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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 吐血したらしく兜の隙間から血を滴らせたピエールに驚き、血相を変えて駆けつけたリュカがベホマを唱え、同時にライアンの剣が巨人の指を狙う────ピエールまで切るわけにはいかないため、ライアンは指の第二関節に位置する汚泥をまとめてそぎ落とす。剣はピエールの体すれすれを通り過ぎ、関節部分の欠片、切り離された指先と一緒に圧迫から解放されたピエールが落ちてくる。ベホマで回復しているためくるりと宙返りをして着地したピエールへ、眉尻を八の字に下げたリュカが問いかける。
「ピエール、大丈夫か」
「はい……何とか。回復ありがとうございます。ライアン殿も助かりました」
 心配を滲ませる主の声色に、あえて明るく応えた。兜をずらして口に残る血を全て吐き出したピエールは、そのまま口笛でディディを呼ぶ。
 難なく騎乗した姿に胸を撫で下ろしたリュカが、チラリと目を動かした。
「リュミエール様がまた魔曲を演奏したみたいだね。スクルトの効果が出てる」
 見れば、リュミエールは楽譜に視線を落として真剣な表情をしている。次に何を演奏するのか興味は沸いたが、それよりもと視線を巨人に戻した。
「次はぼくが引きつける。ついて来い!」
「はい!」
 プックルが雄叫びをあげほんの僅かに静止した刹那を狙い、リュカが素早く接近する。
(さあこっちを見ろ、見ろ、見ろ!)
 間合いを詰めてくるリュカを、赤い目が捉えた。
 頭部目掛けてマーニャのメラゾーマが炸裂し黒煙に包まれる中、視界の悪さを物ともせず、リュカの剣が煙を裂く。
 迷いのない太刀筋は確実に巨人の首を狙う。確かな手応えを感じた直後、予想通りに大きな手が面前に現れた。それをさっと剣で流して払い退け、捕縛を免れる。
 それでも掴もうとしつこく追いかけてくる手の先をひらりひらりとかわし、時折弄ぶように剣で浅く切りつける。
「どうした、もっと本気で来い!」
 くるくると姿勢を変えながら挑発を繰り返すうち、巨人の背後では高く跳躍したピエールが剣を振りかぶる。
 切り下げるピエールの太刀筋と重なるように、リュカはちょうど反対側から切り上げる。
 巨人の前後を挟み二人同時に行われた攻撃は胴を真っ二つにし、ずるりと半身が滑り落ちてきた。
 崩れ落ちながらも両腕はリュカとピエール二人を捕らえようと動き、咄嗟に払い退ける姿勢を取った二人と巨人の間にオスカーとオリヴィエが割り込み、彼らが巨人の手を打ち払った。
 オリヴィエの誘惑の剣に付与された毒の幻覚が効いたらしい。伸ばした手が空を掴んでいる。

「……助けなど必要なかったか?」
 片眉を持ち上げ軽口を叩いたオスカーへ、リュカが笑みを返す。
「いやいや助かりましたよ。どんどん慣れてきてますね、いい動きだ」
 リュカの誉め言葉に愛想よく笑みを見せ、言葉を繋ぐ。
「おかげさまでな。血の匂いがしてこない分、まだ楽な方だ」
「ルヴァもすぐに慣れてたから、守護聖のポテンシャル怖すぎ〜」
 雑談をしている最中にも、欠片になった汚泥に剣を突き刺す。
「だろう? 借りを作るのは嫌なんだ」
 オリヴィエの視界の先で、マーニャが手を振っている。
「ねえー、それこっちに投げてくれなーい? 燃やすからぁ!」
 足元をうぞうぞと動く汚泥の欠片を指差している。意図を把握したオリヴィエが笑顔で返した。
「オッケー! いくよーっ!」
 動きを例えるなら、ゴルフの打ちっぱなしである。ティミーに丸投げした時と同じく剣の先で汚泥を引っ掛け、上空に放り投げた。
