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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 そう話すオリヴィエの横で、オスカーは蒸留酒を口に含む。焼けつくような舌触りの酒が喉を燃やして胃に落ちていくのが分かった。
 細いステムとチューリップ型にくびれたボウルは機能美に溢れ、そして外側に広がりを持たせたリムに口づければ、細身のワイングラスのような形に注がれた蒸留酒はその存在を見せつけるかの如く、強く薫る。
 ふ、と緩く息を吐いた。
 人に化けていた魔物とはいえ生身の人間を刺した感覚を、胃から熱く拡散していく酔いが薄めてくれるような気がした。
 少し翳りのある横顔に、オリヴィエは隣をちらと見る。
 鎧のあちらこちらに血痕が付着しているのに気付き、それには触れずにオスカーを労う。
「あんたも、お疲れさん」
「何がだ」
 オスカーから即座に否定的な言葉が出され、オリヴィエは少し不快そうに柳眉の片方をくいと持ち上げる。
「人が折角心配してやってんだからさ、素直に受け取りなって。っとに可愛くないねー」
 守護聖としてはほぼ同期で気心の知れた仲ゆえの軽口の叩き合いが、オスカーの表情をいつものものへと戻していく。
「ふん、俺が可愛くても仕方ないだろう。どうせならそこの美女に心配してもらいたいね」
 アイスブルーの瞳はじいっとルイーダを捉えていたものの、事前にティミーから情報が回っていたためルイーダはクスクスと笑う。
「あら、あたし?」
 アンジェリークやルヴァと共に丸テーブルを囲み談笑していたビアンカが耳敏く聞きつけて、不服そうな声を上げる。
「えーちょっとー、わたしはどうなったのー?」
 ああもう、と頭を抱えたティミーはすぐに止めに入った。
「お母さんはちょっと黙ってて!」
 アンジェリークが母子の漫才のようなやり取りに柔らかく笑いながら、オスカーの背に視線を投げる。
「こっちでも大人気ね、オスカー」
 ビアンカがアンジェリークに顔を寄せ、ひそひそと話し出す。
「ちょっと気障だけど、格好いいわねー。あれは女官たちがほっとかないと思うわぁ」
 カウンターに座っているオスカーたちには聞こえていなかったが、向かいに座る息子にはしっかり聞こえていた。
「あれはちょっとじゃなくてだいぶ気障だよ。ルヴァ様やお父さんのほうが百倍格好いいね」
 ティミーは眉間に皺を寄せそう言うと、むっすりとエールをひとくち含んだ。
「もー何なのよ、さっきから!」
 母の抗議の声にも耳を貸さず、眉尻を吊り上げたまま言い返す。
「別にぼくは構わないんだよ、今の発言お父さんに言うだけだから。機嫌悪くなるだろーなー、ポピー」
「うん。『王さま、秋のパルプンテ祭り』開催かもねー」
 双子は素っ気ない口調で言い終わると、茶菓子に手を伸ばして黙々と食べ始めている。
 ポピーの言葉の意味を把握したルヴァが口元を緩ませた。
「それは、あの呪文をどんどん唱えるようなお祭りですか?」
 ルヴァの疑問にポピーが答える。
「はい。お父さんだけが楽しいお祭りです」
 それにはビアンカとティミーも同時に頷き、ルヴァとアンジェリークは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「被害については考えたくないですねえ……」
 ルヴァの言葉にも一家は大きく頷く。
 それからティミーが皿に盛り付けてある生ハムをごく薄く切られたパンに挟み込みながら、母へ向けてぴしゃりと言い放つ。
「そういう訳だから、お母さんは色々自重してください」
「はーい」
