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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 しっかりと手入れが行き届いた自分の手とは対照的な彼の指先をなんとはなしに見つめながら、ろくすっぽケアもされず可哀想なゼフェルの手指のために、オリヴィエはいつも使っているハンドクリームを取り出し適量を手の甲に乗せてやり、満足げに口の端を上げる。
「ふぅん……あんたはそう思うんだ?」
 オリヴィエのジェスチャーに促されておとなしく両手を擦り合わせつつ、ゼフェルが口を開いた。
「根拠は何もねー、ただの勘ってヤツ」
 かさつきがなくなり、先程よりは十代らしいきめ細やかな肌を取り戻した両手に照れ笑いを浮かべ、小声で礼を言うゼフェルに目を細める。
「あんたは何の根拠もなしにそーゆーコト言わないでしょ。そう思える『何か』をうまく説明できないだけでさ……あんたの教育係もそうなんだけど、ここには言葉のアウトプットに関してはすっごい下手クソなのがチラホラいるからねー」
 むしろ割合としては過半数を超えてるかもと内心思ったが、それが声になる前にゼフェルの顔がみるみる赤らみ、眉間にしわが寄った。
「わ、悪かったな、不器用で!」
 むっすりと不服そうなゼフェルの表情に、オリヴィエは堪えきれず吹き出した。
「別に悪いなんて言ってないよ、言葉以外にも伝える手段はあるって話。あんたとどっかの誰かさん『たち』は言葉の代わりに分かりやすーく顔に出る、そんだけ」
 ほら、今みたいに────とは言わないでおいた。本題を外れる上、更に怒らせてしまいそうだったからだ。
「ま、その話は置いといて……私もあんたと同意見。あんなに強い思念だか夢だかを飛ばしてくるくらいだもの、女王陛下ならもう既に存じ上げているはずだよ。他の守護聖だったら……クラヴィスあたりもなんか拾ってそうじゃない?」
「クラヴィスか……あのおっさんならあり得るな」
 クラヴィスだけが事態の全容や重要ポイントをいち早く察知していた、などというケースは今まで数知れずである。それが理屈で説明できない物事の場合には特に顕著だ。
「でしょ。気になるなら、後で聞きに行ってみる? 私は先にロザリアに伝えておこうと思うんだけどぉ……」
 少し迷っている体でそう告げ、優雅な身のこなしで立ち上がる。
「そうだな、んじゃそっちは任せた。オレはクラヴィスんとこ探りに行ってみるぜ」
 本音を言えば、あの暗〜い執務室には立ち寄りたくない。できることならゼフェルが行ってくれれば楽なことこの上なし────そんな思惑がすんなりと叶ったためか、オリヴィエの表情がいつもの陽気さに満ちていた。
「オッケ〜イ、頼んだよ。私は早速補佐官探しの旅に出てくるわ〜」
 カフェを出たところでひらひらと片手を振り、それはそれは嬉しそうににっこりと微笑んだオリヴィエを見送ることもなく、ゼフェルは足早にその場を後にする。
(おめーもしっかり顔に出てんだよっ、さっきまで爆弾ケーキ食ったときみてーなビミョーな顔しやがってた癖に)
 どれだけあの薄暗いどころか完全に暗い執務室を毛嫌いしているのか────ほっと胸を撫で下ろしたのがゼフェルの目にも明らかで、思わず口元が緩む。
「オレは別に嫌いじゃねーけどなー」
 黒が基調の執務室はいつも香が焚かれ、ゼフェルは落ち着くのを通り越して眠くなってしまう。そのままソファで寝ていてもクラヴィスは何も言わない(迷惑だとは言われている)ので有り難いのだが、時折ジュリアスが怒鳴り込んでくる(そして二人まとめて怒られる)のが玉に瑕である。

 その頃オリヴィエは一旦執務室に戻ろうと宮殿の廊下を歩いていた。
 廊下の先からマルセルとランディが珍しく何やら言い争っている様子が気になり、そちらへと足を向ける。
「だから待てってマルセル。まだそうと決まったわけじゃない、きっと何か事情がおありなんじゃないかな」
 ランディの言葉の後、今にも泣きそうなマルセルの声がする。
「でもランディ、これはほっといちゃダメだよ! ランディも聞いたでしょ、あの声」
 オリヴィエが彼らの視界に入る位置まで近づいても、二人はまだ言い合っている。
「ああ聞いたさ。だけどオレたちが何て言うんだ? 悪いけどオレには言えないよ、あんなこと!」
 二人の頭を羽根のストールでぺしぺしとはたきながら間に割り込むオリヴィエ。
「はいはいストーップ、廊下ではもうちょっと静かにしなさいねー。一体何事なの、二人とも大声出しちゃって」
 ランディがさっとストール攻撃をかわしてオリヴィエを振り返る。
「あっ、オリヴィエ様! 良かった、執務室にいらっしゃらなかったから探してたんです。マルセルが変な夢を見たって言うんで、そのご相談で」
 ゼフェルに続き、またしても夢の話が舞い込んできた────これは鋼の守護聖が予測した通りかも知れない、とその目が僅かに細められた。
「あら、あんたも? ……で、それがなんでこんなところで言い合いしてるのさ。私の執務室で待ってても良かったのに」
 オリヴィエの素朴な疑問に、とても言いにくそうにマルセルが口を開いた。
「それが……ルヴァ様が、あの……」
 そこで言葉を途切れさせ、二人は顔を見合わせて眉尻を下げている。
「あーもうっ、はっきり言いなさいっ。ルヴァがどうしたって?」
 少し頬を赤らめたマルセルが意を決して叫んだ。
「ル、ルヴァ様がっ、浮気してるんですっ!」
 言葉の中身に対してかマルセルの大声に驚いたのかは不明だが、近くを通っていた女官たちがびくりと驚いている。
「マルちゃん声が大きい。……ごめん、今なんて言った? 私の聞き間違いでなければ、ルヴァが浮気してるって聞こえたんだけど」
 女王陛下以外の女性はイモか大根くらいにしか見えていなさそうなあの男が、よりによって浮気などあり得ない話、とオリヴィエはこめかみを押さえた。
 目に涙を溜めたマルセルをかばうように、ランディが代わりに話し出す。
「本当です。ついさっき、オレたち聞いちゃったんで」
「あーそう……何を聞いちゃったのかなー」
 何となく漂い始めたイヤな予感に頭痛が悪化してきたため、引き続きぐいぐいとこめかみを押した。そこへしょんぼりと項垂れたマルセルが小声で決定的な言葉を漏らす。
「ルヴァ様と……お、男の人の、あの……たぶんそういう声が、執務室から聞こえて来たんです」
「おとこっ!?」
 余りにも斜め上過ぎて顎が外れかけたが、気を取り直してもうひとつ気になっていることを聞いてみる。
「そ、それって……しかも執務室からって言ったよね……? ねえ、それから誰か出てきたの?」
 無言で首を横に振る二人。
「ってことはー、まだそのお相手は中にいるってことか……」
 もし隠れるとすれば執務机の下や奥の私室だろうかなどと逡巡し、段々楽しくなってきたオリヴィエ。
「二人には悪いんだけどさ、あのルヴァだよ? ここはひとまず、事実かどうかをこの目で! 耳で! 確かめに行こうじゃないか!」