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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 正真正銘の魔物相手ならこういうときにベラベラと情報を漏らしてくれるのに、と心で呟いていた。

 城外では、先陣を切って駆け込んできたオスカーが思い切り声を張り上げていた。
「怪我をしたくなかったら退けェッ!!」
 武器を手に構えていた群衆も、オスカーの気迫に押された幾人かが武器を捨て丸腰で逃げていく。
 それ程にオスカーの鋭利な刃物の如き睨みは恐ろしく見え、この世界でも恵まれた部類に入る長身の体躯がより一層威圧感を増していた。
 その後ろについて走りながら、ランディは周囲の様子を注意深く観察する。
 オスカーに斬りかかろうとする者はまだいなかったが、ランディ相手なら勝てるかもと意気込んだ民衆が襲い掛かってきた。
 その中の一人がわあと叫んで剣を振り上げたのが視界に入る。
(……うわ、すごくゆっくりだ!)
 勿論比較対象はオスカーの剣さばきである。これまでずっと訓練してきたせいでオスカーの太刀筋を覚え切ってしまい、武器を持つのは素人と思われる雑な動きに対処するのは簡単だった。
 下方に向けた剣の切っ先で相手の剣を受け止め勢いを殺してから、二の腕に剣の腹を乗せるようにして左腕を伸ばし、相手の右手首を下から掴んだ。そのまま外側へぐるりと捻り、相手が剣を落とすと同時に顔面目掛けて柄頭を叩き込む。
 本来ならここで即座に斬りつけるタイミングではあったが、風の守護聖として、人として、できる限り殺生はしたくなかった。あんな程度の打撃でも、痣はできてしまう────そのことを申し訳なく思いながらも、ランディは人の壁を崩しながら猛然と突き進むオスカーの後を追った。
 それから少し遅れて走って来たルヴァが理力の杖を掲げ、杖の宝玉が燦然と青い光を放つ。
「来たれ、幻惑の陽炎(かぎろい)!」
 幻惑をもたらす呪文マヌーサを唱えた途端に、杖の先から現れた靄が瞬く間に群衆を飲み込んでいく。
「これで……少しは攻撃を受けにくくなる、かと……」
 ぜいはあと息切れを起こして立ち止まるルヴァの隣へ、ポピーとアンジェリークが軽やかに追いついてきた。
「ルヴァ、大丈夫ー?」
 ふうと大きく息を吐いたアンジェリークがそう切り出すと、両膝を押さえていたルヴァが顔を上げ微笑む。
「ええ、大丈夫ですよー……走るのは不得手なので、すみませんねえ……」
 周囲に目を向ければ、しっかりマヌーサが効いているようだ。どうやら戦いに慣れてはいないらしい集団は、ことごとく幻に飲まれて攻撃を失敗している。
 ルヴァはその様子をじっと見て、頭の片隅に残っていた懸念がある確信へと変わった。
「……ポピー、あなた先に行ってティミーと合流してくれませんか」
 いつもの柔和な笑みを引っ込めて真剣な目つきをしたルヴァに気圧され、ポピーは思わず頷く。
「えっ? あ、はい……分かりました」
 それから二言三言をポピーに言付けて、彼はようやく微かな笑みを浮かべた。
「私たちもすぐに追いつきますから、今のうちに急いで行ってください!」
 足の速さは父リュカに似たのか、ポピーはひとつ頷いてからとてもしなやかな動きであっという間に駆けて行った。

 そしてその頃、城内ではティミー一人が群衆の半分を蹴散らしていた。
「どうしたの、ぼくを退かすんじゃないの?」
 散々返り血を浴びた姿で睨み据えると、ひっと息をのむ声があちこちから聞こえてくる。
