二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに2

INDEX|55ページ/213ページ|

次のページ前のページ
 

 初めに訪れたラインハットで、リュカが悪い魔物を退治したとポピーが言っていた。恐らくラインハット絡みだったのだろうとルヴァは推測する。
「ふーむ……ラーの鏡、ねえ。神話の太陽神と同じ名ですがどういう繋がりなんでしょうか……後でマーリン殿に話を伺ってみましょう」
 覗き込んだ限りではこれといって変わったこともなく、すぐに興味を失った彼は分厚い書物へと手を伸ばした。

 そうして最初に手にした一冊を読み終わる間際になって、再び扉をノックする音が響いた。
「ルヴァ、入ってもいいですか……?」
 ついと顔を上げてそちらへ目を向けた矢先に、彼が愛してやまない女王陛下の控えめな声がして、ルヴァは慌てて立ち上がり扉を開けに行く。
 ふわふわの金の髪を揺らして静かに入ってきたアンジェリークが、真っ直ぐにルヴァを見つめている。
「……一体どうしたんです、お休み中だったのでは?」
 胸の内に小さなざわめきが起こった────彼を見るアンジェリークの眼差しが、まるで珍しいものを見たような実に他人ぶったものであったから、彼は戸惑いを声に重ねた。
 そんな彼の心の内を知る由もなく、アンジェリークは無邪気に長椅子へと腰かけた。
「……したくなっちゃったの」
 どこか硝子玉のような目つきだとぼんやり考え込んでいたルヴァが、彼女の言葉の意味を正しく理解するまでには暫しの時間が必要だった。
「……………………はっ?」
「だから、したくなっちゃったの。ルヴァの赤ちゃん欲しい」
 アンジェリークらしからぬ言葉に、彼の脳内ではよりはっきりと警告のアラームが鳴り始める。
 求められたこと自体は、ある。だがこれほどまでにあけすけな表現で淡々と言われた試しなど、これまでなかった。恥ずかしがって赤面したりふいに色っぽくなったことはあったけれど、今目の前にいる彼女からは何の感情も読み取れない。そしてそれ以前に、この願い自体が今の二人の間ではそもそもあり得ないものだ。
 アンジェリークの両腕が甘い声音と共にルヴァの体に絡みつく。
「ねえ、いいでしょ……?」
 鼻先を掠めた匂いに愕然として、すかさずアンジェリークを体から引き離す。
(……泥の、におい……!)
 咄嗟にテーブルに置いていたオロバスの紐を解きながら、困ったふうに顔を繕って断る。
「……すみませんが、今はそういう気分じゃないんですよ。調べたいことがあるので、一人にさせてください」
「調べものなんか後でいいじゃない、わたしのほうが大事でしょう?」
 この言葉により、彼の中ではある決定が下された。
 近視眼よろしく細めた目に、普段彼女に向けたことのない冷たさが宿る。
 右手でぐいと彼女の顎を持ち上げ、親指の腹で桜色の唇をなぞる。
「どうしてもと仰るなら、私をその気にさせてくれますか。……いつものように、ここを使って」
 それからズボンの紐を緩めて下着ごと膝まで引き下ろして見せたが、眼前のアンジェリークは大して表情を変えずに彼のそこを凝視していた。

