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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「そうだな、他にも大きな気配がある……聖地とやらの住人だろうか。あの気配がしたと思ったら、こうなった」
 警戒心の強いオークスは槍から手を離さないまま壁に背を預けていたが、アンクルは子供たちに囲まれ始めたためやむを得ず片膝をついた。
「天使と賢者を連れ帰ったんだ、これでリュカを探しに行けるだろうよ……おっと、落ちるなよ坊主」
 子供たちの間では通称おっさん登りと呼ばれているが、その名の通りアンクルの大きな体躯によじ登ってはスルスルと滑り降りてを繰り返し、うっかり転げ落ちてきた子供をアンクルが受け止め、そっと足元に下ろしてやる。
 クックルも小さな手に耳の辺りを撫でられ気持ちよさそうな顔をしながら会話に混ざる。
「そうしたらアタシたちの勝ちは間違いないわねェ」
 魔物たちの会話を聞き、住民たちの中にも徐々に安堵が広がっていく。
 しかし、そんな和やかな空気をぶち壊すかのようにけたたましい砲撃の音が轟いて、再び緊迫した空気に変わった室内で真っ先に警戒したクックルが一際高く鳴いた────それは戦いが迫っていることの証である。
 アンクルもすぐさま険しい表情を浮かべ、纏わりついていた子供たちに離れるよう促した後、元の位置に立つ。
「さあて、どこからでも来るがいい……目に物見せてくれるわ」
 そう言ってアンクルは吹雪の剣を手に取り、ニイと口の端を上げた。
 彼はリュカの方針で力の種を散々食べさせられてきており(食事に混ぜられていたため当人は知らない)、志願して参加したエスターク戦では打撃、魔法力ともに驚異的な働きを見せた猛者の一人である。
 既に戦闘態勢に入ったアンクルへオークスが突っ込む。
「おいおい、まだ敵が現れると決まったわけじゃないだろ。おれたちは護衛だぞ、じっとしてろよ」
「そういうおまえこそ、さっきからずっと槍を持ったままだろう。わしに文句言える立場か!」
 口論になりかけたところでクックルが一鳴きして場を諫めた。
「ほらほらあんたたち、子供の前でおやめなさいな。ったくロクでもないおっさんたちだこと!」
 言葉が分かるせいで住民たちにもそのやりとりがはっきりと伝わっていて、くすくすと笑いが起きている。
 その間、サンチョは扉をほんの少し開けてティミーと会話していた。
「……サンチョ、さっきの砲撃で正門が壊されたみたい。もうすぐ来るよ」
 いつもはやや淡いティミーの青の瞳は、緊張のせいか怒りのせいか、深い色合いになっていた。
「左様ですか……ではこちらもすぐに施錠いたします」
「うん、そっちは任せたよ────ああ、それと……」
 顔を寄せひそひそとサンチョへ何かを告げ扉を閉めたティミーの耳に、群衆の足音が聞こえてきた。
 緊張で五感が鋭敏になっているのか妙に大きく響き渡るそれを振り切るように、彼は扉に背を向けて仁王立ちの姿勢で待った。
 室内ではサンチョが扉に両手を当てたまま、ティミーの前では見せなかった硬い面持ちで佇んでいる。今しがた早口で告げられた言葉が彼の頭から消えない。
(皆には絶対に攻撃しないように言っといて。ぼくが全部責任取るから)
 今回の相手は世界各地から集まって来た人間であり、今までの戦いのように魔物相手ではない。手に掛ければ国家間の問題になりかねず、そうなれば当然裁かれる可能性も出てくるとティミーは分かっていたのだ。
 それはつまり、王の子として己の首を差し出すつもりでいるという並々ならぬ覚悟────皆で戦えばいいという家臣の反対を押し切り、一切外部への攻撃を禁じた真意がそこに在った。
 同盟国ラインハットへ向けて援軍の要請をしたのは、ポピーが旅立つ少し前のことだ。だがあれから一週間が経過した今もまだ派兵されては来ず、一通の知らせもない────肝心なときにあの国と来たら、とサンチョは唇を噛む。
 ただでさえ先王パパス殺害絡みで怨恨のあるかの国のこと、今回の件でより一層毛嫌いしてしまったのはやむを得ないだろう。

 武器を手にした群衆がとうとうティミーの逃げ場を失くすように取り囲み、剣や槍を彼に向けていた。
 リーダーと見られる若い男だけは、帯剣しているものの落ち着いた様子で腕を組み、ティミーをじっと睨みつけている。背はティミーより高く、細身ながら程良く筋肉の付いた体をしていた。
「……おまえが王子だな」
 礼を失した不遜な態度で、男はティミーを見下ろしている。
「そうだ」
 ティミーのほうもまたご丁寧に自己紹介する必要もないと判断したのか、じろりと睨み上げてぶっきらぼうに答えた。
「再三の忠告を無視したその態度は目に余る。おとなしく魔物たちを渡して貰おうか」
 重苦しい空気が辺りに澱んでいた。
 ボス格の魔物と対峙したときによく似た雰囲気が戦いの日々を思い起こさせ、密かに闘志を燃やす。
「忠告? 何度も断ると言っている。彼らは魔王討伐の際に力添えしてくれた英雄たちだ、人の都合で殺させるわけにはいかない」
 あれを忠告と呼ぶのなら、世間一般では脅迫が全て忠告になってしまう。そもそも彼らとの交流は過ちでも欠点でもないのだから、文句を言われる筋合いすらない────と呆れて笑いそうになるのを堪えて言い返した。
「疫病の発生源だぞ、このままでは人は滅んでしまう。そうなってもいいんだな? ……伝説の勇者サマとやらが聞いて呆れたもんよ、人より魔物の味方をするとはな!」
 ティミーは男の挑発めいた物言いにも、それにつられた周囲の嘲笑にも動じないように、ぐっと腹に力を入れ平静を装う。
 視界の片隅で男の手がそろりと剣の柄に伸びたのが映り、更に神経が張り詰めていく。
「……あんたたちが言っている疫病についてはこちらも把握しているが、発生源がこの国だと言う根拠は何だ」
 回復の手立てがなくなり絶望しての暴挙なら、彼らを救済するべく出向く案も考えていた。しかし彼らの一連の行動にはそう言った強い念のようなものは少しも感じられず、ティミーは用心深く言葉を選ぶ。
 男の嘲笑がティミーの言葉尻に重なる。余りにも人を小馬鹿にした陰鬱な笑い方は真面目に話していたティミーの神経を見事に刺激して、それを見た男は更に歪な表情でもって厭味ったらしく言葉を紡いだ。
「魔物から感染しているのだから、人と魔物が暮らすという城から発生したと考えるのが妥当だろう?」
 まさかとは思っていたが憶測だけでここまで押し寄せてきたと言うのか────と、ティミーは唖然とすると同時に、徐々に高まる怒りに任せて気炎を吐く。
「そんなの……そんなの、ただの言いがかりじゃないか! もう一度言うよ、魔物たちは誰一人として殺さないし、絶対に渡さない!」
 一瞬だけ、脳裏に父の姿を思い浮かべた。
 自分が生まれる前からも、生まれてからも父リュカを信頼し、今まで何くれとなく力を貸してくれた魔物たちを守らなくては────その決意をまなざしに込め、目の前でにやつく男をきつく睨み上げた。
「交渉決裂……だな。では宣言通り、城攻めと行くか」
 言葉と同時に剣を抜き、切っ先をティミーに向けてくる。
「はなからそのつもりだったんじゃないの、白々しい」
 口振りに含まれた棘を包み隠さずにぶつけ、忌々し気に天空の剣を構えた。