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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 汚泥の攻撃の合間に、ちらちらと視線が集まる。猛者たちですら見たことのない光景に、誰もが驚きを隠さない。上空で渦巻く水流は透明度を増し、まるで美しい清流を覗き込んでいるかのよう────そう思えたのはほんの一時のことだった。突如滝になり、大地目掛けて一気に流れ落ちてくる。怒涛の激流が汚泥を全て飲み込み、押し流し、そして竜巻状に巻き上げた。
 その場にいた勇者たちも激流に巻き込まれ、一部から小さな悲鳴も聞こえてきたが味方に影響はなく、一瞬の幻覚に全員ほっと胸を撫で下ろしている。
 押し流され持ち上がった汚泥はやがて重力に導かれ落下してきたが、渦巻く水流はそのまま上空に留まり、大輪の白い睡蓮を一輪咲かせ、静かに消えていく。

 時間にすればごく僅かな間に起きた出来事に、興奮気味のマルセルが声をかけた。
「リュミエール様……今のって」
 震える指先をさり気なく隠しつつ、リュミエールは口角を持ち上げた。だが思っていた以上の効果に感じた恐怖はすぐに拭い切れず、その笑みには愁いが重なる。
「わたくしにも何かできればと、思いまして……」
 こほ、と小さく咳き込んだ────声の震えをごまかすために。

 ミネアが発見した魔曲「睡蓮の目覚め」は、注釈を読んだ彼女によれば「現代には存在しない属性の魔法」であるという。それ以上の説明もないまま頁を指差し「今ならこの曲が良いでしょう。貴方の実力を十二分に発揮できるはず」と言い切り、戦闘へ戻っていったのだった。

 咲き誇る巨大な睡蓮が空に消えゆく一部始終を見つめながら、老魔法使いのブライが豊かな顎髭をさすり、小さく唸った。
「水属性とは……これは初めて見る」
 興味深そうに呟き、にやりと笑んでいる。
「女人と見紛う見た目ながら、何のなんの。実に素晴らしい底力ですな」
 こちら世界とは異なる守護聖たちの力、サクリアの恐るべき威力────彼らを纏め上げている年若き女王もさることながら、各人に備わる実力にも感嘆したブライは素直に称賛の言葉を漏らした。当人の耳に入れば確実に不快さを覚えるであろう、余計な一言と共にではあったが。

 一塊になった汚泥が再び動き始めた。
 打撃特化の者を主軸に取り囲み、その外円に攻撃呪文特化の者が立ち、更に外側に回復や補助呪文を得意とする者、そして一番離れた位置に非戦闘員と続く。
 先陣を切ったティミーが天空の剣を掲げ、念のため補助呪文を解除する。特にこれといった変化は見られなかったが、うっかり呪文を弾き返されないように警戒を露わにしていた。
 アンジェリークが残していった補助呪文はまだ効力が残っていたため、仲間の多くは比較的心に余裕を持ったままだ。全員で押し切れば勝てる────そう考えていた。

 汚泥が盛り上がり、再び目玉が現れてくる。今度はきちんと二つ、対の目だ。
 アリーナやライアンなど打撃特化の者たちが続いて攻撃を仕掛けるも、先程までとは明らかに違う手応えに表情を僅かに強張らせた。
 一撃を与えた後、ソロが振り返って声を張り上げる。
「気をつけろ、さっきよりだいぶ硬い!」
 打撃が通りにくいと判明し、攻撃呪文の得意な面々がすぐに詠唱に入った。呪文が完成するまでの時間に、今度はリュカと魔物たちが挑む。
「ピエール! 挟み込むぞ!」
「はい!」
 東西に分かれて間合いを詰める間、先に北側へと動いたバトラーが一撃を与えている。攻撃が当たる瞬間に一時硬化しているらしく、びしゃんと奇妙な音が鳴った。そこへ南側へ移動したプックルが全身の毛を逆立て雄叫びを上げる。雷鳴にも似た威嚇の咆哮は一行の耳をも嬲り、既に首まで出来上がっていた汚泥の動きが弱まったところで、リュカとピエールの攻撃がほぼ同時に叩き込まれていく。
 つい先ほどまで易々と分断できた柔らかな物体が、今はざくりと刃を受け止めている。ソロの指摘通りすっかり質感を変えた汚泥は、地面から湧き上がるようにして徐々にその全体を現し始めた。

