二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに2

INDEX|29ページ/213ページ|

次のページ前のページ
 

「凄い……! 綺麗な剣の使い方だわ」
 その呟きへ、マーリンも穏やかに声を上げる。
「そうじゃなあ。あれはきちんと訓練を受けた者の太刀筋……生き延びるためだけに身に着けたものではないな」
 生き延びるためだけの剣術────敢えて誰のこととは言わなかったマーリンだったが、ポピーには父のことだと伝わっていた。
「リュカの剣さばきはときに酷いものだが……それでもな、全くの素人の使い方でもなかったぞ」
「そうなの?」
「おまえの祖父パパスの太刀筋を、幼いながらも覚えていたのだろう。リュカの剣とて、一般的に見ればそう悪くはないぞ」
 王女として生まれた自分には与り知らぬ領域の話に、ポピーは困ったような笑みを浮かべた。
 父リュカと兄ティミーの剣使いが馴染み過ぎていて、よそのレベルがどれ程かなどこれまで知る由もなかったのだ。
「お父さんはあんまり剣が好きじゃないって言ってたけど……わたしにはよく分からないわ」
「……そうじゃろうの」
 剣で斬れば確実に息の根を、若しくは動きを止められる。その生々しい現実をリュカが好まないことを、マーリンは出会った頃から知っていた。
 杖で殴るよりも楽に相手の動きを封じられると幾度説得しようとも、彼は自分が屠る感覚を忘れたくないのだと言って、頑として首を縦には振らなかったのだ。
 どれ程切れ味のいい剣よりも、殴打すれば己にも疲労の残る杖をリュカは好んだ────その本当の意味に、マーリンは気づいている。そして、彼の仲間である魔物たちも。
 剣を装備していても、魔物たちをできる限り殺さずに邪気を祓い、彼ら本来の姿へと目覚めさせる。それがリュカの戦い方であり、ルールであり、ひとつの美学でもあった。
 その後も躊躇うことなく鮮やかに剣を振るうオスカーを見つめながら、マーリンは囁きに近い小声でポピーへと語る。
「リュカにもし、オスカー様のような分別があったなら……我ら魔物を仲間にはできなかっただろうの」
 人の中で人として生きていくことを是とするなら、魔物と交流する道は絶たれる。だが、リュカは敢えてその道を選ばなかった。エルヘブンの血筋もあるが、彼は常に魔物と人との間に立ち、共存の道を探ってきた。それが結果として大きな縁の輪を作り出して、彼の冒険は切り拓かれてきたのだ。
「……リュカがどれ程の覚悟をもって、我々魔物と共に歩んできたのかと……頭が下がるぞ、ポピー……おまえの父は、本当に偉大な人間じゃな……」
 最後には呻くようにどうにか声を絞り出したマーリンが、ぐっと声を詰まらせて目元を拭う。そして、決意を秘めたまなざしでポピーを見つめた。
「何としてもグランバニアに帰らねばな……リュカが守ろうとしたものたちが住まう、わしらの城へ」
 そろりと足元へと視線を落としたポピーが唇を引き結び、大きく頷いて見せた。
「そうだね。皆が頑張ってるんだもん、早く帰ろう」

