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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「今ならオスカーがいるし、ポピーちゃんやマーリンさんたちもいるわ。何かが出て来ても問題ないでしょう?」
「そう、ですね。かしこまりました」
 そうして恐る恐るハープに指を置いたリュミエールが、一瞬戸惑いの表情を浮かべた。その様子を向かい合う位置に座っていたジュリアスが黙したままじっと見つめている。
 が、リュミエールの隣にいたクラヴィスはその間にテーブルクロスの裾をつま先でそっと持ち上げて、そこに隠されていたものをちらりと確認していた。向かいで一体何をしているのかと訝しんだジュリアスがその動きに注視して、足元に何かがあるのかとクロスを持ち上げた。そしてクラヴィスの奇妙な行動に合点がいったジュリアスが顔を上げると、クラヴィスのほうもまたジュリアスを見ていて、その表情が僅かに緩んでいることに気づく。このときのクラヴィスの乏しい表情の変化は長年の付き合いがあるものたちがようやく分かる程度の、本当に微かな笑みだった。
(クラヴィスめ、面白がっているな)
 彼もまた、女王陛下の企みに気づいたのだろう。そしてその背後には彼女の恋人、地の守護聖がいるはずだ────そう思って、ジュリアスもほんの僅かに頬を緩めた。
 オスカーを呼び寄せたアンジェリークがリュミエールの側へ行くように耳打ちをして、オスカーはその足ですぐにリュミエールの近くで待機する。念のため腰に下げた愛剣に手をかけて。

 白く美しい指先がぽろりと音を奏で出す。
 その場にいた者たちは全員、僅かに緊張を孕んだ空気の中でその音色に耳を澄ませた。
 アンジェリークはその間にルヴァと視線を合わせ、こくりと頷く。その頷きの意味を察知したルヴァは表情を引き締める。
 軽やかな高音が鳴り響く中、ルヴァはそろりとポピーとマーリンへ近づき、隣同士に座る二人の間に屈みこんで小声で二言三言何かを囁いて、二人がそれへ黙って頷き返したのを確認したルヴァがゆっくりと自席に戻ってきた。
 アンジェリークとロザリアの顔がにわかに険しくなり、笑みが消えた。
「……来たわね」
「陛下、下がっていてください」
 ロザリアの声にきっぱりと首を横に振るアンジェリーク。
「大丈夫よ」
 何を根拠に、とロザリアが口を開きかけたそのとき、ぽろ、と音色が止まる。
「……皆さん、離れてください!」
 爪弾く手を止めて叫んだリュミエールの声と重なるように、彼の周囲にはどす黒いもやが現れ、それに気づいたオスカーがすかさず剣を抜き身構える。その間にルヴァが再びオロバスを呼びつけた。
「オロバス、リュミエールを守ってください。何かが出てこようとしています」
 宙を舞うオロバスがルヴァの声に反応を示し、表紙の目を赤くぎらつかせる。
「そうみたいだな。出てきたのを倒せばいいのか?」
「ええ、お願いしますよ。こちら側に被害が出ない範囲であれば、呪文を使っても構いません」
「わかったー」
 元々ランディなど若手の守護聖をこき使うことも多かった彼は、既にオロバスの扱いを心得ているようだった。何の躊躇いもなく頼み事をされたオロバスがリュミエールの側へすぐに寄っていく。
 リュミエールの周囲に現れたもやは小さな虫の集まりのように固まっては離れ、変幻自在に形を変えている。
 オスカーが試しに一度斬りかかってみるも実体としては煙のようなもの故に、彼の愛剣はあっけなく空を切った。
「くそ……効果なしか」
 オスカーの呟きに、飛んできたオロバスが声をかけた。
