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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 間近に見る恋人の存在に、さっと頬が紅潮するのを隠し切れない。
 実体よりも淡く透ける翠の瞳が弧を描き、桜色の唇が小さく動いた。
「そろそろ、元に戻る時間なの。後はお任せしても大丈夫かしら」
 闇の霧の動きをちらと確認しながら、ルヴァは頷きを返す。
「ええ、勿論ですよ。お任せください」
 時代を隔てて会えずにいた寂しさが、ルヴァを突き動かす。
 ふわふわと舞っている金の髪に手を伸ばし、触れられないまま指先を握り込む。それからエスコートよろしく片手を差し出したところへ、アンジェリークはすんなりと手を重ねる。
 実体はないが目に見える手の甲へ、そっと唇を落とした。
「……会えて嬉しかったですよ」
「わたしも。頑張ってくださいね」
 微笑み合う二人の甘い空気に、リュカが笑いながらヤジを飛ばす。
「お二人さーん! 今戦闘中ー!!」
 闇の霧以外の魔物が一掃されたことで、手持ち無沙汰になった一同からも笑いが起きた。
 一同からの視線が集中し、アンジェリークの白い頬が瞬時に赤く色づく。
「ご、ごめんなさい。あの、わたし、そろそろ戻りますね」
 ルヴァの守護霊のように見えていたアンジェリークが、ぱっとその場を離れた。
「あ、最後に、これだけ……!」
 アンジェリークの手の上に、風、闇、水、緑、夢のサクリアが並んだ。
 こちらにいる四人の体からサクリアが強制解放されたが、もうすっかり慣れてしまった感覚に誰一人として違和感を訴えはしなかった。
 一つに纏まったサクリアは大きな光と共に仲間たちに降り注ぎ、大小問わず傷をたちまち癒した。
 一仕事終えたと言わんばかりにふうと息をついたアンジェリークが、一人一人丁寧に目を合わせる。
「皆さん、どうか無事に戻ってきてくださいね」
 頭を下げたアンジェリークの輪郭が緩く解け、神鳥の姿に戻った。

 再び大空へと舞い戻った神鳥を茫然と見送り、ソロが呟きを漏らす。
「……魔力も完全回復してんだけど」
 バイザーを上げて同じく空を見上げていたライアンも、ソロの言葉に続く。
「あれは女神……ではないのか……?」
「なんかすっげーな、色々と……」
 規格外と言いたげな二人の言葉に、元の姿に戻っていたポピーがくすくすと笑う。
「アンジェ様はマスタードラゴンより魔力があるって、わたしのお師匠が言っていました」
「うん……信憑性あるわー……」
 敵が消えて少しつまらなそうに指先で髪を弄っていたアリーナが、言葉を繋いだ。
「ま、そんな凄い人が味方ってのはいいことじゃない。なんかよく分からないけど」
 アリーナの背後に付き従っているクリフトも、同様に頷いている。
「我々にはまだ余力がありましたが、ここで回復があるとないでは大違いですからねぇ」
 それへ小さく首肯しつつ、ブライは未だ上空に浮かぶ闇の霧への警戒を怠らない。
「あの得体の知れぬものを片手で弾き返すとは、なかなか見た目によらぬお方のようですな」
 ソロとクリフトも敵の動きを監視しつつ、ブライの発言に頷く。
「声も顔も女王様って感じ、ないのになー」
「こちらにはなかなかいないタイプでしたね、ブライ様」
「程良い上品さでしたな。姫様も是非見習って────」
「なんか言った? ごめんよく聞こえなかったわ。もっかい言ってくれる?」
 半目でバキボキと指を鳴らしながら告げられた言葉に、ブライはぐっと押し黙った。
 ふいと視線を逸らしたブライへ、ポピーが苦笑しながら声をかけた。
「……ブライ様、それは言っちゃダメですよ……」

