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しょうきち
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冒険の書をあなたに2

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第四章 過去へ


 一同はビアンカに連れられ、各自滞在用の部屋へ案内されることとなった。
 以前来たときよりも一層冷え込んだ石組みの廊下を歩きながら、ルヴァはふと見慣れない景色に視線を飛ばす。
「あの、ビアンカさん」
 呼びかけられたビアンカが速度を落とし、首を曲げ振り返る。
「はいー?」
 新しめの石が敷き詰められた通路の先には、随分と小奇麗な部屋が幾つも並んでいる。
「以前はこちらにお部屋なんてなかったですよねぇ……?」
 きょろきょろとせわしなく辺りを眺めながら、王妃の返答を待つ。
「ああ、増築したのよ。平和になったら色んな人たちが遊びに来るようになったから、お客様用の部屋が必要になっちゃって……」
 平和になったという言葉がルヴァの頬にふうわりと優しい笑みをもたらす。
「そうだったんですかー。それでは賑やかになったでしょう?」
 宿屋の娘という育ちも関係しているのか、元々人と接するのが好きらしいビアンカの声に一層明るさが滲む。
「前よりはね。でも魔物が時々うろついてるから、皆最初はおっかなびっくりなの!」
 ふふと嬉しそうに笑う声音が心地よく耳に届き、ルヴァは平和になって良かったと思うと同時に、現在この世界を覆い始めた新たな脅威を何としても食い止めたいと思った。
「あんまり広い部屋は用意できなくて申し訳ないんだけど、一人一部屋、お好きなところをどうぞ」
 それぞれの部屋の窓からは、北の教会が見える側と広大な森を観望できる側とに分かれており、フットワークの軽い年少守護聖たちは真っ先にあちこちの部屋を見て回っている。
 窓辺から景色を堪能したマルセルが、すみれ色の大きな瞳を細めて振り返る。
「ねー見て、向こうに海が見えるよ!」
 はしゃいだ声で楽し気なマルセルに、ゼフェルがぽつりと突っ込みを入れた。
「マルセルは緑の守護聖なんだからよー、トーゼン森見えるほうだろ」
「なあ、もう決定なのかそれ……」
 更にランディの突っ込みも入り終始和やかな雰囲気の中、ビアンカとロザリアが小声で話し込んでいた。

 一通り案内が終わり、部屋割はひとまず後にして全員でアンジェリークが滞在する部屋の前にやって来た。
 ロザリアがルヴァを手招く。
「ルヴァ、ちょっといいかしら」
「はいー、何ですか」
「陛下がお疲れのご様子ですので、今日はわたくしが付き添います。異論はありませんよね?」
 にっこりと口角を上げているロザリアに対して、他の守護聖たちの手前、こちらの世界では夫婦だからと同室を希望し辛かったルヴァが渋々頷く。
 アンジェリークとロザリアに宛がわれた部屋は通称家族部屋と呼ばれ、室内の扉から双方の部屋に行き来できる間取りになっている。ここだけ階が違うが部屋の面積自体は一番広く、神鳥宇宙の女王陛下に対する敬意が感じ取れた。
 一瞬だけあからさまに落胆した表情になったルヴァだったが、すぐにそれを打ち消していつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「……勿論です。よろしくお願いしますねー」
 アンジェリークの翠の目がほんの少し寂し気にルヴァを見つめ、視線がかち合うと肩を竦めて見せ、それから守護聖一同に向かって話し出す。
「じゃあ皆さん、わたしは先に休ませて貰いますね。何かあったら知らせてください」
 ルヴァの横を通り過ぎる刹那、アンジェリークの指先がルヴァの手を掠めていった。その一瞬だけ指を繋ぎ、二人は何食わぬ顔をして離れていく。
 ロザリアが扉を開けると、無言で促されたアンジェリークがすたすたと部屋へ入って行った。それを目視してからロザリアの言葉が続く。
「お部屋についてはビアンカ王妃にお任せしましたから、その指示に従ってください。では失礼いたします。また後程」
 ロザリアが優雅に一礼をしてそう告げ、扉は静かに閉められた。

