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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 音もなく立っていたカカシュが、少し気まずそうな顔をして片手で頬を掻いている。
 ほっと安堵の息を吐いたマルセルはカカシュの言葉へ問う。
「何か、良くないことが起きるんですか」
「いや……そうではないんだが。その曲は竜の神に力を持たせてしまう」
「持ったらいけないんですか?」
「誤魔化しが効かなくなってしまう……と聞いている」
 語尾を濁し、カカシュは小さく咳払いをする。
 ちらりとクラヴィスへ視線を流すと、目が合った────うっすら笑っているように見える唇から、皮肉げな声がこぼれ出た。
「ほう、それはそれは」
 余計なことは言わなさそうだったものの、カカシュは気まずさに肩をすくめて言葉を続ける。
「……その内必要になるかも知れん。いまは目印だけつけておいてくれるか」
「は、はい……」
 カカシュに言われるまま、リュミエールはその頁に何かを挟もうと手元を探す。
 その隣でマルセルが大きな瞳をまあるく見開き、叫んだ。
「ああぁぁああああ!?」
 先程のカカシュの声でも驚いていたリュミエールが、早鐘を打つ胸を押さえてマルセルを見る。
「どっ、どうしたんですマルセル」
「葉っぱが……!」
 マルセルの手には、世界樹の葉が一枚乗っている。
「落ちてきたんです……どんなに引っ張っても取れなかったのに」
 微かに光っている世界樹の枝には、まだ数枚の葉が青々と茂っている。マルセルの説明を受け、カカシュは不思議そうに首を捻った。
「……早々落ちてくるものではないのだがな……どういう理屈なのだこれは」
「分かりませんけど……これって蘇生に使えるんでしたよね? 確かソロさんが持ってました。じゃあこれ、栞に使いませんか」
 えっ、と周囲が僅かに固まっていたが、マルセルは手にした世界樹の葉を目の高さに掲げ、じっと見入った。
「本が薄いから、押し花にはならなさそうですけど」
 淡く黄金の光を放つ世界樹の葉が、マルセルの手でそっと頁に乗せられた。
 その輝きを見つめていたカカシュが、小さく笑んでいる。
「……ありがとう。すまない……」
 詫びて葉に触れた指先に、ちくりと刺すような痛みが走った。
 どこまでも慈愛に満ちたあの精霊に、どうやら叱られたらしい────と、心の中で詫びの言葉を重ねた。
(今より先の未来で会おう。説明と謝罪はそのときに改めて)
 目を閉じて、祈るように言葉を紡ぐ。捻じ曲げた理に巻き込まれ未来を絶たれた世界樹の、慟哭の声を思い返しながら。

 両足で地上に立ち上がった汚泥の巨人へ、一行は果敢に挑み続けていた。
 ブライの放つマヒャドが足を凍てつかせ、動きを止めている。ルヴァのマヒャデドスで動きを鈍らせたことで、ヒャド系呪文を得意とするブライの戦い方がほぼ確定したと言える。凍てついたところへアリーナやライアンが打撃を叩き込み、粉々に砕いていく。
 相変わらず再生をするものの、再生している間は攻撃が来ないと分かり、呪文を使えない面々はブライとポピーのマヒャドの後に攻撃をする流れが出来上がっていた。
マヒャドを放ったポピーがふうと息をつく。
「結構、いい感じかも」
 口角を持ち上げて呟かれた言葉へ、ポピーの前にいた兄ティミーが振り返る。
「だね、凍らせた後だと砕けやすいみたいだ。マーニャさんのメラゾーマもベギラゴンも効いてるし」
 このまま押し切れるか────ちらと流し見た一行の表情に、悲壮感はまだない。
「それにしても、図太いなこいつ」
 巨人を眺めたティミーの呆れ声に、今度はポピーが頷きを返す。
「うんー。すごく強いって訳じゃないけど、タフだね」
「決定打がないんだよなあ。あ、お父さんが突っ込んでった」
 ひらりとプックルに跨り巨人の肩の高さまで跳躍したリュカが、なだらかに盛り上がった上頭部を削り落としている。
 プックルは落下する間際に爪を立て、更に鋭い牙を首の付け根に食い込ませていた。
 噛みついたプックルを引き剥がそうとする手へはピエールが斬りかかり、後押しをするようにバトラーのイオナズンが炸裂する。
 イオナズンの爆風に乗り、三人は巨人から距離をとった。

