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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 時間は少々遡り、グランバニア城内では────
 王妃ビアンカとサンチョが無人の教会前で佇んでいた。
 今ここには人々の喧騒はなく、ひっそりと静まり返った光景にサンチョは険しい表情を隠せない。
 何故なら、かつて王妃が二度も攫われたあの夜の光景を否応にも思い出させるからだ。
 だが今までと違うのは、王妃自ら堂々とその姿を晒し、現在行方不明の王に代わり率先して陣頭指揮に当たっている点だ。
 ビアンカ自身、攫われる直前の不気味な静けさを少し覚えている。恐ろしい速度で近づいてくる悪しき気配から少しでも早く子供たちを離すのに必死だったため、恐れを感じている暇などなかったが。
 曇りなき大空を思わせるビアンカの青の瞳が、ちらりと動く。
 視線の先には天空の装備に身を固めた愛息子がこちらへ歩いてきている。
(……絶対に、負けるもんですか。リュカはいないけど、ティミーやサンチョさん、ピピンもいる。それにもうすぐポピーだって無事に戻ってくるはずだもの)
 ビアンカはそんなことを思いながら、どれだけ戦いを重ね傷を受けても、年月を経ても変わらず白銀に輝いたままの天空の鎧を見つめるうち、ティミーが先に話し出す。
「皆避難したよ、お母さん」
 ティミーの背は今やビアンカとそう変わらない。長身の父リュカに似たのか、まだ伸びそうな気配もある。そして彼のためにあるとでも言うように、この天空の装備一式は彼の成長と共にその都度形を変えてきた。鎧やかぶとが大きくなるにつれ、リュカは苦渋の色を浮かべ「この子にまだ戦えというのか」と呟いた。そして現在、その懸念通りの現状である。
 一見息子を見ているようでいて別のところへと意識を飛ばした王妃へ、横にいたサンチョが声をかける。
「……ビアンカ様?」
 どこか遠くを見ていたふうのビアンカがはっと我に返り、恥ずかしそうに頬を染めた。
「あ、ごめんなさい。えっとなんだっけ、ティミー」
「もー、お母さんしっかりしてよー。宝物庫に町の皆を避難させたんだってば」
 城の中に町を作ったグランバニアでは、最終決戦から約五年の歳月を経てもまだ増築が必要なほど人口は増えていなかった。そのためビアンカの指示で急いで宝物庫を片付け、更に二階にある王家の大会議室を解放し、その二カ所に全住民を避難させることにした。
 食料や飲み水の瓶も既に持ち込まれ、一週間程度なら完全籠城できるようにしたのである。
「そうだったわね。護衛は誰?」
「宝物庫はアンクルとスラリンを攻撃要員、回復役にオークス、クックルを補助にした」
 ビアンカが片眉を上げて微妙な顔つきになった。
「んー、総合力ではイマイチねー」
「そうだけど宝物庫狭いしさ。強くて体格のいい魔物たちより、町の人たちと仲のいい連中のほうが、今は」
 ティミーの考えとしては、狭い場所での戦闘になった際に体格の小さな魔物のほうが小回りが利く。更に、今の状況で魔物たちを畏怖の象徴として民の記憶に残すわけにはいかない。それはやがて内側からグランバニアを蝕む脅威となるだろうと思っていた。
 その辺りを濁して告げたティミーの思考が伝わったのか、納得した様子でビアンカがひとつ頷く。
「そうね」
「……アンクルが」
 ティミーの言葉が途切れ、次の音を出すのに僅かな時間を要した。
「アンクルが、囮になるって言って聞かなかったんだ」
 町の子供たちから通称おっさんと呼ばれているアンクルホーンのアンクルだが、体の大きな自分ならいざという時に盾になれると言い、それならザオリクが使える自分もメンバーに入れろとオークキングのオークスが言い張った。
 他の命を助けるために自らを犠牲にすると言わせたことに、ティミーは己の力不足を感じて内心悔しがった。
「……ぼくが頼りないからかな」
 思わず漏れ出た本音にはっとした顔で口元を押さえたティミーに、ビアンカは母のまなざしで優しく告げる。
「それはないでしょ。皆この城を守りたいんじゃない?」
 ポピーほどではないがティミーも父から受け継いだエルヘブンの血筋の影響で、魔物たちの言葉は多少分かる。
 人に近い形の魔物ほど人語を話しやすいが、そういう者たちは知能も高く、わざと人間には聞き取れない音域で会話をしたりする。彼らに認められない限り、共通の言語を使って貰える機会は実質少ない。そしてエルヘブンの民の中に、リュカやマーサのように基本のヒアリング能力が高く、彼らの行動様式を理解する者がいる。
 エルヘブンの一族が代々受け継いできた能力ならば何から何までバラバラな彼らを理解し纏め上げ、ときに制し、場合によっては命令もするが、彼らもまたそれに従う。天空の血筋だけでは深いところでの相互理解が出来ないために、彼らの多くを従わせることまではできないものと思われる。
 ミルドラースを倒した後リュカは魔物たちを集め、故郷に帰りたい者はいるか、いるなら送り届けると声をかけた。だが誰一人としてこのグランバニアを離れた者はいない。それはリュカ自身が魔物たちから好かれ、全幅の信頼を集めている証拠でもある。それがとても嬉しかったと、彼はほんのちょっと目を潤ませながら、隣で寛ぐ妻にだけ暴露していたのだった。
 ふとそれを思い出したビアンカがティミーの頬を両手でぺちんと叩いて挟み、少し落ち込んでいる様子の息子を励ましつつ話の続きを促した。
「で、大会議室のほうはどうなの」
「ピピンがいるけど、他に誰を置こうかなーって思って……」
 ティミーが頬を掻きながら困った様子で眉根を寄せる。
「バトラーは? あの人が一人いれば十分じゃないの」
 ヘルバトラーはアンクルホーンの上位種と言われている魔物で、バトラーに至ってはいかつい顔をしているが、物腰は柔らかく実直な性格をしている。
「外に出たくないってさ」
 想定外の斜め上を行く答えに、ビアンカが呆気に取られた顔でまじまじと息子の顔を見つめ返した。
「はあ? どういうこと?」
「なんか身体が痒くて引っ掻いてたら、毛がごっそり抜けちゃったんだってさ。太腿のとことかすっごいハゲてた」
「へえ……そう……」
 乾いた笑いを交えつつ、ビアンカが半目になっていた。
「換毛期だからベホマも効かないんだって。床に落ちてたのまとめたら、プリズンが上に座ってて可愛かったよ。クックルにすぐ退かされてたけど」
 ティミーが説明した場面を想像して思わず吹き出す。
「巣材にするって?」
 収集癖のあるクックルは、巣材になるものは何でも集めている。バトラーの抜け毛もその対象のようだ。
「うん。まあそんなわけで、バトラーはあんまり乗り気じゃなかった」
「悪魔の癖に換毛期とかなんなのよ……」
「しょうがないよ。まあバトラーだと強すぎるし、切り札として控えて貰っとこう……あっ」
 話の途中で何かを思いついた様子のティミーが目を輝かせた。
「そうだ、サーラはどうかな!」
 メッサーラはグランバニア周辺の洞窟を住処としている魔族で、以前ルヴァが呪文習得の際に一度戦っている。
 魔物たちの中では少数派の日頃から人語を話せる種族でもあり、人間社会を理解している上、低く落ち着いた声の良さに住民(特に女性)からの人気も高い。