦戦線を離脱してリュカの近くへ移動する。
「リュカ様もご無事でしたか……」
 ほっと安堵の息を吐いたものの、見渡した中にホイミンの姿がないことに気づく。
「あの、ホイミン殿は……」
 ピエールの問いかけに、リュカは小さく頭を振った。
 その仕草だけで、経緯はどうあれ彼はもういないのだと察し、頷きを返す。
 リュカは少し気落ちした様子のピエールの頭を撫でて、それからぽんぽんとはたく。
「どうしようもなかった。仕方がないよ」
「そうですね……」
 曖昧な表情を浮かべてリュカの言葉を肯定するものの、気持ちはずんと沈む。
 ほんの僅かな期間を共にしただけだ────それなのに、何故か心が痛む。その不可解さも相まって、ピエールの表情は晴れないままだった。
「アンジェさんが導いてくれたよ。だから大丈夫」
 ホイミンを看取ったリュカもまた、先程の出来事を思い出して少々感傷的な気持ちに陥っていたが、それを表には出さずに言葉を続けた。
「天使様が……?」
 兜の奥で深海色の瞳が丸く見開かれた。
 リュカの言葉を繋げるように、ルヴァがすいと歩み出る。
「ええ。預かった水晶球から、向こうに残っている守護聖の分もサクリアが溢れました。どうやら、女王陛下はこちらの出来事もある程度ご存じのようですよ」
 穏やかにそう告げたルヴァは嬉しそうに頬を上げて、それから真顔に戻った。
「……それで、ピエール殿。見たところ、あの赤ん坊は敵なんですよね?」
 ルヴァの言葉に、一瞬にして場の空気がピリつく。
 一行の視線は髑髏に囲まれた赤子と、その横にいるイゴーに注がれた。
「はい。あの者が産んだと……進化の秘法を用いたとのことで、先程女の姿になっておりました」
 ピエールの報告を一言一句漏らすまいと、ルヴァは手帳に書き留めていく。
 戦いの様子を見ていたオスカーが小さくため息を吐いた。
「……あんな赤ん坊に剣を向けるのは、些か抵抗があるな……」
 オスカーの背後ではリュミエールとマルセルがその言葉にこくりと頷く。
「ええ……わたくしも、胸が痛みます」
「赤ちゃんですもんね……」
 人々を守る立場の守護聖としては、どのような形であっても殺戮行為を肯定し辛い。ましてや幼子であれば尚更である。だがそんな中で、こちらでの戦いに慣れているルヴァを除いてはオリヴィエが険しい顔で赤子を睨みつけていた。
「あんたたちよく見てみなよ、あれは生きてなんかいない」
 普段は享楽的な夢の守護聖が、誘惑の剣に手を掛けた姿勢で低く呟いた内容は、他の守護聖たちの意識を切り替えるには充分な重さを持って響いた。
 それぞれ身構え始めた守護聖たちの間を縫い、ティミーが前に進み出る。
「今のオスカー様たちみたいに、可哀想って思わせるのが狙いなんじゃない?」
 真っ直ぐ敵を睨み据える眼差しには、甘さは一切ない。
「まあ、ぼくたちには関係ないけどね。あれが何だろうと」
 冷たく突き放す言い方をしたティミーをよそに、父リュカがちらと彼の騎士へ視線を送る。
「ピエール」
「はい」
「あいつら、呪文効いてる?」
「はい、ルカナンは効いていました。マホカンタはないと思います」
 ピエールの説明に頷き、満足げなリュカは息子に声をかける。
「それは好都合。ティミー、やっちゃえ」
「りょーかい!」
 ニッと笑うティミーの体の周囲に、バチバチと火花が纏わり付く。
 勇者専用呪文の発動を前にして、意図に気付いたソロがにやりと口の端を持ち上げ、彼の周囲にも火花が爆ぜ始める。
「あっ、ご先祖様もやっちゃう?」