「まだだぜ。今出始めたみたいだから、もう少ししないと斬っても無駄だ」
 剣を構えた姿勢でちらと奇妙な本へと視線を流したオスカーが、小さく口の端を上げる。
「成る程な、貴重な忠告感謝する」
 そこでいつの間にか席を立っていたポピーの詠唱の声が響いた。
「バイキルト!」
 オスカーの足元から風が吹き抜け、体中に力がみなぎる感覚に彼は鋭い目を丸くさせた。
「……これは?」
 体の内側に起きた不思議な感覚────その大元を辿るように声のしたほうへ顔を向けてみれば、視線の先に先程の不安げで儚い少女の面影はなく、凛とした面持ちで高く掲げていたらしい右手を下ろしたところだった。
「攻撃力を高めてくれる呪文です。守護聖様に通用するかは分かりませんが、かけてみました。お気をつけて!」
 ポピーの説明にオスカーは一瞬だけ頬を緩め、いつもの甘い笑みを浮かべて言葉を返した。
「そういうことか、ありがたい。お嬢ちゃんの応援があるなら負けるわけにはいかないな!」
 その会話の間に黒いもやは着々と集まり始め、空中で固まってどろりと溶け落ちてくる。それはまるで粘度の高い液体のようにも見え、嫌な音とともに滴り落ちてきて美しい芝生を汚した。
 薄気味悪さにマルセルが小さく悲鳴を上げ、ランディとゼフェルがすかさず庇うようにして両脇に寄り添う。
 汚泥のような見た目のものが蠢く度に、びちゃり、べちゃと音が響き渡り、それらは徐々に姿を現し始めた。
 そこでそれまで動向を見ていたオリヴィエが、すかさずテーブルの上にあったフルーツナイフを手に取り駆け寄ってきた。
「来るよ、オスカー!」
「分かっている!」
 キキッ、キャキャキャという細く高い音が耳に届いたかと思った刹那、とうとう汚泥の塊から翼が現れた。それは「生まれ落ちる」という表現が似合いそうなほどですらあった。
 四つ、五つと塊が落ちてそれぞれが競うように翼をはためかせてもがき回る姿を、アンジェリークはじっと見つめている。
 やがて見覚えのある姿が宙を舞った。
 現れたのはリュカの仲間として接したことのある魔物だったと思い出し、アンジェリークが呟く。
「ドラキーね……」
 どんなに耳を澄ませてみても仲間モンスターたちのような会話は聞こえてこない。明らかに邪悪とまでは言わないが決して味方とは言えないレベルの敵意を持った彼らを前に、アンジェリークは黙って成り行きを見守ることにした。
 オスカーにバイキルトを唱えた後、ポピーはそろりと行動を開始する。その後ろを守るようにマーリンがゆっくりと付き添い歩き、更にルヴァの視線が二人の姿を追った。

 キャキャキャ、キイキイと金属質な鳴き声をあげ、ドラキーの群れは軽やかに宙を飛び回る。
 オロバスはリュミエールの背後に陣取り、急襲に備えた。
 集団をまとめて一掃できるイオを唱えようかと考えもしたが、恐らく辺りに血肉が飛び散るだろう。頁に染みでも着いたら面倒臭いと考え、メインの戦いは鎧に身を包み剣を持つ守護聖にある程度任せられる位置についたのだった。
 じっとドラキーの動きを睨み続けるオスカーが、剣を握る手から一瞬力を抜いた。
 その次の瞬間、二匹のドラキーが彼目掛けて突進したのを、アンジェリークは視界に捉える。
 オスカーはしゅっと音を立て一気に息を吸い込んでから体全体からも余計な力を抜き、利き腕側に飛んできたドラキーへ右斜め上方から軽やかに斬りかかり真っ二つに裂いた後、すぐに左足を引いて向きを変え、剣の勢いを保ったまま残る一匹を今度は左斜め上方から叩き斬る。
 彼の稲妻の如き華麗な剣さばきに、二匹は断末魔をあげる間もなく砂と化していく────その一連の流れを横目で見ていたポピーが口角を上げて呟いていた。