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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 そしてルヴァの横にいたアンジェリークが興味津々でティミーの顔をのぞき込む。
「カッコ良くなったわね、ティミーくん! モテそうだわー」
 ふふと笑うアンジェリークに、ティミーは慌てて言い返す。
「や、あ、あの、そうでもないっ!」
 彼の中でずっと優しいお姉さんという印象だったアンジェリークが今はとても可愛らしく見えて、ティミーはすっかり狼狽えた。
 頬に熱が集まりちょっと居心地の悪そうなそぶりのティミーに、翠の瞳は嬉しそうに弧を描く。
「他の守護聖も連れてきたわ。落ち着いたら迎えに行く手筈になっているの」
 念のため小声で話そうと顔を近づけたアンジェリークを直視できないまま、ティミーの顔が一瞬だけ緊張に強張ったが、すぐに王子としての顔つきに切り替わった。
「碌なおもてなしも出来なくてすみません。今見ての通りの状態で……」
 ティミーがふと周囲を見渡すと、ルヴァ、オスカー、ランディがアンジェリークとポピー、ティミーを守るように囲んで立ち、先程まで武器を持っていた人々を自然に威圧していた。
 彼らには威圧している自覚は全くなかったのだが、守護聖特有の迫力に圧倒された民衆は皆戦意を失い、一気に大人しくなっていた。ティミーとオスカーの容赦ない戦いぶりを目の当たりにしていれば無理もない話である。
「わたしたちのことは気にしないで。早くなんとかするのが先だもの……ねえ、ビアンカさんはどこ?」
 きょろきょろと見回してビアンカの姿を探すアンジェリークへ、ティミーはにこやかに答えを返す。
「上の大会議室にいます。ポピーが戻ったんで、ここはぼくたちだけで大丈夫ですから、皆さんは先に母と合流して頂けますか」
「分かりました。じゃあまた後でお話しましょうね」
 ティミーの言葉にそう返して歩き出したアンジェリークの肩を、ルヴァがそっと引き寄せる。
 普段なら他の守護聖の前ではしない接触に、驚いたアンジェリークが彼の顔を見上げた。
「陛下、階段はあちらです。足元にお気をつけて」
 穏やかに告げるルヴァに導かれるようにして階段へと向かったアンジェリークだったが、このとき彼は周囲に倒れた者たちの姿や血痕が目に入らないように彼女の視界を遮り、視線を誘導していた。それにはオスカーも気付いていたようで、惨劇の痕跡が見えないように彼もまたやや大げさな動きでマントを翻し、剣を鞘に納めて二人の背後を歩き出す。
 ランディだけがその場に立ち止まり、ティミーとポピーへ話しかけていた。
「本当に二人だけで大丈夫かい?」
 幾ら戦意喪失しているとはいえ、人数だけでみればまだ多勢に無勢じゃないか────と、ランディは歳の近い二人を残していくのを躊躇っていた。
 それを察したポピーが、口角を上げて言葉を紡ぐ。
「わたしたちは広範囲の呪文も使えるので、二人で十分間に合います。ね、お兄ちゃん」
 白い歯を見せて無邪気に笑い合う二人の様子に、心配は必要なさそうだと安堵したランディが物分かりよく頷いた。
「そうか……きみたち凄いなあ。じゃあ俺は上に行ってくるから、後で合流しよう!」
「はい、ランディ様もお気をつけて」
 ポピーの笑顔に見送られ納得したランディは軽快に走り出し、先を行く一同の後を追って行った。

 アンジェリークたちが去った後、緊張が緩んだティミーがふうと大きく息を吐く。
「……良かった、ちゃんと帰って来たね。ハイお帰りのハグー」
 両腕を広げて歓迎の意思を示すティミーに苦笑しながら、ポピーも同じく両腕を広げて抱き着いた。