 マーニャの声に反応したのはオリヴィエだけではなかった。アリーナは満面の笑みで鷲掴んだ汚泥をぶん投げ、ライアンやソロやクリフト、そしてピサロまで同じように剣で引っ掛けマーニャの方角へ投げ捨てた。
「うわっちょっとっ!」
 一斉に投げつけられた汚泥の多さに抗議の声を上げ、メラゾーマの詠唱から慌てて切り替えたマーニャはベギラゴンを放つ。
 欠片はくっつく間もなく全て灰と化し、マーニャは得意げに胸を張っていた。
 面白がって投げつけた面子のうち、ソロがにやにやと笑って口を開く。
「おー、さっすがー」
「ちょっとー、あんたたちは自分で片せるでしょ! アリーナやピサロまで何してくれてんのよ!」
「えへへ。面白そうだったから、つい」
「ふん、まとめて片付けたほうが早いだろう。効率を優先しただけだ」
「そーんなこと言って、ピサロちょっと笑ってるじゃない! 絶対わざとよね!」
 半笑いで憤慨するマーニャへ、オリヴィエが声をかける。
「あっははは。息の合った連係プレーってやつ? 信頼されてるんだね」
「まあねー、マーニャ様ですからぁ?」
 ふふんと鼻で笑ったマーニャが、嫣然一笑した。

 残る片足がとうとう地上に上がってきた。
 ゆっくりと立ち上がる巨人を前に、一同は攻撃の手を緩めない。
 ブレスの全体攻撃を防ぐ為頭部への攻撃を主軸にしていたが、それも狙いにくくなった。
 失った上頭部はまだ殆どそのままだが、赤い両目は現在、人間で言うところの鎖骨の位置に現れている。
 攻撃が当たる前に自在に移動を繰り返す目玉の気味悪さに、特にマーニャとミネアが嫌悪感を露わにしていた。
 一曲演奏を終え、更に使えそうな楽曲がないかと一心不乱に頁を捲るリュミエールへ、マルセルが声をかけた。
「リュミエール様、大丈夫ですか」
「ええ……体力的には特に問題ありませんよ」
 リュミエールが見ている譜面は、ルヴァが急いで注釈をつけた幾つかの頁のみだ。それ以外はまだ、自力で解読はできない。
 マルセルが抱きかかえた麻袋から、にゅうっと触手が伸びた。
「だしてぇ」
「ホミレイ? どうしたの」
 袋の口をマルセルに開けてもらい、中から顔を出したホミレイが譜面へと視線を縫い留めている。
「あのね、かみのおとだよ」
 平坦な声で告げると、リュミエールがふと手を止め目を丸くした。
「紙の音……これでしょうか」
 楽譜を一頁ぺらぺら鳴らしてみせると、リュミエールの肩に移動したホミレイは興味深そうに譜面を見つめて触手で指し示す。
「それ、かみのおと」
 人の言葉があまり得意ではないのか、それとも幼いからか、ホミレイの平坦な発音を少し訛っていると思ったリュミエールとマルセルは、小首を傾げている。
「……?」
「りゅうのかみさまが、すきなおとだよ」
「どうして知ってるの、ホミレイ」
 マルセルの質問に、大きな口を更ににっこり持ち上げたホミレイが答える。
「かみさまに、ささげるってかいてあるよ」
 ここ、と触手で指した場所には、ホイミンの文字が並ぶ。
 その言葉に驚きを持って、リュミエールが問いかける。
「文字を読めるのですか?」
「ちょっとだけー」
 ルヴァ以外の守護聖たちには解読不能な文字列を前に、想定外と言った様子のマルセルが小さく拍手を送る。
「凄いねえ!」
 マルセルに褒められたホミレイは、喜色満面で両の頬を押さえた。
 周囲を警戒していたクラヴィスがぼそりと呟きを漏らす。
「……神の音、か。どのような効果をもたらすか……」
「──その曲はやめたほうがいいだろう」
 突如背後からかけられた声に驚き、全員がぎくりと振り返る。