二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに2

INDEX|188ページ/213ページ|

次のページ前のページ
 

 舞い戻ってきたタロットをひとつに纏めたクラヴィスは、軽く切り直してから真剣な眼差しで一枚を引く────
「……力のカード、正位置か」
 クラヴィスが引いたカードは、勇気や不屈の意志を示すものだ。そう悪くないと心で思った矢先、タロットの効果でオスカーの体が淡く輝き出す。
「ふ……なかなかおあつらえ向きの人選だな」
 独り言ちてくつくつと喉奥で笑う。突然の輝きにオスカーが不思議そうに己の体を見ていたが、ポピーやルヴァが唱えていたバイキルトと似た感覚に、これも同じ効果なのかとクラヴィスへ視線を投げてきた。
 オスカーの問いかける視線を受けて、クラヴィスはほんの僅かに笑んだ表情で頷きだけ返した。
 普段クラヴィスの仏頂面を拝むことの多いオスカーはその表情に怪訝な気持ちになったものの、肩をすくめてから愛剣を持ち直す。
「何だかよく分からんが……ここは行くべきなんだろうな」
 余裕の笑みが浮かんでいた唇をきつく引き結び、身構えたオスカーの隣へオリヴィエが並び立つ。
「オスカー」
 お互い顔は敵へと向けたまま、横目で視線を合わせた。
「どうした極楽鳥。いつになくマジメ腐った顔だな」
 通常通りの茶化した言い方ではあったが、声音は僅かに強張りを伴いごくりと喉仏を上下させたオスカーへ、オリヴィエは片眉を持ち上げて軽く言い返す。
「お生憎様、こんな状況じゃ早々笑ってもいられないんでね。で……あんたが狙ってるのは、どっち」
 声を低めて告げられた最後の言葉に、オリヴィエの本気の怒りを感じ取る。
「なんだ、おまえと取り合いはしたくないんだがな……今こっちを見てる方を落とす。俺はお子様に興味ないんでな」
 男にも興味はないがと胸中で追加していそうなオスカーの台詞に、オリヴィエの目が細められた。
 視線の先にはこちらの出方を伺うイゴーが立っている。
「……オーケー、それなら私も立候補しちゃおうかな」
 そんな二人から少し離れた背後で、ルヴァの詠唱が響く。
「獅子の力、玉響に宿らん!」
 オリヴィエにバイキルトをかけたルヴァが、満足そうに一人頷いて納得している。体中に力が漲る感覚にオリヴィエは驚き、振り返ってルヴァを見た。
「ルヴァ、今のは?」
 にこりと頬を上げて近づき、質問への答えを返す。
「あー、あなたにも必要かと思いましてねー。腕っ節を強めてくれる呪文ですよ」
「へえ、便利だね……それにしても、ルヴァにしては随分と行動が早いじゃない」
 普段の行動からすれば考えられない程の迅速さである。それには隣のオスカーまでもが頷いていた。
 二人の反応にルヴァは後頭部を掻きながらあははと乾いた笑いを浮かべ、手にした杖を持ち上げる。
「それはまあ、こちらで戦った経験がありますからねえ。慣れとは恐ろしいものですよ」
「頼りになるわー。助かるよ、ありがとね」
「いえいえ。どうかくれぐれも気をつけてください、怪我なら治せますが……」
 優雅にウインクを決めたオリヴィエへ、ルヴァは目礼をして後ろへ下がる。それをオスカーが見た次の瞬間にはイゴーたちへ注視する切り替えの早さに、再び内心感心しつつオリヴィエを促す。
「……さ、行くぞオリヴィエ」
「そっちこそ、遅れないでね!」
 軽口を叩きながらピンヒール姿で颯爽と駆け出していくオリヴィエに、オスカーは一瞬ふはっと笑いを漏らしながらもすぐに表情を戻して後を追う。
「……足早いな!」
 捻挫をしそうなヒール履きでありながら、そのハンディを感じさせない俊足で遠ざかっていく。
 慌てて歩幅を広げ速度を上げたオスカーの置き土産のようなぼやきは、背後に残された守護聖たちを笑わせた。

