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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 ポピーと同じテーブルについていたルヴァには先程のやりとりも聞こえていたため、ルイーダが望む答えはすぐに出てきた。
「豆の状態でいつもよりもっと焙煎して、それから粉にするのね? さっすが賢者様、頼りになるわ!」
 長い睫毛が揺れるほどのはっきりとしたウインクを送るルイーダだったが、ルヴァはそれをさらりと流していた。
「いえいえ、お役に立てたようで良かったですよー。苦味が強くなるので、これよりも小さなカップに入るくらいが適量です」
 アンジェリークが飲んでいた紅茶のカップを指差してそう伝えると、ルイーダは親指と人差し指で丸を作って去って行く。
 じいいいいい、とアンジェリークからのもの言いたげな視線が突き刺さっているのにも気づいたが、ここで動揺したとあっては後で何を言われるか分からない。エールをこくりと飲み込み、とにかく平静を装った。
 再びジュリアスたちの側に戻ってきてにっこりと笑みを浮かべたルイーダがジュリアスへ話しかけた。
「お待たせしました、エスプレッソのご注文承ります。他の皆さまはいかがなさいます?」
 次にルイーダの視線はリュミエールとクラヴィスに向かい、二人はあらかじめ決めてあった注文を口にする。
「では、わたくしはハーブティーをお願いいたします」
「イリ・ディームを貰おう……」
 それぞれの注文を復唱してから、感じのいい笑みでルイーダはカウンターの向こうに戻っていく。

 ルイーダが上機嫌で豆の焙煎を始めた頃、ポピーが鞄の中から布に包まれたものを取り出し、ティミーの肩をとんとんと叩く。
「ん、どうした?」
 大人に混じり堂々とエールを飲みながら、ティミーが妹のほうへと顔を寄せる。
「お兄ちゃん、これ見て。ゼフェル様が作ってくれたの」
 ポピーが得意気にそう言って包みを開け、手の中を覗き込んだ兄はぎょっと目を瞠る。
「うわぁっ、何これ!? 小さいロビンだ!!」
 ミニチュアのキラーマシンは、今にも魔力を帯びて動き出しそうなほど精巧に造られている。
「凄いでしょ、ねえお母さんも見てー!」
 嬉しそうにビアンカにもロビンの手乗りフィギュアを見せびらかし、ちまちまと腕を動かす。
「あらー可愛いわねー、リュカが見たら欲しがりそうだから、気をつけるのよ。博物館に飾るって言いそう」
 賑やかに大喜びしている家族へ、壁に背を付けて座ったゼフェルが穏やかなまなざしを注いでいる。
 それを見たマルセルとランディが、くすりと口角を上げて隣に座り込んだ。
「皆喜んでるね、さすが鋼の守護聖! 器用!」
「良かったな、ゼフェル。あれ作るの大変だっただろ?」
 どこか嬉しそうに人差し指で鼻先を擦り、ゆるゆると口元を緩ませるゼフェル。
「……まー、それなりにな」
 へへへー、と笑いながら自慢するポピーとは対照的に、口を尖らせたティミーが振り返り、ゼフェルに抗議する。
「ゼフェル様ー、ぼくにも何か作ってよー! ポピーばっかりズルいー!」
 立派な鎧を身に着けて酒を飲んでいる姿にはおおよそ似つかわしくない発言に、ゼフェルはぶはっと吹き出して答えた。
「わーったよ、こっちでどんだけ作業できっかわかんねーけど、時間あったらなんか作ってやる!」
「ほんと!? やった!」
 ガッツポーズを決めて無邪気に喜ぶ姿はやはり年相応の少年で、周囲の者たちは朗らかに笑った。

 間もなくして運ばれてきたエスプレッソの香りを楽しんだ後、ひとくち味わったジュリアスが目を細めて言葉を紡ぐ。
「良い香りだな。味も素晴らしい……」
 内心、この異世界で味わえるとは思ってもいなかったのがジュリアスの本音だった。
 その言葉にルイーダは安堵し、少し砕けた様子で笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。頑張ってみた甲斐がありましたわ」
 そう言って軽く会釈をし、隣のテーブルへと視線を向ける。
「そちらのお味はいかがですか、お口に合いました?」
 先程よりは幾分寛いだ表情のリュミエールが、柔らかい声音で答える。
「ええ。このハーブティーも美味しいですね、ブレンドからご自分でされてるのですか?」
「はい。他の国から輸入するハーブもありますけど、半分くらいはこの近隣にある植物を使っていますわ。マーリンが好んで飲んでいる薬草酒もございますので、機会がありましたらそちらも是非」
「そうですね、次はそうさせていただきます」
 ルイーダはにこりと笑むリュミエールの横に置かれた竪琴へと視線を縫い止め、意を決して切り出した。
「あの、不躾なお願いなんですが……もし宜しければ、そちらの竪琴で何か弾いていただくことってできます?」
 ぴくりとリュミエールの表情が強張る。
「そ、れは……あの」
 これは弱った────とリュミエールは困惑した目つきでハープを見やる。
「あ、無理にとは言いませんから。気が向いたらで結構ですので」
 オスカーとオリヴィエが言葉を濁したのと同じく、戸惑った様子を察したルイーダがすぐにフォローを入れた。
 リュミエール自身、思う存分弾きたい気持ちはあったが、ここへ来る直前の出来事を思い返して身を固くさせた。
 そこへ、隣のクラヴィスがイリ・ディームの入ったカップをソーサーに戻してちらとリュミエールへと目を向ける。
「弾いてみてはどうだ、リュミエール」
 突然の言葉にリュミエールは一体何を言い出すのかと言いたげな表情を一瞬浮かべたが、それをすぐに抑えて言葉を紡ぐ。
「ですがクラヴィス様、また魔物が現れては……」
「仮に再び魔物が出たとして……ここでは害をなしている暇などないように思えるぞ?」
 クラヴィスの言葉はやや素っ気なく響いたが、彼のアメジスト色の瞳はモンスター爺さんの後ろにある部屋を捉えていた。
「どれ程の部屋の大きさかは分からぬが、あちらから多くの気配がしている」
 クラヴィスの視線の先を辿ったルイーダが、眉を少し持ち上げて説明し始める。
「ああ、あの部屋はリュカ王についてきた魔物たちの部屋です。人間は立ち入り禁止なので、王でもあの中を見たことはございませんわ」
 仮に見たところで理解できるとも限らないけれど、と若き王が朗らかに笑い飛ばしていたことを、ルイーダは話しながら懐かしく思い出していた。
「しかし……」
 なお渋るリュミエールに、ルイーダは一連の言葉から問題を推察して質問をぶつけた。
「その竪琴は魔物を呼び寄せてしまうのですか?」
 控えめな声でそう言うと、リュミエールは眉尻を下げて頷いて見せる。
「え、ええ……以前はそういうことはなかったのですが、こちらへ来る少し前からそのように……」
「それなら、いざとなれば王女様が彼らを呼び出してくださいますよ。尤も、あちらの三人だけで十分過ぎるお強さですけれどね!」
 王妃たちを流し見て、ルイーダは軽やかに笑う。
「問題なかろう?」
 クラヴィスが淡々とした口調で言い放ち、更にそれを後押すようにジュリアスも口を挟む。
「恐れてばかりでは何も変わらぬぞ、リュミエール。私もそなたの演奏を期待している」
 光と闇の守護聖にこうも言われては断れるはずもなく、リュミエールは腹を括って足元に置いてあったハープを膝に引っ張り上げた。