二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに2

INDEX|200ページ/213ページ|

次のページ前のページ
 

 姉がふふんと上機嫌で髪をかき上げている横で、ミネアはぼそりと呟く。
「……ガーデンブルグの女王とは一線を画しますね、主に愛想の面で」
 低めに発された言葉に、ライアンが苦笑しながら窘める。
「ミネア殿……それは秘するべき一言でしょうな、不敬ですぞ」
「牢屋に入れられそうになったことは一生忘れませんから」
 彼女にしては早口で捲し立て、それきりツンとそっぽを向いていた。
 回復役は必要だからとトルネコが庇ってくれたが、共に人質候補に挙がっていたことをミネアは未だに根に持っている。そんなミネアにライアンはやれやれと肩を竦めたが、群青の瞳は再度アンジェリークを見上げる。

「うまくいくといいんですけど……」
 少し眉根を下げたアンジェリークの片手に、爽やかな青色のサクリアが浮かぶ────風のサクリアだ。その次に光と鋼のサクリアが並んでは瞬く間に重なっていく。
 今度は冷静な眼差しで注視しているルヴァが、ある法則に気付く。
(……風のサクリアをベースにしている……?)
 再び揃えた指先がサクリアを呼び出し、観察していたルヴァの体が淡い緑に輝く。
 オスカーのサクリアも同時に解放されており、これで揃えられたサクリアは風、光、炎、鋼、地。
(先程神鳥から魔物たちへ託されたサクリアは、光と風と炎。今度は五つに増えている……そして、スクルトとバイキルトに選ばれたサクリアはどちらも同じ)
 それが何を意味するのかルヴァの関心は尽きず、少しも目が離せない。
 ふと手元から視線を上げたアンジェリークと目が合った。
 柔らかく細まる翠の瞳を見つめ返し「頑張ってください」と小声で声援を送る。

