二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに2

INDEX|52ページ/213ページ|

次のページ前のページ
 

 それをカウンターテーブルに片肘を乗せ、遠巻きに眺めていたオリヴィエがオスカーに話し掛ける。
「リュミちゃん、弾くみたいだよ」
「……そうか」
 オスカーは言葉少なに返事をしていたが、首を傾けてどこか心配そうに見守っている。
 組んでいた足を下ろし、体ごとリュミエールへと向けた────再び魔物が出た場合に備え、すぐに駆け寄れるように。
 ティミーもまた、リュミエールがハープを膝に乗せた姿を目に留め、小声でポピーに話し掛ける。
「ポピー、リュミエール様が竪琴弾くみたいだよ。おまえああいう綺麗なタイプ好きだろ」
 ティミーはニヤついた顔で妹をからかい、ポピーはすぐに赤く染まった頬を両手で隠す。
「えっ、や、何で!?」
「何でって言われても。前に詩人好きって言ってたしさー」
 うるさいと言い返して兄の肩を拳で叩き、ふいとそっぽを向いた。
 ルヴァはエールの残りをぐいと飲み干し、リュミエールの周囲に異変がないかと目を凝らす。

 そして、ごく小さな音量のトリルから始まった演奏に、部屋の中にいた全員の視線が集中する。
 外野からはリュミエールが淡々と弾いているように見えていたが、その実は滑らかな指使いで緩急豊かに音色を紡ぎ、弦を強く弾いたかと思えばすかさず指を当てて音の響きを止めたり、同じ弦を幾度も小さく爪弾いて一つの長い音のように聴かせたりと、多彩な技巧を存分に使い分けている。
 やがて消え入るように鳴らされた最後の一音が、か細く密やかに尾を引いていた。
 数秒の余韻の後でリュミエールの両手が弦から遠ざかると、一斉に拍手が沸き起こった。