 成りすましなのは明らかだった。
 とうとう勝手に服を脱ぎ始める始末────情緒も色気も何もあったもんじゃない、とルヴァは鼻白む。
 そのせいで少しでも気を抜くとすぐに萎えてしまうのに、事が終わらない限りはこの状況から抜け出せそうもない。何しろこの成りすましが出ていかないのだ。
 これでは埒が明かないと判断した彼の最短かつ強引な行動により彼女が咽込んだ拍子に、口の端から色々と混ざった体液がつうと零れ落ちた。
 これだけの酷い仕打ちをしても彼女の顔には何の感情も浮かんではいないというのに、むしろルヴァのほうが道具として扱ったことへの罪悪感に苛まれてしまっている。
「あーすみませんねえ、ちょっと保たなくて……」
 即座に衣服を元に戻し、その足で先程の鏡を手に取って彼女の前に片膝をつく。
「もうそろそろね、こんなくだらない茶番は終わりにしたいんですよ。私がどれだけ乱暴に扱ったか、嘘をついたか、あなた分かってませんよね」
 声そのものは冷静で落ち着き払っていた。だが刃を思わせるほどに鋭い眼光が、内に秘めた彼の怒りを存分に伝えていた。
「────騙るのならば、もう少しうまく騙りなさい。何が目的なのか知りませんが、宇宙にただ一人のあの方を真似るなどおこがましい!」
 そしてルヴァは躊躇いなくラーの鏡を彼女に向ける。
 彼はあの酷い現場を見ていなかったが、サンチョのときと同様にどろりと皮膚が流れ落ちていき、中から真っ赤なゼリー状の魔物、ジェリーマンが姿を現す。
「オロバス! 起きなさい!」
 オロバスを呼ぶと同時に理力の杖を手に取り、身構える。
「魔物退治の時間ですよ。逃がしてはなりません、いいですね?」
 呼び起こされた悪魔の書オロバスの目がぎらりと赤く光り、臨戦態勢に入ったことを彼に知らしめた。

 暫くして、家族部屋ではアンジェリークが目を覚ましていた。
 ふわあと大欠伸をして上半身を起こすと、ロザリアの声が聞こえてくる。
「アンジェ、起きた?」
 友としての親しみを込めた口ぶりに、アンジェリークの頬が思わず緩む。
「うんー……おはよ、ロザリア」
「あんたが早々にダウンするなんて珍しいわね。いつもは体力無限大ってくらいなのに」
「移動が大変だったからね〜……喉乾いたよぉ」
「はいはい、今お持ちしますわよ、陛下!」
 グラスに注がれた水を一気にあおり、干からびた喉が潤っていく。ふうと一息つくと、ロザリアが口を開いた。
「起きたならもういいわね。わたくしはちょっと他の守護聖たちのところを回ってくるから、アンジェはゆっくりしていて頂戴」
「はぁい」
 寝台の上でひらひらと手を振り、そのままロザリアを見送った。

 それから間もなくして静かな室内に小さなノックの音が響き、アンジェリークは聖地から持ち込んだ本から視線を移す。
「あのー……陛下。私です」
「ルヴァ!」
 会いに来てくれたことを喜び、すぐに彼を招き入れた。
 水差しから彼の分の水をグラスに注ぎ入れている間、ルヴァが後ろ手で扉の鍵をかちりと閉めたことにアンジェリークは気づかない。
「お休み中のところ申し訳ありません。あなたに急に会いたくなってしまって……」
 この部屋には長椅子の他に一人掛けの椅子も二脚あったが、アンジェリークは長椅子に腰かけてにこにこと笑っている。
 ゆっくりとした足取りでルヴァはアンジェリークの側に立ち、じっと見下ろした。
「いいんです、来てくれて嬉しいわ。お菓子もあるからどうぞ」
「あーどうぞお構いなく。お菓子は後でいいです」
 そのままアンジェリークに寄せてすとんと腰を下ろし、太腿がぴたりと触れ合った。
「……ル、ヴァ?」
 いつもならもう少し距離を置いて座る彼が今日に限ってべったりとくっついてくることへの奇妙な違和感に、アンジェリークが落ち着かない様子で半身分体を離す。だがすぐにまたべったりと身を寄せてきて、真顔でアンジェリークの顔をじっと見つめていた。
 無言でにじり寄ってくる彼がとても恐ろしく思えて、アンジェリークは堪らず立ち上がり鏡台の前へと逃げ出した。
(……どうして? ルヴァを怖いと思うなんて……)