 最後の一匹が素早く逃げ回り、オスカーの手を煩わせる。
 ひゅんひゅんと空中を飛んでいたドラキーが、再び攻撃に転じようとリュミエール目掛けて速度を上げた。
 近付いてくる、と彼が思ったときにはドラキーが眼前に迫り、咄嗟にハープを抱え込む。
 オスカーが彼から少し離れてしまったがために剣が届かず、前方がまるきり無防備となったところを狙われたのだ。
 オリヴィエが思わず叫ぶ。
「危ない!」
 ドラキーが大きく口を開けてリュミエールに噛みつこうとした矢先、後方に待機していたオロバスが自分の頁を盛大にばら撒き、ドラキーの視界を遮った。
 ばら撒かれた頁が投網のようにドラキーを囲い、危険を察知したドラキーはすぐにその場を離れていく。
 そしてリュミエールから遠ざかった隙を絶好の好機と捉えたオリヴィエが一も二もなくナイフを投げつけ、ドラキーを貫いてそのままオロバスに当たった。
「ぎゃっ!」
 ナイフが命中したドラキーは砂となり、一方のオロバスはロザリアのフォークに続いてオリヴィエのナイフまで表紙にぶら下げることとなった。
「うわ、ごめんごめーん。当たっちゃったわー」
 心から謝っているとは到底思えない軽さで謝罪を済ませたオリヴィエが、オロバスからナイフを引っこ抜く。
「いてーなー、何すんだよー」
「ナイスファイトー、今の良かったよ。エロ本の癖にやるじゃなーい」
 文句を言うオロバスの表紙を指先でぴしんと弾き、口の端を上げた。
「別におまえに褒められても嬉しくないぞー」
 散らばった頁が自然と元に戻っていくのをどこか楽し気に眺めていたオリヴィエがふいにオロバスを掴む。
「あ、そー。んじゃ飼い主に褒めてもらいな!」
 ぶんと音がしそうな勢いでルヴァへ向けてオロバスを投げつける。
 そんなやりとりを知らずちょうど横を向いていたルヴァに当たらないよう、オロバスは速度調整を試みたがかなり強く投げ飛ばされたために、ほぼそのままの勢いで肩にぶつかった。
「いっ……! 何です!?」
 がつんと当たった衝撃に驚き、ルヴァは肩を押さえて目を丸くさせる。
「ごめん、あいつにまた投げ飛ばされた」
「だ、大丈夫ですか。今度はナイフまで刺さってましたよね……あーまだうっすら傷が残っていますねえ、可哀想に」
 そう言ってオロバスを両手で抱えじいっと表紙の目を覗き込むルヴァへ、オリヴィエが半笑いで声をかける。
「あんたに褒めてもらえって言ったのさ。よしよししてやればー?」
 オリヴィエから再び眼前のオロバスへ視線を移し、ルヴァはきょとんと首を傾げる。
「へっ? 褒め……て欲しいんですか? 私に?」
 きょろきょろと表紙の目玉が細かく揺れ動き、言いにくそうに話し出した。
「…………お、おう……」
 恥ずかしいのか小さな声でそう告げたのを聞き届け、ルヴァはふんわりと笑い、納得した様子で幾度か頷く。
「良く頑張りましたね、オロバス。とても立派でしたよ」
 嬉しそうな声音で褒められたオロバスはルヴァの手の中から抜け出して舞い上がる。
「……ま、また頼まれてやってもいーぞ」
「ええ。そのときがきたら、またお願いしますねー」

 ドラキーの群れがいなくなり、険しかった顔を少し和らげたオスカーが慎重に辺りを見回して、それから静かに剣を鞘に戻した。
「……大丈夫か、リュミエール」
 ハープを抱えてうずくまっていたリュミエールが立ち上がり、安堵の微笑を浮かべた。
「ええ、問題ありません。ありがとうございました」
「どうってことはない。それにこれはただの茶番だからな」
「は……? 茶番、とは」
 どういうことかと続ける前に、オスカーがにやりと笑って、親指で指し示す。
「見ろ、何かやらかしてくれるみたいだぞ」
 更に顎をしゃくってみせたほうへとリュミエールが不思議そうに視線を向けると、そこにはポピーとマーリンがアンジェリークの前に跪き、何かを話し終えたところだった。
 他の守護聖たちもそれに気付いたようで、それぞれが注意を向けていた。
 立ち上がったポピーがくるりと振り返り、アンジェリークから数歩離れて立つ。
 凛とした表情には僅かな緊張の色が透けて見える。皆が息を潜め成り行きを見守る中、ポピーは両手を真っすぐに差し出して目を閉じる。