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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 呆けた様子でピエールが呟き、他の面々はただただ呆然と見つめる中で、ルヴァだけが眉間にきつくしわを寄せ叫んだ。
「……アンジェ! 下がって!」
 難なく全体攻撃を仕掛けてくる強敵の前に、たった一人立ちはだかる恋人を見ていられないルヴァは即座に駆け寄ろうとして、オリヴィエとオスカーに止められた。
 無言で肩と腕を押さえ込まれ、振り解こうにもびくともしない。
「なんっ、で……止めるんですか……っ!」
 体を精一杯アンジェリークの方へ寄せながら、押さえる二人にきつい眼差しを向けた。
 オリヴィエは「誰も失わせない」との言葉を思い返し、無茶をしようとするルヴァを諭す。
「だめだってルヴァ。陛下が泣いちゃうから、行かせないよ」
「あんなものに一人で立ち向かってるだなんて、見ていられませんよ! 離してください!」
 ルヴァの懇願にも首を横に振り、隣でオスカーが口を挟む。
「女王陛下のお考えがあってのことだ、俺たちは下手に手出ししないほうがいい。ひとまず様子見だ」
 力技で止めているのは八割がたオスカーとオリヴィエの功績ではあったが、三人の前に立ち背中全体で物理的にルヴァを食い止めていたクラヴィスが話し出す。
「行っても無駄だ。見てみろ」
 言われた内容に冷静さを取り戻し、よくよく見れば白い翼の先が薄く透けていた。
「……具現化……?」
 気が抜けたルヴァから力みが取れたのを確認し、二人は押さえていた腕を解く。
「大陸に降り立つのと同じく、あれも精神体だろう」
 心配は要らないと続けたクラヴィスの説明に、今度はオスカーがふむと唸った。
「今度は遠隔操作からのご登場ってわけか……」

 ────亡者がこの世で何を為せますか。然るべき場所に還りなさい!

 ゾンビナイトたちの前で一喝した言葉を思い出したプックルが、嬉しそうにふにゃおんと鳴いた。
 今の彼女もまた、あのときのように毅然と立ち向かっている。いきいきと美しく芽ぐむ森の瞳で。

 赤子だったものの周囲に、こぶし大の光が幾つも集まり始めた。
 見覚えのあるそれに、一同は一斉に身構える。
「アンジェ…………!」
 敬称をつけることすら失念したルヴァの、悲痛な叫びが響く。
 再び彼女の元へ駆け出そうとする地の守護聖に、オスカーが小さく舌打ちをする。
「……だから様子見だと言ってるだろう!」
 不承不承の様子で、オスカーは背後からルヴァの首に腕を回す。その姿はまるで人質である。
「オスカー、何をするんです! 離し……ぐぇっ」
 わざとらしく太い腕に絞められた。
「まだだめだ、解放したらすっ飛んでいくんだろう? 暫く拘束するからな」
 アンジェリークは赤子の攻撃体勢にも微動だにしない。ゆっくりと振り返り、守護聖たちへと目を落とす。
「少しずつ、くださいね」
 いつもの声音でそう言うと、手のひらの上に風のサクリアが集まった。
 球状に集まっている風のサクリアを見て、守護聖たちは何事かと目を瞬かせる。
 風のサクリアの周囲に今度は光と鋼のサクリアが浮かび、それらも一つに纏まる。
 アンジェリークが指揮者のような動きで揃えた指先をちょいと動かすと、オスカーとルヴァの体からサクリアが溢れた。
 強制的に引き出されたサクリアはアンジェリークの手の上へ並び、それから他のサクリアに溶け込んでいく。

 集めたサクリアで何かをするつもりのようだ、と皆が固唾を飲んで見守る中、赤子の周囲の光が無数の矢となってアンジェリーク目掛けて襲いかかった。
「アンジェ、逃げてください!」
 すっかり青褪めた顔で叫ぶルヴァを筆頭に、守護聖たちからも次々と「陛下!」「逃げて!」と声が飛ぶ。