 柄頭で殴打したり足を引っ掛けて転ばせてみたりとかなり手加減はしているものの、余りの力の差にまるで自分が弱いものいじめをしているような気にすらなってくる。
 それでもその中の幾人かはまともに戦えるようで、そんな相手には致命傷にならない程度に斬りつけて動きを鈍らせた。
 リーダー格の男は剣と盾を構えたままティミーから間合いを取り、静かに様子を見ているようだった。
「はっ……流石は魔王討伐を果たしただけはある……噂通り恐ろしい力だ」
 呻きにも似た低い声が、石造りの天井へと拡散して消えていく。城内はこれだけの人間が寄り集まっているにも関わらずひんやりとした空気に満ちており、緊張して汗ばんだ肌を即座に冷ましている。
 じり、と男の足が僅かに動いた。
 男が斬り掛かってくると見越して剣を持ち直し、呼吸を整える。
 それなりに切り傷はできていたが盾で防げる程度の攻撃ばかりで、いずれもまだ回復する程ではなかった。
 早々に決着をつけようと思ったティミーは、鋭い眼光をそのままにニヤリと口角を上げてみせる。その不敵な笑みが男を盛大に苛つかせた。
「ほら、かかってきなよ。ぼくを潰さない限り、ここから先には行けないからね。分かってると思うけど」
 重ねて言葉でも挑発をすると、男の目つきが明らかに変わった。
 父は幾度もすごろく場で一人戦っていたのだから、息子の自分だってこれくらい切り抜けられるはず────そう願って、ティミーは男が一歩踏み出してくるのを待つ。
 そこから男が一気に間合いを詰めて襲い掛かってくる。
 風を割り、王子の首目掛けて振り下ろされた刃をティミーは左手に構えた天空の盾で正面から受け止め、力一杯弾き返す。
 男が攻撃に備えて盾を構えるまでの僅かな隙を逃さず、ティミーの剣が男の右太腿を裂いた。
 銀の胸当てとすね当てを身に着けてはいるが腿当てはなく、盾もうろこの盾という装備としてはかなり軽装の部類に入る。それ故に隙間部分が多くなり攻撃しやすい。
 これが通常の戦士たちの戦いであれば、重装備のほうが高い防御力を得る代わりにどうしても動きは遅くなるために不利な面もある。しかし特殊な金属でできており、この世に二つとない天空の鎧は銀の胸当てよりもずっと軽量の上、それを身に着けているティミー自身も極限まで鍛え切っていて、人間相手ならもはや敵なしと言って良い。
 ティミーは男の太腿をかすめた後、そのまま剣を引いた。同じ場所を深く抉られ、男は痛みを堪えきれず呻きを漏らす。
「ぐうっ……!」
 天空の剣の真に恐ろしいところは、高い攻撃力だけではなく特殊な形状からなる豊富な攻撃方法にある。鋸で木を切るように往復させるだけで、大きく広がった剣先が引っ掛かり深々と肉を裂くのだ。
 ぱっくりと裂けた傷口から、間を置かず鮮血が溢れ出す。
「……まだ戦うかい?」
 鼻先に届く血の匂いにティミーはほんの少し顔をしかめながら彼に問うが、男からは憎悪に満ちたまなざしが向けられ、それが返答と受け取ったティミーの口から、突き放すような一言が発される。
「…………そう」
 右腿を赤く染め苦痛に顔を歪ませていても尚、意志を貫こうとする────正直に言って、彼らに勝ち目があるようには思えないというのに。
 男がきちんと鉄靴を履いているのを視認して、ティミーはすかさず屈んで剣を足首目掛けて差し込み、出っ張った刃先を鎌のように使い、右踵を引っ掛けて思い切り手前に引いた。
 痛みもあってか、男は足を掬われてあっさりと仰向けに転倒した。その隙に浮いた足先と地面の間に盾を素早くねじこみ、剣の切っ先を男の首に突き付ける。
 無言で睨みつけたまま、ティミーが男の膝を踏みつけた。
 天空の盾に足先が乗っている状態で、膝当てのない無防備な膝に体重を乗せる。