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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 足元のぬかるみなど気にも留めず鞘から剣を引き抜き、未だ正門前で喚き散らしている民衆目掛けて突っ込んでいくオスカーの後を、ランディもすぐに追いかける。
 そちらを確認したルヴァが小さく呼吸を整え、理力の杖を両手に構えた。今回は全てのサクリアが揃っているせいか、アンジェリークの調和の力を借りなくても余裕がある。
「ポピー、オスカーにバイキルトをお願いしますね」
 言われた途端に始まる詠唱を聞きながら、ルヴァは短く息を吸って言葉を紡ぐ。
「竜の力、我らの鱗となれ────」
 味方全員の守備力を上げる呪文、スクルトを唱えるルヴァ。一行の体を包んだ淡い光は、薄い膜になって定着した。
 彼の詠唱は辞典に乗っていたこちらの言葉を一度別の言語に訳し、置換したそれを詠む形で呪文を発動させているため、ポピーたちのように詠唱の最後の後押しとして呪文を唱える必要がない。
 守護聖として知識と知恵を司る彼にとって、こちらの世界で一般的な詠唱方法をそのまま暗記し読み上げるのは容易かったが、そうすると呪文の成果が不安定になることが分かり、詠唱全体の意味を把握した上で翻訳する手法を取っている。そうすることで結果的に詠唱時間を短縮でき、呪文の発動も安定するのだ。
 ルヴァのスクルトが発動した直後、ポピーの声が響き渡る。
 高く掲げた右手から光が放たれ、オスカーの足元からも同じ光が迸っているのが見えた。
「獅子の力、玉響に宿らん!」
 ルヴァは最初の詠唱の後すぐに集中力を取り戻し、ランディへ向けてバイキルトをかけた。ポピーの詠唱が終わってすぐに重なり響いた詠唱の早さに、ポピーが目を丸くさせている。
「……ルヴァ様、相変わらずすっごい……」
 えげつない、という最後の言葉は胸にしまっておいた。
「えええっ? そ、そうですかー? いえね、何だかそのう……以前よりもすぐに無になれたと言いますか。私にもよく分からないんですけど」
 戸惑った様子でそう言いつつ、視線はアンジェリークへと向いていた。
 女王の持つ調和のサクリアの威力について、前回の冒険で重々理解したと思っていたのに────と、誇らしさと切なさが入り混じる少し複雑な思いで彼女を束の間見つめ、それから気を引き締めて辺りの様子を注視した。
 前を颯爽と駆けてゆくオスカーとランディの向こうに壊れた城壁と正門が視界に入り、大砲の存在を探してみたものの周囲にそれらしいものはない。グランバニアに正門しかないことは把握済みだ。ここを突破するならこちら側のどこかに大砲を置かなければならないのだから、これはやはりおかしいとルヴァは考える。
「二人とも正門前を見てご覧なさい、大砲などどこにもありません────伝説の勇者は魔を退けると以前聞きました。ここは一刻も早くティミーと合流したほうがいいでしょう」
 彼の頭の中にあったもう一つの懸念とは、北の教会前でクラヴィスが言った内容についてだ。 
(行く先を阻む者の中にも曖昧なものがいる、とクラヴィスは言っていましたが……はてさてどちらの意味だか)
 早足で歩き出したポピーを前に、それまで彼女の隣にいたアンジェリークがそろりと振り返った。
 その表情が女王のそれではないと気づいたルヴァが、くすりと笑んで片手を差し出す。
「お手をどうぞ、アンジェ」
 束の間訪れた二人の時間にアンジェリークの口角が上がって頬は淡く薔薇色に染まり、ルヴァの手の上に白い手が重なった。
 ルヴァはそのしなやかな手を引き寄せて甲に掠めるほどの軽い口づけを落とし、歩き始める。
 繋いだままの手は、暫くの間どちらからも解かれることはなかった。

 再び時は遡り、グランバニア城宝物庫内では────
 ぺたりと床に座り込んだクックルが、町の子供たちに囲まれ撫でくり倒されていた。
「クックルかわいいねー!」
「羽根もきれいだねー! ふわふわー!」
 そんな子供たちの無邪気な声に耳を傾けながら、おとなしくぐりぐりと撫でられていた。
 魔物ではあるが鳥獣タイプのクックルは子煩悩で穏やかな性格をしていて、魔物たちの中では小柄な部類に入るためにあまり怖がられることはない。
 だがパワーが有り余る子供のこと、どう見ても撫でるとは言い難い扱いにひたすらじっと耐え忍んでいたところをオークスに笑われた。
「ククク……その内羽根をむしられないようにな。回復してやろうか?」
 目を閉じて耐えていたところへ来ての無神経なからかい(に聞こえた)に、クックルがくちばしをカチカチと鳴らして威嚇する。
「うっさいわね、青豚!」
 四方八方から伸びてくる小さな手にもみくちゃにされながらクックルは言い返すも、オークスは更に笑う。
「まあそう怒るなよ。ガキのオモチャにされてるのが滑稽なだけさ」
 手持無沙汰だったのか、手にした槍で床をコンコンと突きながら、呆れた声音でオークスはそう言った。
 そこでふいにアンクルがきょろきょろと視線を宙に彷徨わせ、小首を傾げる。
 オークスとクックルも同様に奇妙な感覚を感じ取り、アンクルと同じく部屋中に視線を這わせる。
 が、特に異変はないと確認してクックルが再び地面に座り込んで話を続けた。
「……子供のオモチャ扱い、いいじゃないの。アタシが怖がられてないってことなんだから」
 それまで犬猫と同等の扱いをしてきていた子供たちの動きが一斉に止まって、皆一様に困惑の表情を浮かべた。
「……クックル、お話できたの?」
 子供の一人がそう切り出した途端、事態が呑み込めないクックルが子供たちを見た。
「え……? お、お話って?」
 たちまちキャーッと黄色い歓声が上がり、人間の大人と魔物たちがぎょっとした顔でクックルへと視線を集中させた。
 嬉しそうな子供たちの様子を見て、オークスが状況をなんとなく理解してクックルに告げる。
「どうやら、おれたちの言葉が解るらしいぞ。一体どういうことだか知らんが……そうなんだろう?」
 オークスが確信を持った口振りで子供たちに問いかけ、周囲にいた子供たちが一斉に頷く。
「あらまあ、そうなの? リュカやポピーみたいに?」
 よっこらしょと再び立ち上がり、全身の羽根をぷるんと震わせてから再び座り込むクックル。揉みくちゃにされボサボサに乱れきった羽根は綺麗に元通りになる。何かで気持ちが落ち着かないときにやる仕草だ。
 そしてアンクルも彼らの近くへと近づいてきた。
「お嬢……ポピーが無事帰ってきたようだぞ」
 アンクルの言葉に、近くにいた男児ががばっと顔を上げて叫ぶ。
「ポピーさまが!? 本当に!?」
 そう叫んだ途端、辺りがにわかに騒がしくなった。そのざわめきの多くは王女の無事を喜ぶものだ。
 魔物たちも乏しい表情ながら、彼女の無事の帰還を喜んだ。そして、これまで全く先の見えなかった一連の問題に解決の兆しをも感じて、救われた思いでもあった。
「ああ……恐らくな。覚えのある気配がしている……分かるか、オークス」
 真剣な会話の最中、子供たちがわあいとアンクルの腕にぶら下がって遊びはじめ、彼はその光景を嫌がるでもなく見守っている。
 向かいにいるオークスも微笑ましさに目を細めながら口を開いた。