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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「そうねー、サーラだったらザキとマヒは無効だし、いいんじゃない?」
 ビアンカが呑気にそう答えた矢先、突然ドン、ドンと砲撃の音が城を揺らし、窓硝子にも衝撃が走り抜けた。
 サンチョが眉間にしわを寄せ、出入り口の扉を睨みつけながら話に割って入る。
「……お急ぎくださいませ。のんびりしている時間はないようです」
 淡々といつもの声音で告げ、さっと一礼すると宝物庫のほうへ歩き去って行った。
 立場は召使とはいえ前王の時代からグランバニア王家に仕えているサンチョは、現王のリュカにすらズバズバとものを言う。
 リュカの幼馴染のビアンカも彼にとっては娘のような存在であり、その子供たちに至っては孫である。そのためこうして彼らをたきつける場合もある。
 いつまでもこうして籠城しているわけにはいかない────ビアンカとティミーの顔にも緊張が走った。
「……サーラと、あとは誰に任せるつもり?」
 ビアンカ自身はリュカの妻として仲間モンスターたちの特徴をほぼ網羅しているため、本来ここでのんびりとティミーと相談する必要はない。
 だが今まで一家の司令塔として全ての決定権を持つリュカに従い生きてきたティミーが、いつかは父の跡目を継ぎこの国の王となる。今の状況はある意味彼の内面を育てる良い機会だと、ビアンカは考えていた。
 そんなビアンカの母心をよそに、ティミーは難しい顔をしてがりがりと頭を掻きむしる。
「うーん……ピエールがいないのはやっぱり痛手だなあ……体力あるしサイモンに任せようか」
 さまよう鎧のサイモンは武器屋の親父と喫煙仲間だ。サイモンの鎧の隙間から煙がもうもうと立ち上るさまに、いつも大笑いしている。
「そしたらサイモンにくっついてホイミンも一緒だよね、回復任せるよ。お母さんはそっちについてて」
「ピピンと?」
 王妃への過剰なヨイショぶりは旅の最中から現在も尚続いている。当のピピンは王を和ませるためだと言い張っていたが、そうとも言い切れないとティミーは感じていた。
「……お父さんが見たら怒りそうだから、やっぱりぼくがそっちに……」
 天空の血を継ぐ二人はそれぞれの持ち場に散ることで、城内のどこから邪悪な存在が現れても気付けるようにした。
 これはリュカが旅立つ前、万が一に備え妻と子供たちに言いつけておいた作戦だ。
 束の間考え込んだビアンカがにこやかに口を開く。
「町の人のほとんどは宝物庫にいるのよね? それならティミーがいたほうがいいわ。わたしが大会議室に行くわね」
 そう言ってすたすたと階段目掛けて歩き始めたビアンカの背に、不安げな言葉が投げかけられた。
「お父さん、怒らないかなあ……」
 その言葉にビアンカはぴたと足を止めて振り返り、軽い調子で返事をする。
「だーいじょうぶだってば。わたしが決めたって言うから、ね? 子供はそんな心配しなくていいのっ」
 ティミーは不服そうに唇を尖らせ、がりがりと頭を掻く。
「そうだといいんだけどさあ……」
「リュカが怒ったとしても、プックルをけしかけるだけで済むんじゃない?」
 ピピンと遊んでこい、と笑顔でけしかける父の姿がすぐに想像できてしまい、ティミーは深いため息をつく。
「それがダメだって言ってるの!」
 ビアンカに近付く者はたとえ臣下だろうが町人だろうが容赦ないことを、息子であるティミーは良く知っている。そして、ビアンカ自身がその様子を楽しんでいる節があることも。
「お母さんもさー、お父さんに焼きもち妬かせるの、そろそろやめといてよ」
 今までポピーから聞いていた台詞がティミーの口から出てきたことに、ビアンカは驚きを隠さない。
「あらぁ、言うようになったわねー。でもまあ……そうね、ちょっと考えておくわ。じゃーね!」
 くるりと踵を返して上階への階段に向かう最中、王妃の表情にはほんの少しだけ寂しさが滲んでいたが、このときそれを目にした者は誰もいない。

 軽快に階段を駆け上がり、ビアンカは真っ直ぐにモンスター爺さんのもとへと走る。
「おじいちゃーん、サーラとサイモンを呼んでくれるーっ?」
 気が急いていたのか、駆け寄りながら少し離れたところから声を張り上げた。
 モンスター爺さんは突然の呼びかけにも穏やかな表情で頷き、部屋の奥へと消えていく。
 それからすぐにがちゃがちゃと足音が響き、サイモンとサーラが現れた。
 鎧そのものの姿ゆえにどんなに静かに歩こうが音を立ててしまうサイモンの後ろから、ホイミスライムのホイミンが飛び出してきて触手をサイモンの腕に絡めて纏わりついている。
 歩く速度はサーラのほうが早いため、先にビアンカの側へ来たサーラが問う。
「どうした、おれたちの出番か?」
「ええ、大会議室の中で待機よ。町の人たちの護衛をするわ……まだ城内には入って来てないけど、早めに避難して貰ったの」
 表情の変化に乏しい魔物たちも多い中、サーラは仲間になった当初よりも随分と優しい顔つきを見せるようになったとビアンカは思う。
 ビアンカの話に耳を澄ませながら首周りの毛を撫でている姿は、とても人間臭い。
「分かった、任せておけ。だがビアンカ、おまえはあまり動き回るなよ。今も走っていただろう?」
「ええー? 大丈夫よこれぐらい。リュカより過保護ねー!」
 そう言って苦笑いするビアンカを前に、サーラは呆れたようにため息をつく。
「とにかくだめだ……おまえに何かあったら、リュカに申し訳が立たん。本当に無茶だけはやめてくれ」
 いつもはクールな話しぶりであるにも関わらずこうして細やかな気遣いをするサーラが、このグランバニアでピエールに次ぐ人気なのも頷ける。
「分かったわよ、絶対無理はしないから」
 二人がそんな会話をしていたところへ、所持品のチェックを終えたサイモンが話し出す。
「どれ、そろそろ行くか。おまえはビアンカちゃんの腕にくっついてな」
 サイモンはそう言いながらホイミンの触手を自分の腕から引き剥がし、風船のように片手で持ってビアンカの側へと寄せた。
 ビアンカが片腕を持ち上げるとすぐにするすると絡みついてくる。
 このホイミスライムは人懐こいが普段余り喋ることはなく、稀に気が向いた時にだけお喋りになるのをこの場の者は知っているため、ホイミンが無言を貫いていても気にした様子はない。
 そうしてビアンカを先頭に、彼らは足早に大会議室へと向かった。

 そして宝物庫内では、クックルが町人たちの間に紛れ、アンクルが扉の側に立ち、オークスが奥の壁にもたれて待機していた。
 きっちりと締め切った扉の前にはサンチョが待機し、ティミーの姿を確認すると眩しそうに目を細めた。
 白銀の鎧に身を包んだ堂々たる雄姿を見て、彼とポピーが生まれたばかりの頃から世話をしてきたサンチョの中にはじんと感慨が染み渡る。
 何故だかちょっと涙目になっているサンチョを不思議そうに眺めながら、ティミーが口を開いた。
「ごめんね、遅くなっちゃった。なに、どうしたのサンチョ」
「いえ……歳を取るとね、ちょっと涙もろくなるもんなんですよ……お気になさらず。こちらの準備は整っております。私は中にいたほうがいいでしょうか」