 ティミーは先程の鹿肉のパイだけでは足りるはずもなく、適当に合わせただけの生ハムサンドにかぶりついている。
 息子に釘を刺されたビアンカはつまらなさそうに口を尖らせ、椅子の背もたれに身を預けた。
 彼女の子供じみた仕草に、これではどちらが親なのか分からないとルヴァとアンジェリークがくすくす笑う姿に、すっかり毒気を抜かれたティミーの眉間の皺が緩和されていく。
 ルヴァは変わらないエールの風味を懐かしく味わいつつ、賑やかな会話を聞いていた。

 美辞麗句を並べ立て口説くオスカーをそこそこにかわし、ルイーダはぐるりと室内を見渡す。
 部屋の一番奥、角に面したテーブルではリュミエールとクラヴィスが静かに冷茶を飲んでいた。
「あら……あちらの方、竪琴を持っていらっしゃるのね。吟遊詩人なの?」
 当初は国賓だからと丁寧に接していたルイーダだったが、暫くカウンター越しに会話して慣れたために砕けた口調で言葉を紡ぐ。
 麗人と呼ぶに相応しい二人だとルイーダは思う。尤も、目の前にいる二人を始め異世界から来たという彼らは皆それぞれ個性的ではあるものの、平均を遥かに上回る容姿の持ち主たちである。
 オスカーは二杯目の蒸留酒に口を付け、ルイーダの視線を辿った。
「ん? ああ、リュミエールのことか? ハープはあいつの趣味でな、腕はいいらしいぞ」
「へえ……何か弾いてくれないかしら」
 ルイーダの言葉に、オスカーはオリヴィエと視線を合わせ、それからおもむろに口を開く。
「……それはどうかな」
「んー、難しいかも知れないけど、頼んでみたら」
 二人が言葉を濁したことで何かを察し、綺麗に口角を上げて微笑みを返した。
「そうね、そうしてみるわ」
 冷茶の入った水差しの底に布巾を当てて両手で持ち、ルイーダは奥のテーブルへと向かう。
 リュミエールが近付いてくる足音へと目を走らせ、穏やかな微笑を浮かべて会釈する。
「冷茶のお代わりはいかがですか。何か他のお飲み物もご用意できますよ、お酒は勿論ハーブティーや紅茶、果実のジュース、イリ・ディーム……」
 指折り数えてそう話すルイーダに、リュミエールがおやという顔を見せる。
「イリ・ディームとは聞き慣れない名前ですが、どのような飲み物なんでしょう?」
「ええと、こちらの古い言葉でイリが豆、ディームが細かいという意味です。焙煎をして粉にした豆を使うので、そう呼ばれていますわ」
 それ以上説明のしようがなく僅かに困った顔を見せたルイーダに、一つ手前のテーブルにいたポピーが助け舟を出す。
「イリ・ディームは聖地で言うコーヒーと同じものですよ」
 隣のテーブルにいたジュリアスがそこで興味を惹かれたように眉を上げた。
「ほう……?」
 艶やかに石榴の色を纏った唇の両端を持ち上げ、ルイーダはジュリアスに視線を投げた。
「試してみられます?」
「そうだな……では、私はそれをいただこう」
 クラヴィスが横目で視線を送り、ジュリアスへ向けて口を開く。
「……エスプレッソでなくていいのか?」
「あるなら頼みたいところなのだが……」
 僻地の星へ視察に行ったときも現地の言葉とのすり合わせが困難な場合も多く、そういう場合の対応は「あるもので賄う」のが定説だ。
 うーんと考え込んだルイーダが、「少々お待ちください」と告げて踵を返し、ルヴァのもとへと歩み寄る。
「ご歓談中失礼します。賢者様、エスプレッソってどういう作り方か教えてくださる?」
 テーブルに並べられた幾つかのつまみや茶菓子の中から先程頼んだナッツを手にしていたルヴァが、慌てて咀嚼していたものをエールで胃に流し込み、答えを返す。
「ええと、イリは既に焙煎された豆なんですよね? あーそれでしたら、それを更に炒ってしまえば、恐らくは似たようなものになるかと思いますが」