 目を潤ませたポピーが両手を胸の前で組み合わせ、いたく感動していた。前回聴いたときには魔物との戦いで中断されたため、一曲を始めから終わりまで聴けたのはこれが初めてである。
「かっ……こいい……っ!」
 ぼうと見蕩れたままの妹を皮肉気にちらと見て、ティミーは肘をつき呆れたような口ぶりで呟く。
「ほら見ろ。やっぱりなー」
 何か言い返してくるかと期待したが、ポピーはまだリュミエールに釘付けだ。
「……無視かよ。まーねー、ぼくもお父さんもお城の人たちも、芸術方面はさっぱりだもんなー」
 面白くなさそうなティミーのぼやきを聞きつけて、アンジェリークは穏やかな表情でティミーに話しかける。
「あら、でもティミーくん、剣持って踊ってたじゃない。リュカさんと」
「剣舞は剣の構えからの攻撃と回避を教えるものなんで、厳密には踊りじゃないんですよ。リズムを正確にとか関係ないし」
 仏頂面でそう言いながらポピーへと幾度も視線を投げるティミーの前で、ビアンカがけらけらと笑う。
「リュカはワルツになったら最悪よ、すっごい足踏まれたわー。ティミーもしっかり似ちゃったみたいだけど」
 ほっといてよ、というティミーの独り言とも思える口調の呟きが漏れ聞こえ、ビアンカが更に笑う。アンジェリークもそのリアクションにふふと笑いながら問いかけた。
「なんかリュカさんってそういうのも平気でやりこなしそうに見えてたけど、そうでもないの?」
「ねーそう見えるでしょ、ぜーんぜんよ!」
 二人が和気あいあいと喋る側で、ロザリアがそろりとルヴァの近くへ来て話し掛ける。
「……何も出てきませんわね。どういうことかしら」
「ええ……これは皆目見当もつきませんねえ……」
 日頃は柔和さが勝る顔の上に強張りを重ね、ルヴァは僅かに下唇を噛む。
 始めは室内だからかとも思ったが、それではクラヴィスの執務室に出てきた現象と矛盾する────暫しの逡巡の後、懐からオロバスを取り出して十字掛けした紐へと指をかけた。
「……訊いてみましょうかね」
 するりと解かれた紐がルヴァの膝の上に落ち、右手の人差し指で表紙をとんとんと叩き声をかける。
「オロバス、起きてください」
 それまで単なる絵柄だった目玉がぎょろりと動き、オロバスはルヴァの声に反応を示した。
「なんだー? あっおはよう」
 律儀に挨拶をしてくるオロバスへ、ルヴァも丁寧に挨拶を返す。
「おはようございます。ええとですね、ちょっとお尋ねしたいことがありましてねー」
「んー?」
 彼の手の中からふわりと浮かび上がり、表紙の目はルヴァの目の高さと並ぶ。
「リュミエールが今演奏していたんですけどね、魔物が出てこないんですよ。何故だと思います?」
 更に高く舞い上がったオロバスがリュミエールのほうを向いて様子を探り、間もなくして下りて来た。
「……もう出てきたぞ」
「ええっ!?」
 驚きに打たれて頓狂な声を出すルヴァに対し、オロバスは平然と言い放つ。
「出たけどすぐに消えた。消された」
「ど、どういう意味ですか」
 ルヴァの言葉に頷いたロザリアも不可思議だと言わんばかりに眉根を顰め、宙に浮かぶオロバスを見つめる。
「光の守護聖が消し飛ばしてる」
 ロザリアの視線がオロバスから外れて俯き、何かを思い出したようにはっと顔を上げた。
「そう言えば、報告書ではジュリアスが入室してすぐに消えたと……これもそうだと言うんですの?」
「ではオスカーが対峙したあの魔物たちは、何だったのでしょうねえ」
 疑惑に包まれた顔でルヴァは片手で顎を覆って考え込む。
「さあな。オレに分かるのはここまでだけど、もういいか? それとも何か読むか?」
 悪魔の書らしく頁を開いて眼前に浮かぶも、ルヴァは容赦なくぱたりと閉じた。
「ええ、ありがとうオロバス……あ、読書は結構ですよー」
 酷いという呟きが微かに聞こえたが、ルヴァは聞こえないふりを決め込んで静かに席を立つ。
 その足で奥の席へと近づき、安堵してハーブティーで喉を潤しているリュミエールに話し掛けた。
「流石の演奏でしたねえ、リュミエール。魔物も現れなかったですねー」
 声をかけられたリュミエールの表情は、演奏前の張り詰めた雰囲気がすっかり和らいで見ている者の心にも平穏を与える。
「ルヴァ様。ええ、何事もなくて安心しました」
「ええとそれでね、あなたにちょっとお聞きしたいんですが、演奏中に何か異変などは?」
 青灰色の瞳がじいっとリュミエールを捉えながら僅かに小首を傾げ、質問の答えを待っていた。
「いえ……特には何も」
 問われたリュミエールはほんの少し目を丸くさせ、戸惑いのこもった声音を出す。
「ふーむ……そうなると、考えられるのは」
 顎に右の指先を当て束の間考え込むと、今度は光の守護聖へと向き直る。
「ジュリアス、今の演奏中に何か違和感を覚えたりしましたか?」
 ルヴァは真っ直ぐに見つめ返してくるジュリアスの視線を、柔らかく受け止める。
「違和感……か。これといって思い当たる節はないな」
「そうですかー、分かりました。ありがとうございます」
 そう告げてにこりと頬を上げる。
 ルヴァの質問の意図をはっきり掴もうと、ジュリアスが口を開いた。
「また何か気になる点でもあるのか、ルヴァ」
 その問いへ、ルヴァは落ち着いたいつもの調子で答えを返す。
「あー、そうですね。いえね、最初にクラヴィスの執務室に魔物が現れ、次に宮殿の中庭で戦闘になり、今は現れず────これらに何らかの関連性があると踏んでいたのですが、その共通点は何なのかと思いましてね」