 眩い閃光が辺りを照らす。
 バチバチと爆ぜる音が続き、光の矢は地面へと突き刺さっていく────赤子の側へ。
 攻撃の結果を知っている守護聖たちは一瞬身を竦ませて、それからすぐに目を丸くした。
「……!?」
 呆気に取られぽかんと口を開けている守護聖が数名────先程赤子を弾いたのと同様、光の矢も全て弾き返していたせいだ。
 じっとそれを見ていたクラヴィスが呟く。
「結界か……」
 そんな攻撃を前にしてもアンジェリークは全く意に介さず、作業を続けていた。
 集まったサクリアが一つに纏まって強く輝きを放ち、ソロチーム、リュカチーム、守護聖チーム全てに、淡い光が降り注いだ。
 体を包む青い光に視線を縫い留めたソロが、片眉を上げた。
「これって……」
 意見を求め、視線がクリフトへと移る。
「紛れもなくスクルトですね。あの方が異世界の女王様ですか……」
「華奢な天空人にしか見えねぇのにな……いやまぁ綺麗だけど、随分若くねぇ?」
「姫様と近いお年頃に見えますが、何だか妙な貫禄が……」
 ソロとクリフトが話している近くで、ピエールが兜の下で頬を紅潮させていた。
「天使様のスクルト……範囲が随分とお広いですね、リュカ様!」
 興奮の色を帯びた声音に、同意を求められたリュカがくすりと笑う。
「そうだね。ルヴァと同じく、サクリアの使い方を覚えたのかな」
 これ程心強いことは早々ない、と口角が自然と持ち上がる。
 だが、アンジェリークの動きはまだ止まる気配がない。
 再び風のサクリアが手のひらの上に現れ、アンジェリークが指先でサクリアを呼び出すと、クラヴィス、リュミエール、マルセルのサクリアがそれぞれ解放され、それらが一つに纏まった。
 サクリアの塊はぱんと弾けて一行に降り注ぎ、光の衣となった────フバーハだ。

「小娘如キガ、要ラヌ介入ヲ」
 赤子だったものが苛ついた口ぶりで言い放ち、すぐに凍てつく波動が襲い掛かる。
 アンジェリークは片手を腰に当て、小首を傾げた。
「あら、無駄よ」

 可愛らしい声と仕草で発された言葉の意味に、一行はすぐに気付いた。
 最初に口を開いたのはピサロだ。
「……消えていない……!?」
 凍てつく波動に飲み込まれても、スクルトとフバーハの効果が切れていなかった。
 本来なら打ち消されるはずの淡い光が、一行の体にそのまま残されている。

「ドウイウコトダ……?」
 霧状の闇から、低いしわがれ声が漏れ聞こえた。
 想定外だったのか、少しの動揺を感じ取ったアンジェリークがにこりと笑んだ。
「わたしたちのサクリアは本来、この世界の源泉とは違うものですから」
 手短に説明する内にすうっと笑みが消え、声が僅かに低められた。

「────そちらのルールでは消せないわ」

 アンジェリークの声に皆が黙り込む中でぶはっと誰かが吹き出して、一同の視線がそちらへと移る────笑い出したのは、勇者ソロだ。
「マジかよ、すげーな!」
 笑いを堪え切れずに目尻を拭いながらそう言うと、天空の剣を肩に乗せてアンジェリークを見上げた。
「なあ、女王サマ。ついでにバイキルトもしてくんない? あいつ倒すからさ」
 顎をしゃくって敵の方向を指し、ニッと強気の笑みを浮かべるソロ。
「そうね、やってみましょう。うちの守護聖たちがお世話になってますから」
 綺麗に口角を持ち上げて快諾した途端、マーニャがぱちりと指を弾いた。
「やった、話の分かる女王様ねー! さっすが!」