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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 騒がしいなと思いながらルヴァへと視線を移したオスカーが固まっている。
 手にした水晶球から輝きが溢れている────先程のアンジェリークから立ち上ったものとそっくりの、黄金の輝きだ。
 溢れた光はそのまま真っ直ぐに天へと昇り、暗雲を貫いた。一点の星のように留まる光に、オリヴィエは覚えがあった。
「あれって、もしかして……」
 光点は瞬く間に上空一帯を眩く照らし出す。
 雲間を割いて差し込む金色の光は放射状に光の柱を幾本も下ろし、その中から一羽の鳥が近づいてくる。
「神鳥……!」
 だが近づいてくる神鳥は、オリヴィエは勿論ルヴァですら初見の大きさだ。それも優雅とは言い辛い素早さで急降下してきている。
 あっという間に守護聖たちの上空へと舞い降りて旋回する神鳥に、守護聖たちは息を飲んで見上げた。
 ただ一人リュミエールだけが譜面に注視する中、竪琴の音色が緩やかに終わりを告げる。

 ピエールが突如頭を押さえてうずくまった。
「マスター……!」
 ふいに呼ばれ、切羽詰まった声音に何事かとリュカは彼の騎士を見る。そのただならぬ様子から、リュカの顔にも緊張が走った。
「歌が……っ」
「歌?」
 キラーマシンを叩きに来たリュカの護衛にと戻ってきたバトラーまでも、低く呻き声をあげていた。
「リュカ様、聴こえませんか……!」
「何も聴こえないけど……どうしたの、具合悪い?」
 ぜいぜいと肩で息をするピエールに問うと、視線を合わせた深海色の瞳は小刻みに揺れている。
「からだ、が、なくなりそ、で」
 切れ切れの声に被さり、バトラーが吼えた。
「ぐうぅっ……!」
「バトラーまで……えっ何、プックル……」
 見ればプックルも苦し気に息を切らせ、前足で地面を引っ掻いている。
「お、れも……だめだ、耐えられん!」
 慌てて周囲を見渡してみても、仲間モンスターだけが呻き苦しんでいる。
「なんで魔物たちだけ……!?」
 困惑しきって漏れ出た疑問に、誰も答えられない。
 体をのけ反らせ喉を掻き毟りながら、ピエールが叫ぶ。
「て、天使さま……!」
「ピエールしっかりしろ! 天使って、アンジェさんのことだよな!? あの人が何だって!?」
 がたがたと大きく震え青褪めるピエールを抱きかかえたリュカの傍に、ルヴァが急ぎ駆け寄ってきた。
「ピエール殿、これは一体……何が起きているんですか!」
 片膝をつき、ピエールの顔に耳を近づける。
「あ……あの歌が、聴こえ、ます」
 搾り出される声を聞き漏らすまいと、ルヴァは更に身を寄せる。
「歌とは、アンジェの歌ですか?」
 こくりと首肯し、震える唇から必死に言葉を紡ぎだす。
「まえに、きいた、うた」
「今竪琴で弾いていたほうですか」
 その問いには首を横に振った。
 以前の旅で歌われたのは二曲────「おおぞらをとぶ」が違うとなると、とルヴァは口を開く。
「泡沫の羅針盤……?」
 小さな頷きが返ってきた。

 ────遠き彼方より来たる天の御使いは、聖なる歌声にて眩き扉を呼び覚まして帰らん。

 エルヘブンの伝承歌の中でも葬儀の際に歌われてきたものであり、民が迷わぬよう天へと送り届ける祈りの歌であるという。しかし、前回の帰還時にはピエールとプックルもいたが、こんな事態にはなっていない。
 何故────緊張に体が強張る中、ルヴァの脳内ではこれまでに知り得た全ての情報が一斉に巡る。
「お兄ちゃん! キラーマシンが動かないよ!?」
「ほんとだ。活動停止してる……?」
 双子たちの戸惑った声音が聞こえ、それからすぐにアリーナが正拳突きを叩きこんでいた。
「ほんとだ、動かない!」
 言いながら、全く動きのないキラーマシンたちを容赦なくぶち壊している。双子はアリーナの手によって頭やアームが外れ床に転がっていく様を呆然と見つめ、それから顔を見合わせていた。

 演奏を終えたリュミエールがあっと小さな声を上げた。彼の身からサクリアが解放され、輝く神鳥へと取り込まれていく。
 次にオスカーとクラヴィスの身からもサクリアが放たれ、それもまた神鳥へと取り込まれた。
「わ、わたくしのサクリアが……?」
「な、何だ!?」
 リュミエールとオスカーの想定外といった様子の声をよそに神鳥が大きく羽ばたき、目が眩むほどの光量で輝きを放つ。

 それと同時に仲間モンスターたちが一斉にもがき始めた。
「う、あああぁぁぁぁああああ!!!」
 聞いたことのない声量で絶叫する彼らに、彼らを知る者たちはその場に凍り付く。

 そして、神鳥から放たれた光は守護聖たちを包み込む。
 一人一人の胸の前に、心臓と同じ程度の大きさで神鳥宇宙の紋章が現れた。
 調和をベースに、光と闇、それに水のサクリアが混じっている。
 しっかりと見覚えのあるその紋章にルヴァは驚き、そしてそうっとそれに触れてみる。脆い細工物のように砕け散るかと思われた紋章は、ほんのりと温かい。
「陛下……」
 指先に春の日差しのような温もりを感じた途端、優しい光は胸に溶け込んで消えていった。
 身近になったサクリアの気配に、ゆるりと緊張が解ける。ルヴァの行動を見ていた他の守護聖たちも次々と紋章に触れ、自ら取り込むように胸に手を当てる者もいる。
 落ち着きを取り戻したオスカーとオリヴィエがどちらからともなく視線を合わせ、にやりと口角を持ち上げた。
「陛下の加護、か。遠隔とは恐れ入る」
「まったくだよ。でも、他のサクリアもあるよね。あんた含め」
 わたしから皆さんへ────と言っていたことを思い出し、戻った暁には「どの辺がこんなこと『くらい』なの」と言ってやろうと思い、オリヴィエは小さく肩をすくめた。そしてこちらが落ち着いたら、頑張り屋の彼女と補佐官がゆっくりと眠れるように、こっそり夢のサクリアを送ろうと決めた。

 あれほど叫びもがいていた魔物たちは、全員がまるで憑き物が落ちたような顔で立っていた。
 彼らの体にも淡い光の衣が見える────光と風、そして炎のサクリアをも仄かに纏わせて。

 不安げに眉を寄せたリュカが、呆然としているピエールたちへ声をかけた。
「皆、大丈夫か」
「は、はい……何か、例えるなら脱皮のような、妙な感覚がしておりました」
 ピエールの言葉にバトラーが大きく頷き、言葉を続ける。
「体の外側が爆発するかと……一体何だったのか。今は力が溢れてきましたな」
 ほっとした様子でプックルの首周りを撫でる。
「プックルは? もう平気?」
 ゴロゴロと喉を鳴らしながらも、今しがた起きたことを説明し始めた。
「ああ……天使の歌が聴こえたと思ったら、バイキルトを重ね掛けしたみたいだ。体が熱くてかなわねぇ」
 魔物たちそれぞれが体を動かし違和感がないかを確認する中で、それを穏やかに眺めていたルヴァが口を開く。
「どうやら私たち守護聖とあなた方だけ、ご加護に与ったようですねえ」