 リュカに切り落とされた上頭部が、地上でざらりと砂に変わる。
 それを見たオリヴィエが、緊張に乾いた唇を湿らせて口を開く。
「いいじゃない、このままご退場願いたいね」
 隣のオスカーもそれへ首肯する。
「全くだな」
 土で汚れたオリヴィエのヒールが、じり、と一歩にじり寄る。
「とっとと帰れって言ってくるよ」
 艶めくまつ毛の下で意を決した瞳を一度だけまばたかせ、オリヴィエは駆け出していく。
「……いい加減、くたばりな!」
 普段の彼からすると怒号に近い声を響かせ、誘惑の剣を大きく振りかぶる。
 斬撃はくっきりと巨人の肩から腰、袈裟懸けに跡を刻みつけた。
「ウオオオオォォォォォォォォォ!!」
 甲高い悲鳴をあげ、肩から頬へと移動した眼球がオリヴィエを睥睨威圧する。
 ぱちん、ぱちん。
 小さな破裂音がオリヴィエの耳に届いた矢先、その音の正体が明らかになった。
 ────ドドォン!
 辺りを覆い尽くす激しい光の洪水と共に、衝撃がオリヴィエの身を襲う。
「うぐぅっ…………!」
 みっともない悲鳴が漏れそうな口をきつく引き結び、それでも尚溢れ出る苦悶の声。
 全身を貫いた雷は手入れの行き届いた頭髪を焦がし、肌を焼き、痛み以外全ての感覚を鈍らせた。
 右手から誘惑の剣が離れ、硬質な音をたて地に落ちる。
 そしてそのまま膝から崩れ落ちるオリヴィエへ、オスカーが叫んだ。
「オリヴィエ!」
 すぐに駆け寄ったオスカーは胴に腕を回し、オリヴィエを巨人から引き離す。
 巨人が攻撃してこないかと警戒の視線を向けながら、回した腕から伝わる胴の熱さに目を瞠った。
「おい、しっかりしろ。オリヴィエ! おい!」
 ぐったりと目を閉じているオリヴィエの頬を叩き、いまだちりちりと髪を燃やす小さな炎を慌てて消した。
 ルヴァが回復しようとするよりも僅かに早く、ミネアのベホマが傷ついた体を包み込む。
 苦しげだった表情が穏やかなものに変わり、安堵したオスカーはどっと溢れ出していた己の汗を拭った。
 うっすらと目を開けたオリヴィエが、皮肉げに唇の端を歪める。
「は……ごめん。あんな反撃が来るとは思ってなかったわー……」
「虹の橋も三途の川も、おまえにはまだ早すぎるだろ」
「そうだね……陛下に叱られちゃう」
「補佐官からも杖で殴られそうだからな」
 以前こちらの世界に飛ばされ行方知れずになっていた女王陛下を、帰還後にわんわん泣きながらぶっ叩くほどの補佐官である。女王に対しては相当心配していたせいもあるが、守護聖相手なら更に遠慮がなくなるのは想像に難くない────そう思ったオリヴィエが、ふっと笑みを浮かべた。
「それも御免だよ」

 戦況をじっと眺めながら、クラヴィスは気だるげな顔のまま袂に手を入れる。
 少し冷えた感触を確かめてゆっくりと取り出すのは、銀のタロットだ。
(……呼ばれている気が、する)