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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「クラヴィス、あなたさっき言いましたよね。一点の光を囲む七つの光を視た、と」
 ルヴァの言葉を聞き、確認しようとオリヴィエがしなやかな指を折り曲げて数え、薄気味悪がった。
「……きっかり八人いるじゃない、気味わるっ」
 そんなオリヴィエの様子を気にもとめず、ルヴァの表情は更に険しさを増した。
「ポピー、リュカがパデキアを採りに行った時代は分かりますか」
 問われたポピーは穏やかながらもその中に含まれた緊迫感に気圧され、僅かに俯いて口ごもった。
「いえ……分からないです」
 それまで静かに成り行きを見守っていたジュリアスが、おもむろに口を開いた。
「何か関係があるというのか、ルヴァ」
 一同の視線が一斉にルヴァへと注がれ、彼の喉仏が音もなく上下する。
「ええ。私たちの間にここ数日起きていた現象と、ポピーたちの時代に今起きていること、そしてリュカが訪れているはずの時代の出来事。これらは全て繋がりがあると思えてなりません。まだ……何の確証もないので、絶対こうだ、などとは言えませんが」
 ルヴァの声が途切れても言葉を発するものはなく、辺りは静寂に包まれている。
 陽の光に暖められた風が木立をさわさわと揺らして吹き抜けていった。
 ルヴァの青灰色の瞳が束の間ポピーをじっと見つめ、言葉の続きを待つポピーが唇をきゅっと引き結ぶ。
「私の推測では、リュカが戻って来られない理由がその時代にあるのだと踏んでいます」
 そこでマーリンがふうむ、と唸った。それから納得したふうに大きく頷く。
「絵の中からは用を果たせばすぐに戻れると、リュカは言っておりましたな」
 ポピーの口から小さく「おとうさん」と聞こえ、その不安げな声にいたたまれなくなった守護聖たちの眉尻が下がる。
 ルヴァの表情はまだどこか硬いまま、次の言葉が紡がれた。
「何かその時代に為すべきことがあり、それが自発的にしろ強制的にしろ、向こうの世界に足止めせざるを得ない状況なんじゃないでしょうか」
 ちらりとアンジェリークの視線がルヴァに注がれ、彼は微かに頷いて口を閉ざす。
「ポピーちゃん、リュカさんが絵に入って行った経緯を改めて聞かせて頂戴。ルヴァとマーリンさんは分かってるようなんだけど、わたしも流れを把握しておきたいわ」
 そう言ってアンジェリークはティーカップに口をつけた。他の守護聖たちも幾人か同じように飲み物や菓子を口に運び、少女が語りやすいよう寛いだ雰囲気を作り出す。
「はい。今わたしたちの世界では治療法のない疫病が蔓延していて、調べたらパデキアという薬草が特効薬になると分かったんですが、数百年前に絶滅している薬草なので、私の父が過去に戻って採りに行っています」
 話の内容が重くなるのを見越してか、アンジェリークは更に菓子をせっせと食べ始めて緊張感を失くしている。それが彼女なりの思いやりであると知る守護聖たちと補佐官は、ほんの少し苦笑いを浮かべつつ、引き続きポピーの話に耳を傾けた。
「その絵というのは過去に行ける砂絵で、時々絵が変わるんです。今回はマスタードラゴンと妖精の女王の魔力を借りてかなり前まで逆行できたんですが、絵に入った瞬間に砂絵が変わってしまって……まだ戻って来ません」
 魔法の力を秘めた絵画というものに興味を惹かれ、リュミエールが真っ直ぐにポピーを見た。
「大変興味深い絵画ですね。絵が変わってしまうと、本当に戻れないのですか」
 リュミエールの言葉に大きく頷き、ポピーは話を続けた。
「父が過去に行っている間、絵が変わったことはないんです。今まで一度も……それに」
 一瞬言葉を止め、強張った顔を見せる。
「こちらに来る前、兄が気になることを言っていました。王である父が不在の今、グランバニアが世界中から敵扱いされているのは、何かの罠だって」
 聖地へ来る直前に見たティミーの姿が脳内で蘇った。忌々し気に呟かれたあの一言が、今もポピーの中で警鐘を鳴らし続けている。
 手帳に何かを書きつけていたルヴァが、とん、とペン先を置く。普段はこういったときに音を立てることのない彼が見せた珍しい姿にちらちらと視線が集まる中、ルヴァはおもむろに口を開いた。
「リュカは魔物たちをも味方につける天賦の才を持っていますからねえ……そんな彼が自国にいたなら、民衆は面と向かって魔物を敵だとは言い辛いでしょうね」
 軍人の家系に育っているオスカーが腕を組んだ姿勢で小さく頷いている。一連の流れを把握して戦いの気配を察知した彼に、いつもの軽薄さはどこにもない。
「ルヴァの言うように、退路が断たれているのか……もしくは意図的に遠ざけられているとも考えられるな。誰が何のためにかは知らないが」
 オスカーの声はそこで途切れ、ポピーが泣きそうな顔をしながらぎゅっと拳を握った。
「でも、砂絵が新たに描き出した中に、女王陛下とルヴァ様の姿を見つけました。他にはここにいらっしゃる皆さまが描かれていたんです。それで、なんとか父を救出したくて、失礼を承知でこうしてお願いに上がりました」
 両手を胸の前で重ねたポピーが、深々と頭を下げる。その瞳がすっかり潤んでいたことに、この場にいた幾人かは気づいていた。
「どうか、どうか、皆さまの力をお貸しいただけたらと……お願いします」
 深いお辞儀のまま、ポピーはすんと鼻を鳴らした。長い髪に隠れているが右手の甲で涙を拭っている。
 それを視界に入れたオスカーがアイスブルーの瞳に優しさを滲ませて語りかけた。
「もう顔を上げてくれ、お嬢ちゃん……そんな願いならお安い御用だ。あとは女王陛下のご命令があれば、このオスカー、いつでも君のもとへ馳せ参じよう」
 そろりと顔を上げたポピーと視線がかち合うや否や、彼は綺麗にウインクを飛ばす。その気障な行動にポピーは思わずふふと笑みを零し、まつ毛はまだ濡れていたものの、安心したように頷いていた。
 落ち着きを取り戻した少女を穏やかに見つめながら、アンジェリークがぼそりと呟く。
「オスカーのお嬢ちゃんって久々に聞いたわね、ロザリア」
「そう言えばそうですわね」
 呑気な女王陛下の言葉を意に介さず、ロザリアは優雅な動きで新たにアンジェリークの分の紅茶を注ぎ入れる。
 それはあなたが女王陛下に即位したから立場上言えないのであって、外ではまだまだ言っているようですけれど、と内心では思ったが言わずにおいた。
 そして、女王陛下はにこやかに恐ろしいことを口にした。
「ねえ、リュミエール。一曲お願いしたいんだけど、いいかしら」
 また突拍子もないことを、と言いたげな目でロザリアは目の前の女王陛下を見ていた。そして請われたリュミエールのほうは、驚きに目を丸くしつつ答えを探している。
「は……わたくしは構いませんが、よろしいのですか? もしかするとまた、魔性が現れるかも知れませんが」
 ニコニコと笑んだ翠の瞳が細められた。
「だからよ。本当に呼び寄せるのか、どういうのを呼んでいるのか、気になりませんか?」
 女王陛下の企みにうっすら気付いたルヴァが、すかさず擁護に回る。
「成る程……確かに気になりますねー。ここは折角ですし試してみませんか」
 とルヴァが畳みかけ、アンジェリークも頷きを返している。