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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 今度はティミーがギガデインを放とうと、汚泥の手前にいるピサロへ声をかける。
「ピサロさん、下がってて!」
 轟音と共に落ちてきた雷が眩い光を放出し、一同は目を細めている。
 辺りに焦げ臭い匂いが充満したが、黒焦げになった汚泥は再び四散し、またしてもゆっくりと戻っていった。
「だーめだ、効いてない」
 残念そうに唇を尖らせたティミーへ向け、マーニャがからからと笑う。
「あら、分からないわよ? 一応焦げてるんだから、火力爆上げでいけるんじゃない?」
 そう言って口角を上げたマーニャの頭上には巨大な火球が浮かび、すぐに汚泥を飲み込む。
 派手な衝突音とともに火の粉が散る中、マーニャはじっと目を凝らす────が、他の攻撃と同様に、ただ四散しただけに終わった。
「やーだ、こっちも効いてないわ」
 鼻の頭に皺を寄せてぶすくれていたが、広げた扇で顔を隠した。
 一行の攻撃の手がやみ、塊は寄り集まって元の姿に戻った。
 その後出現した二つめの眼球は最初のものより小さめで、そちらは頭部と思しき汚泥の中を魚のように泳ぎ回る。粘度の高い汚泥の塊は沸騰した湯、若しくはメタンガスの発生地にも見え、不気味さを醸し出していた。
 打撃、雷、炎の攻撃が無効化されたが、今度はポピーが小さく詠唱を始めた。
「凍ってくれればいいですよね────マヒャド!」
 氷柱に貫かれた塊は四散したものの、それぞれが氷の中に閉じ込められた。
「どう、かな」
 固唾を飲んで一同が見入る。
 が、じゅうと音を立てて氷が溶け、四散したものは先程と同様の結果をもたらした。
「これもダメかー、残念」
 がっくりと肩を落とすポピーへ、ブライが首肯してみせた。
「効かぬと分かったなら新たな手がかりを得たということ。気を落とさずとも良い」
「ブライさま……」
「威力もなかなかだった。良い使い手ですな」
 珍しく手放しで褒めたブライを、珍獣を見る目つきでアリーナとマーニャが視線を向け、次々に喋り出す。
「ブライが優しい!」
「お爺ちゃん毒付かない!」
 ねー、と顔を見合わせて言い合っている二人を、ブライ含め周囲は苦笑していた。

 ふと何かに気付いたルヴァがスンスンと匂いを嗅ぎ、それから片手で口元を押さえ考え込む。
(……硫黄臭……?)
 鼻先を一瞬掠めた、卵の腐ったような匂い────温泉地で嗅ぐものとよく似た異臭に、脳内で警告音が鳴り響く。
(何か、嫌な感じが)
 ぐるりと周囲を確認してみても、この匂いに気づいた様子の者はいない。単なる考えすぎかと首を捻り、ふうと息を吐く。
 周りの様子を伺っていたオスカーがルヴァへと話しかける。
「攻撃を弾いているようだな」
「ええ……打撃にも呪文にも、これといった反応はありませんねえ」
 ルヴァの言葉を聞きながらオスカーはハンカチを取り出している。
「おとなしいなら今のうちにと思ったが、どうしたものかな」
 顔周りの汗や汚れを拭き取っていたオスカーへ、ルヴァは話を切り出す。
「……オスカー。こちらへくる前、ラインハットの汚泥を覚えていますか」
「ん? ああ、覚えている。陛下とロザリアが調子を崩したときのだろう?」
「そうです。あれをよく見てください……似ていませんか、あのときと」
 手にした理力の杖で汚泥の塊を指し示す。
「似てはいるが……」
「聖地であなたが退治したときのも、あれと酷似しています」
 僅かに声を上擦らせたルヴァへ、オスカーは真顔で首肯する。
