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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「十一人増えるってことですね、かしこまりました。軽食とお飲み物ならすぐご用意いたしますから、いつ来ていただいても構いませんよ」
 にっこりと微笑んだルイーダの前でぽりぽりと頬を掻いたティミーが視線を宙に彷徨わせ、それからルイーダへと顔を寄せて声を潜める。
「……あと、真っ赤な髪のオスカー様には気を付けてね。子持ちの人妻でも平気で口説いてたから、ルイーダも危険だよ。美人なんだから」
「まあ……それは大変。あたしも重々気を付けないと!」
 ルイーダは嫣然と口の端を上げて、片目をつぶって見せた。その手のあしらいには自信があるんだけど、と内心思ってはいたが。
 そこでくすくすと鈴の音のような声で笑いが起きて、一同は笑い声のした出入り口へと注目した。
 ルヴァにエスコートされて優雅に入って来たアンジェリークが口を開く。
「そうね、訂正するならオスカーは女性全てが攻略範囲よ。守備範囲外なのはお子様だけですって」
「あー、あの人はあれでとてもいい人なんですがねえ……いやはや」
 アンジェリークがビアンカへと手を振り、ビアンカもまた弾けるような笑顔で手を振り返している。いつになくはしゃいで嬉しそうな母の姿を、ティミーは頬杖をつきつつ穏やかに見守っていた。
「ルイーダさん、また暫くこちらにお世話になりますね」
 すぐにルヴァも笑顔を押さえきれない様子でルイーダに話しかけた。
「お久し振りですねー。こちらのお食事も楽しみにしていますよー」
 アンジェリークの翠の瞳と波打つ金の髪、そして相変わらずターバン頭のルヴァにルイーダも思わず破顔する。
「あらまあ! 物知りのお兄さんも可愛らしいお嬢さんも、お変わりなさそうで。いつでもいらしてね!」
 そうして、ポピーたちが北の教会から戻ってくるまでの間、一行は談笑に花を咲かせていた。


 時はまた少し遡り、北の教会前────
 頑丈な木箱の上に腰かけたマルセルが、両足をぶらぶらさせながらぼんやりと教会を見上げて呟いた。
「あーあ、なかなかお迎え来ないなぁ」
 ぷくと頬を膨らませた彼へ、ロザリアが困ったように微笑みながら言葉を紡ぐ。
「仕方がありませんわ。わたくしたちが一緒に行ったところで、足手まといになりますもの……」
 ロザリアはそう言いながら、先程アンジェリークから指示された通りに聖地から持ち込まれた箱の中から飲み物や菓子を取り出して、テーブルに並べる。
 それなりの長丁場になることもあの能天気な女王陛下は予測していたのか、それともこれもまた単なる偶然なのか────どちらにせよ、野営や屋外での調理が得意そうな面々は城へ行ってしまったのだから、こんなときの備蓄食料と飲み物は有り難いと素直に思えた。
 マーリンが睫毛のほとんど抜け落ちた灰色の瞳を瞬かせ、マルセルへ向けて頭を下げた。
「申し訳ございません。恐らくは予想通り、あちらで戦闘になっているのだと思われます……もう暫くご辛抱下さいませ」
 マーリンの姿にマルセルは慌てた様子で両手を振る。
「あっ、違うよマーリン。陛下たちは大丈夫かなって思っただけなんです。ごめんなさい、なんだか責めるような言い方しちゃって」
 マルセルの言葉にジュリアスが読んでいた本から視線を上げ、瑠璃色の瞳を空へと縫い止めたままで話し出す。
「オスカーたちがついているのだ、何があろうとうまく切り抜けるだろう……だが、このサクリアのアンバランスさはやはり気にかかる……」
 地面にどっかりと座り込んで機械いじりを始めていたゼフェルが、ジュリアスと同じように空を見上げた。
「ああ。ろくでもねー予感しかしねーな」
 世界中に不必要なほどに満ち溢れた鋼のサクリアと、炎と闇のサクリア────これらが結びついて導き出される結末は、争いである。
 リュミエールもまた不安そうな顔つきで空へと視線を流し、それから手の中のハープをじっと見つめた。
「水の優しさが感じられないほど、この世界は疲弊しているのでしょうか……」
 そこでマーリンが重々しい口ぶりで話し出した。
「疫病がそこまで蔓延っているのです。回復の手立てはありますが、完治させなければその先に待つのは死、あるのみ」
 魔物である彼にとって、守護聖たちが各々で感じ取っているサクリアの識別はできない。どれも大きな魔力の塊として認識している。
 だがマーリンは聖地に滞在中、サクリアに関する説明をルヴァから一通り聞いていたため、守護聖たちの話はすんなりと理解できた。
 そしてこのマーリンの言葉が彼らの中でとても重く響き、皆口を閉ざした────完治する治療法がないまま蔓延る疫病、争いに直結するサクリアの組み合わせ、そして激減しているサクリアと溢れ返るサクリア。それらは滅亡へと向かうきざはしになり得るからだ。
 静寂を破ったのは、首座の守護聖だった。
「クラヴィス、そなたはこの事態をどう見て…………クラヴィス?」
 問いかけながらぐるりと辺りを見回しているジュリアスへ、それまで黙していたオリヴィエがくいと親指で指し示して口を開く。
「クラヴィスならそこでぐっすりおねむだよ」
 指し示された先を目で辿り、木陰でくたりと寝ている闇の守護聖の姿を確認して、ジュリアスのこめかみが微かにひくついた。
「なっ……あれには緊張感というものはないのか……全く」
 ジュリアスは呆れたようにこめかみを押さえ、視界に遠慮なく映り込む片翼の姿を見たくないと言いたげに目を伏せた。
 それを見たオリヴィエが口の端を上げて言い放つ。
「私はむしろ安心するよ、様式美ってやつ〜? ほんと動じないよね」
 馬車から抜け出てきたエビルアップルのアプールが恐る恐るクラヴィスに近付いていき、彼の服に寄り添って微睡み始めていた。
 それを目撃したマーリンがすぐにアプールを回収しようと慌てて駆け寄っていく。
「ああ、これはとんだご無礼を……こらアホりんご、寝るなら馬車へ行けっ」
 完全に目を閉じようとしているアプールを抱きかけたマーリンの手を、クラヴィスが薄目を開けてそっと遮った。
「良い、寝かせてやれ……邪魔にはなっていない」
 クラヴィスの声は気だるげではあったものの、思いの外穏やかなまなざしでアプールに手を乗せ、口元を僅かに緩めて再び瞼を閉じた。
 撫でるわけでもなくぽんと置かれただけの手のひらに、アプールはより一層寛いだ顔つきになる。
 その様子を柔らかいまなざしで眺めていたマルセルが、ゆっくりと戻って来たマーリンへ声をかけた。
「ふふ……アプール気持ち良さそうですね。可愛いなあ」
 やれやれといった感じで片眉を上げたマーリンが、深くため息をついた。
「仕方のないやつです……本当にご迷惑にならなければ良いんですがのう」
「大丈夫だよ。クラヴィス様ってああ見えてね、結構動物好きなんだ」
 マルセルが友と言い張る小鳥、チュピに餌付けしている一人でもある。ゼフェルのメカチュピ(改)の追跡動画によると、クラヴィスのところでパンくずを貰い、続いてルヴァのところで米を貰っているらしい。そして足りないタンパク質は、マルセルとリュミエールの庭で虫を捕らえびたんびたんしている様子が撮影されていた。

 そんな彼らの前に光の塊が現れて、ポピーとオスカーが姿を見せた。