「下ラヌ」
 忌々しげに吐き捨て、闇の霧周辺の空気が凍てつき始める────輝く息が再び一行を襲う。
 オリヴィエがすかさずバトラーの陰に隠れ、ブレス攻撃のピークアウトを待ってから攻撃を仕掛ける。その直前、バトラーが片膝をつき、ちらとオリヴィエにアイコンタクトを送る。その意味に気づいたオリヴィエは軽やかにバトラーの膝を足掛かりに背へと飛び上がり、そこから跳躍して切り掛かった。
「何度も何度も、おとなしく待つ訳ないでしょ!」
 誘惑の剣が闇の霧を二つに割き、そのまま着地する。
「伏せろ!」
 ニイッと頬を釣り上げたバトラーが叫ぶ。着地した姿勢からするりと屈み込むオリヴィエの頭上を、灼熱の炎が通り過ぎていった。
「あっっっつ!!!!」
 日頃の手入れを欠かさない美髪から、少し焦げ臭い匂いが漂ってくる。
 頭頂部を手でさすりつつオリヴィエはバトラーへ非難の目を向けたが、バトラー自身は全く意に介していなかった。
 続いてソロのギガスラッシュが炸裂し、アリーナやマーニャも意気揚々と攻撃を仕掛ける中、その様子をピサロは冷静に眺めていた。
 鉛色の空にじわりと広がる、まるで黒い染みのような霧。
 骨肉も枝葉もない霧状の集合体は、一行の攻撃を受けて僅かながらその範囲を狭めている。
「少しずつ、霧散しているか……?」
 単なる独り言だったそれへ、答えを返す者がいた────カカシュだ。
「……そのようだ」
 斜め後ろに立つ気配に、ピサロは柄を握る手に力を込める。
「いつまでその姿でいるつもりだ? 人間は誤魔化せようと、私には分かるぞ」
 棘のある言葉への返答は、暫しの沈黙を経て返された。
「元の姿には戻れぬ。今は、まだ」
「おまえの都合など知るか。とっとと出ていけ、目障りだ」
 ピサロはにべもなく言い放ち、カカシュに一瞥をくれることもなく地面を蹴る。
 カカシュの視線の先では、ピサロの淡く紫の光を帯びた魔界の剣が闇の霧を鮮やかに裂いていた。

 攻撃を受ける度に闇の霧が収縮し、空中でどろりと垂れ下がる。そのまま落下した液状の塊が地面を溶かし、白煙を上げた。
 酸を多く含んでいるらしき液体へ、ルヴァは黙したまま視線を縫い留める。引力に逆らわずぼとりぼとりと垂れ落ちてくる姿に、既視感があったからだ。
(聖地に現れたものと、酷似していますが……これは、どういう……)
 そうして灰を混ぜた色味のそれは全て地面に落ち、白煙を上げる塊は次第に泡立ってくる。
 天空の剣で肩をトントンと叩きながら見ていたソロが、口をへの字に曲げた。
「……なんかバブルスライムみたいだな」
 近くで聞いていたリュカが話を繋いだ。
「ぼくには、ドロヌーバに見える」
 ソロの片眉が持ち上がる。
「何それ。魔物?」
 聞いたことのない名前を耳にして、ソロはきょとんとしている。
「ああ、うん。それもこっちにはいない?」
「聞いたことない」
「まあジェリーマンみたいな……って、そっちもいないんだったね、ごめん」
 そんな会話をしている間に、オリヴィエが塊を指差して叫んだ。
「頭出てきてない!?」
 沸騰と言っても差し支えなさそうなほど、ぼこん、ぼこんと波打つ汚泥の塊。一際大きく波打って盛り上がったところから、巨大な目玉がひとつ現れた。
 気忙しくよく動く眼球に一同が固まっている中、ピサロが真っ先に斬りかかる。魔界の剣で真っ二つに割かれても、二つの塊は緩やかに集合し、元に戻った。あまりの手応えのなさにひとつ舌打ちをしたピサロが飛び退き、次に雷を放った。四方に飛び散ったそれらは、地面を這いずり集まっていく。