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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 占いでは破壊や破滅を意味するカードだが、次はどんな効果をもたらすか────そう考えてすぐ、クラヴィスの体から光が迸る。それは天を貫いて雲を割り、代わりに低く垂れ込める暗雲をかき集めた。
 稲光と共に降り注ぐ激しい雷が敵全体を襲う。
「ほう……成る程な」
 地面へと突き刺さる強烈な光に目を細めながら、クラヴィスは独り言ちる。
 ミネアからあまり頻繁に使用しないようにと忠告されていたが、今のところはこれといった問題はない。
 雷に貫かれた魔物たちが、断末魔の叫びを上げながら砂と化していく。
 その中で生き延びたライノソルジャーが、タロットを袂にしまいこんでいたクラヴィスを睨みつけ、勢い良く突進してきた。
「クラヴィス!」
 体格の大きなライノソルジャーは、一歩も大きい。すぐにクラヴィスを狙える距離まで詰め寄っているのが見え、咄嗟に叫んだルヴァが理力の杖を振り上げる。
 振り下ろして白刃が飛ぶ直前、ライノソルジャーの背後に迫る影が一つ。
 そこら中を燃やし尽くす炎よりも一際鮮やかな赤い髪を風に任せ、オスカーが素早く斬りかかった。
「往生際が悪い!」
 オスカーの一撃がとどめになり、ライノソルジャーはどうと倒れ込む。
 持っていた武器の先が、クラヴィスの爪先付近にまで届いていた。

 倒れたライノソルジャーの頸動脈を斬る念の入れように、それをじっと見ていたマルセルは息を飲んだ。
 いつも軽口を叩いている唇は今きつく引き結ばれ、揶揄う時に柔らかく解ける眼差しもない────些細なトラブルはあれど平和な聖地にて、まず見ることのない彼の軍人たる一面に改めて驚いていた。勿論それは、現在前線で戦っている守護聖たち全てに言えることではあったが。
 思わず麻袋をぎゅうと抱き締める。
 思いの外強く抱きついたせいか、中から「ぐえっ」と声が聞こえ、マルセルは慌てて腕の力を緩めた。
「あっ、ご、ごめん」
 袋の中からスラリンが声を出す。
「びっくりしたー」
 再度謝るマルセルの前に、ホミレイの触手がにゅうっと伸びてくる。
「どうしたのー?」
 幼い声と共に何かを探すような動きを見せている触手へ、マルセルは自分の頬をくっつける。
「ううん、何でもないよ。驚かせてごめんね」

 それからも隙間という隙間を埋め尽くすように続々と現れ続ける敵の群れを、アイスブルーの双眸は睨み据える。その形のいい唇からは小さな声が漏れた。
「くそ……まだまだ増えているな」
「雨後のタケノコみたーい」
 ケラケラと笑うオリヴィエの言葉のせいで、オスカーはがくりと肩を落とす。
「おいこらオリヴィエ、茶化すな」
 ふ、と鼻で笑うオリヴィエだったが、その眼差しは相変わらず険しい。
「茶化しでもしてないと、やってらんないって」
「それは一理ある」
 二人の視界の向こう側には、闇の霧と相対したままのアンジェリークが見える。
 そこへ天空人が一人、槍を携えて向かっていく。
 舞い上がりアンジェリークと何か会話をしていたが、すぐに翻って闇の霧へと攻撃を仕掛けている。
 その様子に暫し注視していたオスカーの耳に、オリヴィエの声が飛び込んでくる。
「オスカー! 右!!」
 はっと意識を取り戻したオスカーは、右前方から襲いかかってきたガイコツ剣士の剣を下から受け流す。そのまま剣戟を繰り広げ、互いの体に傷を付け合っていく。
 オスカーの剣は一体、二体と敵を切り裂き、薙ぎ倒す。