 アンジェリークの手の上で一つに纏まったサクリアが弾け、仲間たち全員の足元から優しい輝きが体を包み込む。バイキルトの重ねがけになるのではと思われた魔物たちも、サクリア経由の力に慣れたのか、皆平然としている。
 その間に赤子だったもの────闇の霧の周囲に、キラーマシンが二機現れた。
 静観していたブライが呟く。
「出おったな」
 機械系の魔物は見慣れない。今のところ物理と炎以外に有効な手立てはないらしいと判断し、闇の霧へ狙いを定めることにした。
 氷柱の攻撃を駆使していたが、氷の刃での攻撃が効いていたことを鑑みても、得意のマヒャドが効くかどうかは未知数────効けば良いが、と思いつつ唱えた氷系上位呪文、マヒャドが猛威を振るう。
 足元を這う青い冷気が闇の霧を包囲した矢先、立て続けに巨大な氷柱が襲い掛かり、敵の逃げ場を潰すように最後の一本が中央の空白を塞ぐ。
 小さな羽虫の集合体のような霧が散り散りに離れ、戻ってくる。その速度はやや遅く、それなりにダメージを与えられているようだと判断した。
「ふん、大人しく消え去れば良いものを!」
 そう毒づく近くでは、同じく氷系の呪文を会得しているポピーが目をまん丸に見開いて、ブライに尊敬の眼差しを送っていた。
「ブライ様、マヒャドの威力がわたしとは桁違いです……! 凄い……!」
 高度呪文の使い手としては年若いマーニャのほうが褒められる機会の多かったブライは、羨望の視線に照れ臭さを感じつつ、誇らしげに胸を張る。
「年の功、と言っておこうかの?」
 このとき毒舌家ブライの胸中では、ポピーについて「賢く気立ての良い娘だ」と評価が鰻上りになっていたことは、当人以外誰も知らない。
 その隣ではミネアが銀のタロットを取り出し、手際良く切り混ぜる。幾度かシャッフルを繰り返して選び出した一枚、悪魔のカードが怪しく光る。
 闇の霧とキラーマシンたちの守備力を下げるルカナンが発動したことで、ミネアがほっと息を吐く。
 クリフトははぐれメタルの剣でキラーマシンへと果敢に斬り掛かっていく。ガンと大きな音を立て、端正な顔が思い切り歪む。
「か、ったいですね!」
 手が痛いとぼやきながら、照準を定めてきたキラーマシンのモノアイから即座に遠ざかるが、その間に発射されたボウガンが二の腕を貫いた。
「……っ!!」
 もう一機もクリフトを狙い、激しく斬りつけて来た。
 ボウガンの威力に数歩よろけたところへ、キラーマシンの曲刀が打ち下ろされる。的確に首を狙う動きに、咄嗟に盾を構えた。
 激しい金属同士のぶつかり合いで火花が飛んだ────アンドレアルの尾に弾かれたときに似た重い衝撃に、クリフトは両足を踏ん張って耐えたものの、競り負けて踏ん張った姿勢のまま後方に押し流されていく。スクルトの効果があってもなお酷いダメージを喰らい、クリフトの額から汗が一気に噴き出してくる。
「……異様な強さですね……」
 と言いつつも、視線は先程このキラーマシンを壊していたアリーナへと向かった。壊し甲斐があったのか、どこか楽しそうに再びキラーマシンへと飛びかかっているのが見える────若干瞳孔が開いていた気がするのは見なかったことにした。
 続くライアンはキラーマシンの脚部分を狙う。動きを止められれば後々の戦闘が楽になると踏んでの攻撃、重剣が風を切る。
 脚の関節部分へ当たり、みしりと軋む音がライアンの耳に届いたところですぐに引き上げる。既に二回攻撃をしてくることは学習済み、反撃を喰らいにくい位置まで退避した。
 一連の攻撃を見ていたオリヴィエが、ぱきりと指の関節を鳴らす。
「へえ、皆やるねぇ……こっちも頑張らなきゃ」
 そう言って身構える隣で、ルヴァとオスカーも同じく挑戦的な表情になっている。
「こちらも行きましょうか……陛下のご加護がある内に」
「俺とオリヴィエはあっちの機械を狙うか?」
 声を顰めて話すオスカーへ、ルヴァも同じトーンで返す。
「キラーマシンは打撃と炎が効果的、呪文は効く範囲が狭いそうですよ」
 肩掛け鞄からオロバスをちらりと見せて、微かに笑う。いつの間にか敵の弱点を調べていたルヴァへ、オスカーがにやりと笑みを返した。
「もう調べたのか、便利な本だな」
 オスカーの言葉に、オリヴィエも深く頷く。
「本好きの本領発揮。ちゃっかりしてるわー」
「言えばすぐに調べてくれるので、とても助かりましたよー」
 へへへと嬉しそうに笑うオロバスは、今は大人しくしているように言われているのか、そのまま鞄の中へ引っ込んでいった。
 意思疎通のできる書物の魔物オロバスは本好きのルヴァにはやはりぴったりなペットに思え、オリヴィエはせり上がる笑いを噛み殺しながらも改めて戦況を確認する。

 ライアンが攻撃を終えて退避した直後、キラーマシンの反撃で斬り付けられている。
 盾がなく直に攻撃を喰らったライアンだったが、致命傷にもならず冷静に後退している。体力のあるライアンだからできることであったが、その頑丈さに感嘆の溜息をつき、きつくキラーマシンを睨みつけたオリヴィエがすぐに駆け出していく。
 懐に飛び込み、刀身が美しい軌跡を描いてライアンが攻撃した箇所を狙い撃ちした。 既に作られていた窪みに沿うように、誘惑の剣が叩き込まれる。ライアンの人並外れた力で作られた打撃痕は、キラーマシンの硬い金属をひん曲げて少々の破れまで引き起こしていたためか、オリヴィエの渾身の一撃でどうにか関節を破壊できた。