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しょうきち
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novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 今日は母もサンチョもちょっと変だ────とティミーは訝しむが、直後に気持ちを切り替える。
 城を包囲している連中は全て人間の姿をしている。だが手段を択ばなくなったとき、人は極悪の極みとも言える残酷なことでも平気で行うものだ。
 ポピーが聖地へと旅立ってから、彼らの要求を突っぱね続ける内に湧いてきた違和感────頭の片隅で日々存在感を増していくそれを警戒し、ティミーは神経を働かせて束の間の思案に耽る。
「んー……そうだね、ここはぼく一人で守るよ」
 もしも仮に彼らがただの人間の集まりであったなら、攻め入ってくるとすれば正門を突破してきてこの宝物庫にも押し寄せることだろう。
 問題は魔物と人が結託している場合、若しくは人の姿を模した魔物そのものの場合で、そうなると壁や扉というものの存在は防御の意味を失ってしまう。ティミーはそのケースも想定し、念のためサンチョに宝物庫内部で待機して貰おうと考えた。
「かしこまりました。では何かありましたらすぐにお知らせできるようにいたします」
 実戦における戦闘能力は父リュカほどではないにせよ、回復呪文が使えて魔を遠ざける武器防具に身を包んだティミーは、その存在自体が強固な盾の役割となる。
 非常時に御身を晒し矢面に立つことを恐れないのは血筋のなせる業だろうかと、町人たちが息を潜めてひしめき合う宝物庫へ足を踏み入れながら、サンチョはふと考え込んだ。

 移動呪文ルーラにより、ポピーたちは無事にグランバニア城近くへと到着した。
 上空には相変わらず流れの遅い雨雲が空一面に広がり、時折ぽつりぽつりと雨粒を落としている。
 そんな中、アンジェリークとルヴァは懐かしそうに城を見上げ、それから二人で視線を交わし合う。オスカーとランディは真剣な表情で注意深く辺りの様子を窺いながら、敵の来襲に備えて剣に手を添えている。

 そこで砲撃の音が立て続けに響き渡り、一行の間には緊張の波が拡散する。
 アイスブルーの瞳を細めたオスカーが小さく言葉を漏らす。
「……大砲か」
 その言葉に、何かを考え込んだ様子のルヴァが用心深い表情を見せて呟く。
「大砲の音……ですねえ。ふーむ」
 片手で口元を覆いぶつぶつと何かを呟くルヴァへ、アンジェリークが問う。
「どうしたのルヴァ。何か気になるの?」
「えっ? あー、はいちょっとだけね。これはおかしいなと思いまして」
 足音を立てないように少しずつの歩幅で歩きながら、ルヴァの次の言葉を待ちきれない様子でオスカーが問い返す。
「おかしいとはどういう意味だ?」
「……今の砲撃の音を数えてみたんですがね、ざっと十台はあったと思うんですよ」
 ルヴァの発言にオスカーは怪訝な顔を隠さず、片眉を上げて答える。
「それがどうした。戦場ではそのくらい普通だろう」
 単に戦場と言うものを知らないだけと思ったオスカーが呆れた口調で言うも、ルヴァの表情は硬いままだ。
「ええ、その通りです……が、ここは深い森に囲まれていますから、そんな台数を置けるような開けた場所があっただろうかと────それに」
 他の者も二人のやり取りに耳を澄ませ、話の邪魔をしないよう見守りながら小幅で歩き続けた。
「陸路で来るには南西にあるあの険しい山脈を越えなければなりませんし、他に迂回する道もありません。頂上の村を攻撃の拠点にするのも難しいでしょう」
 そう言ってルヴァは木々の間からちらりと見えるチゾットの岩山を指差し、他の者たちは皆そちらへと目を向けた。オスカーが興味深げにふむ、と小さく唸って口を開く。
「確かに。あの山脈を越えて城を包囲するだけの人員とともに大砲まで運んでくるのは、不可能ではないが戦略的にメリットも少ないな。村からここを狙うにしても難易度が高い……」
 納得した様子で頷き、オスカーはルヴァの次の言葉を視線で促す。それを受けて頷き返したルヴァが続きを話し出した。
「他には海路と空路がありますが、海から大砲付きの帆船で来たのだとすると、地形的に見て兵士や仲間の魔物たちが気づかないとは考えにくいんです」
 以前訪れたときに貸して貰った地図でこの周辺の地形について頭に入っていたため、それを思い出すとどうにも腑に落ちない点が散見したのだ。
 グランバニアから北方はすぐに穏やかな内海が広がり、そしてその内海と繋がる水道はとても幅が狭い上に入り組んでいるため流れもそれなりに速く、おまけに城からの見晴らしはとてもいい。大型の船がそう簡単に侵入できるだろうか────とルヴァは考えていた。
「予測し得る数の軍備だけでも人や馬だけで運ぶには、陸路・海路共に少々無理があります。とすれば、残るは空路────こちらの世界ではまだ飛行機や飛行船の類はないので、魔物たちが直接武器を運んでいる可能性も、ゼロではないということです」
 ルヴァの考察にアンジェリークの顔つきがにわかに険しくなり、何かに気づいた様子でポピーへと視線を投げた。
「ポピーちゃん、仲間の魔物たちには空を飛べる子もいたわよね」
 これまで話の流れを静かに聞いていたポピーが顔を上げ、アンジェリークの翠の瞳に促されるようにこくりと頷く。
「あ、はい。魔物さんたちは人や魔物の気配ならすぐに気づきますから、兵士さんたちはその分海側をよく見るようにと言われてるそうですけど……」
 そこでポピーはゆっくり瞬きをしてからおもむろに話を続けた。
「ここを襲撃してくる魔物たちは、大体空から来ています。ルヴァ様のお見立ては正しいのかも……」
 ルヴァの中ではもう一つの懸念があったが、それよりも間近に見えてきた光景の前に言葉を失った。
 閉じられているはずの正門が破られ、武器を手にした民衆が一斉になだれ込んでいる決定的瞬間を目撃し、膝から崩れ落ちたポピーを隣にいたランディが咄嗟に支えた。
「だ、大丈夫かい!?」
「どうしよう……どうしよう、みんなが」
 ランディは青褪めて小刻みに震えるポピーの肩を支えながら、せめて彼女の中にある勇気を奮い立たせてあげたいと願った────彼が司る勇気のサクリアを、この世界の魔法のように直接与えられたら良かったのに、と思いながら。
 アンジェリークがちらりと正門へと目を向けると、先程の大砲は門を打ち破るためのものだったと分かる。
 そっと近づいてポピーの両手を取り、そのまま静かに目を閉じて背中から淡い金色の翼が現れた刹那、ポピーの震えが収まっていく。
「アンジェさま…………」
 動揺を一切見せない女王の貫録に守護聖たちは皆ほっと胸を撫で下ろし、女王と同様に柔らかな笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、わたしたちがついているわ。早く皆にあなたの無事な姿を知らせてあげましょう……ね?」
 優しい声音にこっくりと深く頷いたポピーを尻目に、アンジェリークはちらとオスカーたちへ視線を投げかける。「前線を突破せよ」という無言の指令を受け、オスカーの顔が守護聖としてのものではなくなった。
「……ルヴァ、後方は任せた。行くぞランディ!」
「はい!!」
 このとき既にオスカーの瞳は前方だけを睨みつけ、話を振ったルヴァとランディへは一瞥もくれていなかった。普段は話をしている相手の目をしっかりと見つめる彼の、仲間に対する無意識の信頼がそこに在った。