 受けた傷の深度はそう深くない。だが敵の数が多すぎる────オリヴィエがちらと見回しても、敵の多くがオスカーを囲み始めていた。仲間を倒された怒りが、余計に彼らをいきり立たせているのだ。
 オスカーを取り囲む魔物たちへ、オリヴィエが斬りかかる。
 致命傷を与えられはしなかったものの、機械的な悲鳴を上げたガイコツ剣士が剣を取り落とした。何かに怯えた様子で走り回り、別の魔物に激突している────オリヴィエは知らずにいたが、誘惑の剣には僅かながら毒が添付されており、傷口から入り込んだ毒が神経を侵して混乱に至る。
 このガイコツ剣士も、それで錯乱したものと思われた。それをじっと見ていたルヴァも続いて詠唱を叫ぶ。
「来たれ、幻惑の陽炎(かぎろい)!」
 発動されたマヌーサの魔法陣が、敵一帯を包み込む。
 靄が一瞬彼らの視界を奪い、かき消えた。だが魔物たちの視界には異常が起き始めたようで、誰もいない空間をひたすら攻撃する者、キョロキョロと見回して戸惑っている者など様相は様々だ。
 攻撃が当たりにくくなり、オスカーの攻勢は益々激しくなった。
 彼に恋慕する女性たちが見たら卒倒しそうな程の恐ろしい形相で剣を振りかぶり、打ち下ろす。ときに腕や足を使い突き刺さった剣を引き抜いて、再び打ち下ろす────幾度も繰り返される殺戮。
(大丈夫だ、俺はまだ、動ける……!)
 バイキルトの効果もあってか、無数の巨体の中を駆け抜け、息すら上げずに動き回っている。
 既に四方を囲まれているオスカーに、逃げ道はない。苛立ちに舌打ちする間も無く、ただひたすら襲いかかってくる敵へと剣を向け続ける。
 ライノソルジャーの斧が肩を掠り、鮮血が滲んだ。
 拙い、と思ったときにルヴァの声が聞こえてくる。
「オスカー、伏せてください!」
 妙にはっきりと耳に届いた声に従い、姿勢を低くする。
「爆ぜよ、閃爍(せんしゃく)の星!」
 一瞬の静寂の後、イオナズンの爆音が鼓膜を揺さぶる。苛烈な爆風と光の洪水に飲まれながら、オスカーは薄く開けた目で辺りの様子を窺う。
 爆発に巻き込まれた多くの魔物たちは跡形もなく吹き飛び、残った者たちは体の半分以上を失い、悲鳴を上げていた。
 そして魔物たちの恨みの視線は、彼らの殆どに大ダメージを与えたルヴァへと集まった。ルヴァは魔物たちの攻撃をどうにかかわしつつ、冷静に次の詠唱を唱える。
「はやてかぜ、刃となれ!」
 青い光を纏った風が、辺り一体を吹き抜けていく。
 バギクロスの大きな竜巻が、辛うじて生き延びた魔物たちを切り裂き、巻き込みながら遠ざかる────悲鳴はもう、聞こえなくなった。
「なんとか、なりましたかね……?」
 位置のずれたターバンを直しつつ呟いたルヴァ目がけて、闇の霧が襲い掛かった。
「貴様、目障リダ……!」
 しわがれた声が響いた直後、投網のように大きく広がりルヴァを飲み込もうとする。
 咄嗟に理力の杖を振り上げた途端、背後から半透明の細い腕が伸びて、両肩を包み込まれた。
 何事かと思う間も無く、夥しい光に目を開けていられない。
 閉じた瞼の外側でばちんと大きな音がして、ルヴァは細く目を開けた。肩越しに見慣れた小さな手が見える。その薬指には、青い宝玉が輝くルヴァと揃いの指輪────片手でガードしていたのは、紛れもなくアンジェリークだった。
「あなたには、あげないわ」
 大きく広げた翼が、きらきらと黄金色の煌めきを振り撒いている。
 それは繭のように優しくルヴァを包み込み、言葉通り「誰にも渡す気はない」と告げているかに見えた。
 手のひらに集まっていたサクリアは、光、風、緑。魔性を消し飛ばす光のサクリアに、闇の霧はそれ以上近付けずに後退を余儀なくされていたらしい。
「アンジェ……!」