 それからビアンカがてきぱきと部屋を割り振り、部屋チェンジは各自で交渉するよう告げていったが、彼らは異論なくそれぞれの部屋に入って行く。
 ルヴァの滞在用の部屋は、以前と同様に窓からは広く森を見下ろせた。
 常春の聖地でも厚着なほうのルヴァですら、一人きりの室内はひんやりと肌寒く感じられる。
 何とはなしに窓辺に足を向けてみた。
 天気が今一つなせいなのか黒々とした木々の上すれすれを、群れた鳥たちがせわしなく翼を動かし飛んでいくのが見えた。夕刻が近づいて、彼らはねぐらへと帰っているところなのだろう。
 一息つきたい心境ではあったものの、リュカを救出するためにはそうそうのんびりもしていられない。マーリンから借りた書籍をどさりとテーブルに積み置いて、早速頁をめくり始める。
 が、すぐに扉をノックする音とともにオリヴィエの声が聞こえた。
「ごめんルヴァー、ちょっと借りたいものがあるんだ。入っていいかな」
 集中し始める前だったためルヴァはすぐに返事をする。
「はいー、開いていますよ」
 かちゃりと小さな音を立てて扉が開き、オリヴィエがひょっこりと顔を覗かせる。
「メイク直したいんだけど、生憎私の鏡はさっきうっかり木箱に纏めちゃったんだよね〜。ビアンカちゃんに訊いたらこの部屋にあるって言うんだけど」
 何故オリヴィエではなくルヴァにこの部屋を宛がったのかと問われれば、オリヴィエなら鏡くらい持参してそうであったし、ターバンを巻くときに必要だろうというビアンカなりの配慮だ。
「はあ……そういうことならどうぞお好きに」
「姿見なら別の階にあるみたいなんだけど、ここが一番近いってさ。あの子気が利くいい子だね〜……あ、これかな」
 皿や板状のものを飾る皿立てに、円形で鏡面以外が緑色の、八か所に青い宝石がはめ込まれた鏡が立てられていた。
「ちょっと借りるよん……これって、ラーの鏡っていうなんか不思議な力がある鏡なんだってさ」
 早速鏡を覗き込み、目の周囲の化粧崩れを手早く直していく。
「おや、そうなんですか。それはちょっと興味がわきますねえ」
 聖地でもいわくつきの骨董品などをあれこれと手に入れているルヴァが案の定興味を示したことに、オリヴィエは内心笑いそうになる。
「前に魔物がどこだかの国の太后に化けてたのを、ここの王様が暴いたときに使った鏡なんだって。そういうのはやっぱあんたの専門だよねェ……よしカンペキ」
 最後にルージュをさっと引き直して、散らばったメイク道具をポーチに戻し入れた。
 本来なら人前でメイク直しをするようなクチではないが、そこらへんに無頓着なルヴァがジロジロ眺めているとも思えず────仮に見ていたら容赦なく化粧を施されそうなため、目を逸らしているのが実際のところ────オリヴィエは堂々と化粧直しに勤しんだのだった。
「ありがと、お邪魔したね」
 あんたもメイクしてみる? といつものごり押しがなかったことに拍子抜けして、ルヴァはぽかんと彼の美しい顔を見つめた。
「えっ、その鏡持って行ってもいいですよ?」
「おっきな姿見を後で私の部屋に置いてくれるらしいから、それで間に合わせるよ」
 オリヴィエはじゃあねと手を振って扉の向こうに消えていき、軽やかなヒールの音が遠ざかっていく。
 香水の残り香だけが彼の滞在を示す中、ルヴァは今しがたの会話を思い返し、鏡を手に取ってまじまじと眺めた。