「同一個体か。それとも同種族か」
 険しさを増したオスカーの表情を前に、青灰色の瞳は冷静さを保ったまま瞬きを繰り返す。
「分かりません。ですが、その可能性も見えてきた、と言ったところです」
 話している最中にルヴァの肩がずしりと重くなった────オリヴィエだ。
「それで〜? ルヴァの見立ては?」
 オリヴィエも話を聞いていたらしく、ルヴァの考察を問いかける。
「今まで出くわしたもの全てが体のごく一部で、あの様子だと仮定すると……相当厄介な敵でしょうねぇ」
「……」
 オスカーとオリヴィエが同時に黙り込み、小さなため息が聞こえた。
 自分たちは途方もないものを相手にしているのでは────との思いが湧き上がり、二人の声を奪い去る。
「ジェリーマンが人の姿を擬態する途中、ちょうどあんな感じでしたね」
 湖の塔で見た女たちの姿を思い返していたルヴァに、オスカーが口を挟む。
「だが、ジェリーマンは赤かったぞ」
 天空の剣の効果で、擬態を解かれたジェリーマンがオスカーの頭に浮かぶ。真っ赤なヘドロと言ってもいい気味悪さだったのを覚えている。
 顎に指先を当てて考え込んでいたルヴァが、おもむろに口を開いた。
「近縁種、突然変異────進化の、秘法」
 躊躇いがちに出てきた最後の言葉に、二人はうんざりとした顔になる。特に眉間の皺を深めたオスカーが両肩を竦める。
「またそれか……切っても切れないのか、その進化の秘法とやらは」
 やれやれと言いたげな口ぶりと仕草に、ルヴァは微かに笑って話を繋げる。
「過去……この時代からリュカたちの時代まで続く災禍であり、人災とも言える業の側面もありますからねぇ。調べた限りでは」
 かつてマスタードラゴンが言っていた、いずれ第二第三のミルドラースが現れると言う意味────ここへ来てそれが現実味を帯びてきたようにも思える。書物に記された範囲で分かることですら、人々の欲深さとそれに付け入る魔性の存在に辟易としたルヴァは、小さく下唇を噛み締めた。

 口を閉ざしたオスカーとルヴァの代わりに、オリヴィエがふうんと相槌を打って話し出す。
「仲良く縁繋ぎってことねー」
 三人の視界の先では、汚泥の広がる中央から大小の目を血走らせた頭部らしき塊が着々と形作られている最中だ。その間、ピサロがムーンサルトで体当たりをかましても、アリーナが正拳突きをしてみても、やはり四散するだけで終わっている。
 こちらの攻撃がただ頭部の完成を遅らせているだけにも感じられ、リュカとソロが顔を突き合わせて話し込む。
「攻撃通じてないなー」
「なんかこっち見てるし、出来上がるまで待つか?」
 こきりと首の関節を鳴らし、どこかつまらなさそうな声のソロ。
「今のまま体力と魔力消費してても、仕方ないしね……」
 取り囲み警戒しつつ会話する一行の間を、カカシュが通り抜けていった。
 高く舞い上がり、離れた距離から風に乗り加速して猛然と襲い掛かる。
 装飾のないシンプルな槍が大の眼球を貫き、首まで出来上がっていた頭部がぐにゃりと崩れる。勢いを保ったままひらりと翻り、矢継ぎ早に二打撃目を叩き込んだ。叩かれてひしゃげた汚泥を更に払い退け、小の眼球ごと弾き飛ばす。
 これまでの流れで、反撃はないものと思われた。だがカカシュの二打撃目の直後、崩れ散ったものが一斉に怪しい光を放ち、赤く点滅し始めた。よく見れば小の眼球が強く光っている────つまり、この眼球からの攻撃ではないかと判断した一行は、それぞれ厳戒態勢を強める。
 辺りに濃霧が発生し、一同の視界が奪われた。脈打つ赤色も霧の向こうに隠れすっかり見失う中、姿勢を低めたライアンが呟く。
「……第三形態か」