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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 普段誰からも指摘されたことがないような小さな事柄について、ジュリアスを始め守護聖たちはすぐに気づき、何かにつけ言葉にするところがある、とポピーは思う。
 王女としてではなく、勇者の妹としてでもなく、ただポピレアという一個人を見て貰えることが何故だかくすぐったい。
 そろりと視線を上げて、ジュリアスの横顔を盗み見た。彫像のようだと思って眺めているうち、ジュリアスがちらと横目で視線を合わせてくる。
「どうした? 私の顔に何かついているのか」
「……アンジェ様が、前にジュリアス様のこと彫像みたいに綺麗だって言ってらしたので、そうだなーって思って」
 実際にはアンジェリークとそんな話をしたことはない。あとで嘘をついたことをアンジェ様に謝っておこう、と気まずく思ったポピーが階段を一つ飛ばしで駆け上がり、元気よく振り返る。
「お疲れさまでした。酒場はもうすぐそこなので、皆さんごゆっくりお寛ぎください!」
 ぺこりと大きくお辞儀をしたポピーへ、階段を登り切ったオリヴィエとリュミエールが言葉を紡ぐ。
「なーに言っちゃってんの、あんたが一番お疲れでしょ!」
「そうですよ、遥々次元を超えて往復したんですから、あなたこそゆっくり休養してくださ……」
 言葉の途中で、リュミエールの目に通路の突き当り左側の部屋からそろりと頭だけ出して、こちらをじっと見ている金髪三つ編みの女性の姿が視界に映った。
 先程の会話から彼女がポピーの母だと判断したリュミエールが会釈すると、すぐに頭を引っ込めて奥へと行ってしまった。
 ポピーもちらりとそれを見ていたようで、小首を傾げている。
「あれっ、今お母さんがいたような……まあいいや。ルイーダの酒場にはお茶や軽食もあるので、お好きにどうぞ……あっ、お兄ちゃん!」
 母ビアンカにぐいぐい押し出されながらティミーが現れ、ポピーの姿を横目に捉えると苦笑いで肩を竦めて見せる。
 そこへ駆け込んできたポピーに、ティミーは両腕を広げる。
「お帰りポピー。はい、もっかいね」
「えーもういいよー。ぐえー」
 ティミーは余程嬉しいのか満面の笑みで妹をぎゅうぎゅう抱き締めて、それから少し乱暴に頭を撫でている。それへ呆れたようなまなざしを向けながら、ビアンカがとんとティミーの背を促した。
 髪をぐしゃぐしゃにされ小言を言うポピーの横で、ティミーは姿勢を正して一同を真っすぐに見つめる。
「お見苦しいところを失礼しました。ポピーの兄、ティムアル・エル・ケル・グランバニアです。この度は守護聖様のお力添え、大変有り難く存じます」
 他者の目には堂々と映っているが、身内の者からすると「他所行き」の顔と声に、ビアンカもポピーも半笑いを浮かべている。
 それに気づいたティミーが一度ぎろりと二人を睨みつけてから、ロザリアと視線を合わせた。
「女王補佐官ロザリアですわ。こちらこそ大勢でお世話になります」
 優雅に一礼をしたロザリアをティミーは一瞬呆けた顔で見つめ、横から妹につつかれ慌てて表情を元に戻した。
 それから各々で挨拶をかわしていたところにゆったりとした足取りでルヴァがやって来て、ちらりと全員の無事を確認してから言葉を紡ぐ。
「あー皆さんお揃いで。陛下も中でお待ちですから、さあさあどうぞー」
 ルヴァに促されぞろぞろとルイーダの酒場へ入って行く最中、ランディの姿を見たマルセルが早歩きで近づいていく。
「ランディ! 大丈夫だった?」
「ああ、お疲れマルセル。俺は大丈夫だよ、あんまり役に立たなかった気がするけど」
 形のいい眉を八の字にしながら、ランディはハハと笑う。
 カウンターに腕を乗せてずらりと酒瓶の並ぶ棚に眺め入っていたオスカーが、ルイーダから冷茶のグラスを受け取りながらランディの自信なさげな言葉をフォローする。
「そうでもなかったぞ、実戦のスタートとしては上出来だ」
「そ、そうですか? でも俺、オスカー様についていくのが精一杯で……」
 驚きに目を瞠るランディに向けて、オスカーの言葉は続いた。
「最初は誰でもそんなもんだ。これから腕を上げていけばいい」
 どくだみに似た香りの冷茶はほの甘く、干からびた喉を潤していく。
 グラスの中に取り残された氷に視線を落とし、オスカーが呟いた。
「……本当は、慣れて欲しくないとも思うんだがな」
 いざというときのために剣の腕を磨いておくに越したことはない。だが強さと引き換えに失われていく感情も、確かにある。自身はそれを当然のことと受け止めて生活してきたが、ランディはこの先どうなるだろう────束の間そんな思索に耽り、テーブルにグラスをそっと置いたオスカーだったが、長い指先は戸惑いを示すように暫くグラスのふちに触れていた。
 ごく僅かな声量で発されたオスカーの呟きが聞こえたか、それとも行動で何かを悟ったのか、ルイーダが伏し目がちに話し掛けた。
「いい蒸留酒がありますけど、お出ししましょうか」
「……いただこう」
 ちらと視線を上げて、カウンターの向こうで動き回るルイーダを見た。
 彼女は容姿も良かったが、それ以上にオスカーが気に入ったのは声だった。少し低めの落ち着いた声は、安っぽくなりがちな酒場の品格をぐっと高めている。
 オリヴィエが身に着けているショールをばふばふとオスカーの頭にはたきかけ、肩に腕を回す。
「おっと、ここだけ雰囲気が夜になってるじゃなーい。私にも同じの貰える?」
 ルイーダは化粧を施し派手な身なりのオリヴィエを見ても、特に動じることもなく淡々と応答する。
「かしこまりました。おつまみもご用意いたします?」
 カウンターの席に座り、長い脚をゆったりと組んだオスカーとオリヴィエが、それぞれ言葉を紡いだ。
「私は要らないよ。いいお酒につまみは不要、ってね」
「同感だ」
 話が一区切りついたらしいルヴァがとことことやって来て、ルイーダに声をかけてくる。
「あールイーダさん、私にはエールとナッツをくださいー」
 オスカーの中で彼はお茶ばかり飲んでいる印象だったため、切れ長の瞳を丸くさせて心の声がそのまま口から漏れた。
「おっ、珍しいなルヴァ」
 ルヴァはちょっと照れ臭そうに頬を掻き、オスカーへ答えを返す。
「ここへ来て初めて頼んだのが、これだったものでね。ちょっとした懐古趣味ですよ」
 エールとナッツの載ったトレイを受け取りありがとうと告げたところへ、ティミーがひょっこりと顔を覗かせた。
「なになに? ルヴァ様も飲むの? じゃあぼくも貰うよ」
 その言葉にぎょっとして、オリヴィエがすかさず止めにかかった。
「ちょっと、あんたまだ子供……」
「体が大人になったら飲んでもいいと言われてます。ただし度数の低いものだけですけど。ね、お母さん」
 話を振られたビアンカが、両手で大きく丸を作ってニイと笑った。
「興味津々なお年頃なんで。どうせ止めても無駄ならルール決めたほうが、お互い喧嘩しなくていいでしょー?」
 賢いやり方だ、とオスカーは思った。親が禁止したところでこそこそと冒険したくなるのが子供というものだからだ。
 同じようなことをオリヴィエも考えていたらしく、グラスに注がれた酒の香りを堪能しつつ、いたく感心している。
「へー、なーるほどねー。折衷案なんだね」