 ピエールの陰である程度の怪我を回避したリュカは、盾役を買って出た騎士へ労いのベホマをかけて小声で話し出す。
「さっきの攻撃がまた来たら厄介だな……」
「ええ……弓もつがえていないのに、ギガデイン級の全体攻撃ですからね。あれが連続で来られたらどうなるか……」
 話しながらリュカの瞳は守護聖たちの様子を確認している。
「守護聖様たちもなんとか持ち堪えたみたいだね。あちらの回復はルヴァに任せておけそうだ」
 ルヴァの行動を見ていたリュカから、肩の力が抜けた。
「そう言えば、リュカ様……あの、つかぬ事を伺いますが、ホイミン殿の手荷物はどこへ?」
「うん? 竪琴は弦が切れて使い物にならないから、置いてきたよ。楽譜は今リュミエール様が持ってる」
 リュカの話に「そうでしたか」と安堵の声で呟き、話を続けた。
「ホイミン殿は譜面集の中に幾つか魔力を伴う曲があると言っておりました。以前は退魔の旋律を使って旅をされていたと」
 それまで静かに動向を窺っていたプックルが、ピエールの話に何かを思いついた様子で首を持ち上げて振り向く。
「……リュカ。それ、賢者に伝えておくほうがいいんじゃないか」
「え、なんで?」
 きょとんと聞き返したリュカに、プックルは片耳をぴょこんと動かす。
「守護聖のサクリアは魔力の塊だ。あの竪琴弾きが扱える曲なら、役に立つかもしれないぞ」
 プックルの指摘に、リュカの目が丸く見開かれていく。
「あ……そっか。それなら文字さえ解読できれば……!」
 水の守護聖曰く、楽譜自体はあちらの世界と特に変わりはないが、曲名や書き込まれた注釈は読めないと言っていた。それが解読されれば武器になる筈────そう気づかされ、即座にルヴァのところへ走る。
「おや、リュカ。どうしました?」
 目の端でちらりとリュカを見たルヴァが、怪訝な表情で声をかける。
「さっきの楽譜のことで」
 イゴーの攻撃を警戒しルヴァよりも半歩ほど前に出たリュカがそう言うと、ルヴァは片手で顎をさすって視線を宙に彷徨わせ、それからリュカに視線を合わせた。
「ああ……あの譜面集ですか。あれが何か?」
「ぼくも今聞いたんですけど、あれの中に魔力を伴う曲があったとかで。ホイミンは退魔の旋律、とかいうのを使って旅をしていたと」
「はあ……そうでしたか」
 関心なさそうにも聞こえる声音だったものの、ルヴァの青灰色の瞳は僅かに揺れ動き、視点は既に遥か遠くに定められているようだ。脳内で目まぐるしく情報を引き出し、意識は瞬く間に思考の波間に沈む。
「何か、この戦いに使えそうな曲があるかも知れませんねえ……それは興味深い」
 顎に触れていただけの手は口元を覆い、小声が漏れた。耳聡くそれを聞きつけたリュカはほくそ笑む。
「ルヴァならそう言うと思ってました」
「あー、はは……むしろ、それ狙いだったんじゃありませんか?」
 ソロたちがイゴーと赤子へ挑んでいるのを注意深く観察しながらも、リュカは期待を込めた口ぶりで告げる。
「当然です。ぼくたちの頭脳をただ遊ばせておくのはもったいないですから」
 言葉に滲む全幅の信頼に少々の気後れを感じつつも、ルヴァはそれをおくびにも出さない。
「お手柔らかにお願いしますよ。では早速見てみましょうかね」
「お願いします。何か見つかるといいんだけど……」
 すぐにリュミエールのほうへ足を向けたルヴァが、ふと立ち止まって振り返る。
「リュカ。楽譜を調べている間、護衛をお任せしても?」
「勿論です。そこは安心してください……絶対に死なせない」