 ティミーがぎゅうぎゅうと力を込めると、ポピーが更に笑いながら抗議する。
「折れるよぉ〜ぐえ〜やめて〜!」
「折〜れ〜ろ〜!」
「やだ〜〜〜!!」
 幼い頃からずっと同世代の友人もなくいつも二人でいたせいか、年頃になってもよくこうしてはしゃいでいるのだった。
 散々からかい終わると腕が緩み、今度は優しい力でとんとんと背中を叩き合い、互いの無事と健闘を称えた。
 それからティミーはポピーの肩にそろりと額をつけて、感慨深げに呟く。
「もう会えなかったらどうしようって、ちょっとだけ怖かったんだ」
 妖精の世界、天空城、そして魔界と旅をして、今度は更に遠い場所への旅立ち────父に次ぎ妹まで挑んだ未知なる旅路。辿りつけるのかさえも分からない賭けに、不安を感じないはずがなかった。
「遅くなってごめんね、向こうで倒れて治療して貰ってたの。間に合ったんだよね?」
 無言で頷いたティミーが、再び腕に力を込める。どんなに心配をかけただろうとポピーは慮り、ティミーの張りのある金髪をそっと撫でた。
「まだ泣いちゃだめだよ、お兄ちゃん……お父さんを探しに行かなくちゃ」
「泣いてないよ。まだ何も終わってないしね」
 二人はこつりと額を合わせて両手を繋ぐ。ぼそぼそと祈りの言葉を囁いて、ぱしんと手を打ち合わせてから体を離す。
 それにより落ち着いた面持ちを取り戻したティミーが、意気消沈して佇む人々を見回しながらこそりとポピーに耳打ちをする。
「宝物庫の中、見てきてくれる? 大丈夫そうなら開けて、皆を連れてきて」
「分かった」
 すぐにポピーが二人の背後にある扉をノックして、中の様子を伺う。
 その間にティミーが剣を足元に置き、周囲に敵意がないことを示してからうずくまったままのリーダー格の男の側へ歩み寄る。
 彼の剣と盾を彼らから遠く離れるように蹴り飛ばし、片膝をついてじっと男の顔を覗き込む。
「……とどめを刺しに来たのか」
 膝を折られた痛みに脂汗をかいた男が朦朧とする意識の中で苦し気に切り出し、それをティミーは薄く笑い、静かに答えを返す。
「ある意味ではそうかも知れないね」
 言うなり右手を翳し、詠唱を始める。
 攻撃呪文が来ると思ったらしい男が、ぎゅっと目を閉じて顔を背けた。
 すぐに詠唱が終わり、ティミーの翳した手から青い光が溢れた。
 優しい光はふわりふわりと綿帽子のように降り注ぎ、目の前の男をはじめその場にいた人々の体を包み込んで傷口を塞いだ。
「はい、治療おしまい。もう歩けるよ」
 一般的には神職が行うことの多い回復呪文ベホマラーを受け、奇跡だ、神の御使いだと歓喜の声が上がる。
 ギギッと軋む扉の奥からサンチョが恐る恐る顔を出し、ティミーが何か話し込んでいる様子を目に留めた。
 膝の怪我が治ったのを確認した男がぽかんと口を開けて驚きに満ちたまなざしを向け、ティミーが小さく笑う。
「ぼくもただの人間です。両親がいて、妹がいて、城の皆と普通に暮らしてる……一人の人間です」
 どこかもの悲しさの漂うしんみりとした口調で話を続ける。
「そんなぼくの仲間で、友達で、家族でもある魔物たちを殺せっていう『あなたがたの望み』には、今日ここで死んで貰いました。でもあなたがたは自由ですよ」
 サンチョの後ろからポピーとアンクル、オークス、クックルが続き、更にその後ろから町人たちが宝物庫から出て来た。
 魔物たちの姿にぎょっとした顔を向ける者も多かったが、アンクルがたまらず口を開いた。
「おまえらはわしらが疫病の発生元だと信じているようだが、それならこの城の人間はとっくにこの世におらん。誰に聞いたか知らないが、話がおかしいと思わんのか?」