 頭部だけを見ても、巨体と呼ぶにふさわしい────頭一つでバトラーより一回り小さい程度である。それがのったりと緩慢な動きで肩を出し、片腕が大地を捕らえた。
 落とし穴に落ちた巨人が穴から這い出てくるかのような姿を前に、マーニャのメラゾーマが勢いよくぶち当たる。散り咲く火花と熱波に紫髪を揺らしながら、艶やかな唇からは可愛げの欠片もない言葉が漏れ聞こえてくる。
「は、図体がでかくて助かるわ。良い的だわね」
 続けてクリフトの詠唱が終わり、体の周囲を昏い光が迸る。
「────ザキ!」
 発動と共に暗黒色の光が襲い掛かるが、汚泥の塊を包み込んだ後にゆっくりと消え去った。
 ある程度想定の範囲内だったのか、特に気を落とす様子のないクリフトだったが、それをじっと見ていたルヴァがわずかに眉根を寄せた。
「……死の呪文もだめでしたか」
 小さな声を拾ったクラヴィスが、ふ、と息で笑う。
「あれで片付くなら、私がとっくにやっている……」
 でしょうねと納得しつつも、ルヴァは引き続き汚泥の弱点を探りに視線を戻した。

 汚泥の顔には血走った双眸の他、鼻と口が出来上がってくる。
 のっぺりとして高さのない鼻、ひび割れて生まれた口は骨格を無視して異様に大きく、歯は一本も見えない。
 その裂けんばかりの大きな口が、にい、と歪に笑った。
 ぞわりと走る怖気を気合いで消そうとオスカーが強く息を吐き、それから誰にともなく声を漏らす。
「口が出来たと言うことは……炎や酸を吐いたりできる、ってことだろうな」
 くそと毒づくオスカーの言葉を聞きつけ、オリヴィエは風に乱れ目にかかった金髪を掻き上げながら眉を開く。
「どうする、オスカー。あの人たちみたいに、同時に攻撃してみようか」
 先程のリュカとピエールの連携を見たオリヴィエが切り出した。
「……そう、だな……」
 オスカーはどう戦うかを考えているのか、オリヴィエの提案にもどこか上の空だ。
 そこへルヴァが何か言いたげにアイコンタクトを送り、二人の視線は地の守護聖へと移り変わった。
「オリヴィエ、その作戦に私も混ぜてください」
「ルヴァも?」
「あれは物理攻撃が当たる瞬間に硬化しているようです。お二人が攻撃した直後を呪文で狙ってみようかと思いましてね」
 ルヴァの提案にオリヴィエが指を顎先に添え、ふうんと相槌を打つ。
「私たちの攻撃はダミーってことね」
「波状で行かなくていいのか」
 周囲を警戒しながらオスカーが小声で問うと、ルヴァはこくりと頷きを返す。
「それでは恐らく、私の攻撃も読まれてしまいます」
「成程な、承知した」

 三人が計画を練っている間に、ブライのマヒャドやポピーのイオナズンが猛威を振るっている。
 物理攻撃よりも呪文の方がダメージを与え易いと判断したソロやピサロは呪文攻撃に切り替え、呪文の使えないライアンとアリーナは引き続き物理攻撃を続行している。

 汚泥の巨人は一行の攻撃をその身に余すことなく受けながら、残る片腕で大地を掴む。
 両腕に力を入れ、上半身が地面から這い出てきているのが分かる。
 マーニャのメラゾーマが胴の中央を貫き大穴を開けたが、それもゆっくりと元に戻っていく。