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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「ご、ごめんねロザリア……」
「……まあいいわ。わたくしは扉を直して貰わなくちゃいけないの、誰かさんが壊してくれたおかげでね」
 余計な仕事を増やして、と恨みがましい視線がルヴァに刺さる。
「すみませんでした……」
 仁王立ちのロザリアの前で、二人は深々と頭を下げる。
「詳しい話は後で伺います。ルヴァはしばらく陛下の警護に専念してください。では御機嫌よう」
 そう言い残して颯爽と立ち去って行くロザリアを見送り、二人は顔を見合わせた。

 部屋に入るなり、ルヴァはすぐにアンジェリークから離れた。
「ルヴァ……?」
「体の調子はいかがですか、陛下」
 長椅子にかけるよう促してはいたが、ルヴァはアンジェリークの目を見て話すことができずにいた。
「なんともないです。その……なんかお腹が緩くなっちゃってるけど」
「そうですか…………」
 彼女の身に何が起きたのかがその言葉だけで把握できてしまい、ルヴァはとうとう彼女に背を向けて俯いた。
「あの、私が怖くはないですか」
「ルヴァが? なんでですか?」
 きょとんと問い返したアンジェリークの声音はいつも通りだ。
「あの魔物が私の姿をして、あなたに酷いことをしましたから……」
「その話ですけど。何見てたのかしらね、全然ルヴァに似てなかったわ!」
 憤慨して眉尻を吊り上げるアンジェリークの反応が予想外過ぎて、ルヴァは呆けた顔になった。
「え、そうだったんですか」
「失礼しちゃうわ、ルヴァのはあんなに小さくないもん! それにすっごい下手くそ!!」
「ち、小さ……って、私のだって標準ですよ、アンジェ」
 怒るのはそこなのかと思わず笑いそうになり、ルヴァはさり気なく口を押さえた。
「んー、パパのも見たことないし他の人のがどうかは知らないけど、絶対あっちのほうが小さかった」
 余りにも赤裸々な証言の数々に、ルヴァは落ち込んでいる暇がまるでなかった。
「しかも子供を産めって言うのに、場所間違えます!?」
 確かに知らなければ間違えそうではある、とルヴァは内心思ったが、それは言わずにおいた。
「はあ……あなたのほうの魔物も、子供を欲しがっていたと?」
(繁殖を目的としていた……? しかし、魔物が一体何のために)
 ふいに現れた疑問点がルヴァの興味を煽る。うっかり思考の渦に飲みこまれそうになり、慌ててアンジェリークの話に意識を戻す。
「そう。だから間違わせたほうがマシかなって思って我慢してたの。でもあの子、オロバスって言いましたっけ。あの子がバラバラになったときに気が遠くなって……可哀想で見ていられなくて」
 あのとき悲痛な声でやめてと叫んでいたのは、どうやらオロバスの散り際を見てしまったからだったと、少しだけ安堵の想いが胸を満たした。
「オロバスなら、ほら、あちらに……呪文で蘇生させられるかも知れませんから、可能性は僅かだとしても……それに賭けてみましょう」
「わたしも手伝うわ。早く戻してあげたいもの」
 少し前に悲惨な出来事があったと言うのが嘘のような明るさで、アンジェリークは笑う。
 目覚めて怯えられるのではと恐れていたのは杞憂に過ぎず、ルヴァの頬も自然と緩んだ。
「その前に、お風呂に入りましょう。傷の場所が場所ですから、きちんと洗浄しておかないと……それに」
「?」
「……あの魔物、ちょっと泥臭くなかったですか?」
 くいと片眉を上げる仕草にアンジェリークが吹き出して、大きく頷いた。
「うん、確かになんか臭かった!」

 各部屋にあるらしい小さな浴室。
 ルヴァが暖かな色合いの扉を開けると、奥に見覚えのあるバスタブが目に留まった。
「おや……これは懐かしいですねえ」
 アルカパの宿屋とほぼ同じ、猫足のバスタブだ。
 コックを捻り湯がきちんと出ているか確認すると、振り返ってアンジェリークを手招いた。
「ほらアンジェ、こちらへ来てください」
 服を脱がされて下着姿のまま、扉に隠れて首だけひょっこりと出した彼女が問い掛けた。
「……一応確認するんだけど、あの……わたしを洗う、って話?」
「勿論です」
 予想はしていたがやはり気恥ずかしく、頬を林檎色に染め上げてルヴァを睨み付ける。
「じ、自分で洗えます!」
 上目遣いに睨まれても可愛いだけとばかりに、ルヴァは平然と言い返した。
「お腹が緩くなってから、御手洗いには行かれましたか」
「なん、なんでそんなこと聞くんですか」
 腹の具合について話すのすら恥ずかしい彼女にとっては、とても気まずい話題である。
 だがじいっとアンジェリークを見つめるルヴァは、彼女の両肩に手を置き、とても真剣な声で諭す。
「大切なことです」
 はあ、と盛大に溜め息を漏らしたアンジェリークが、観念して質問に洗いざらい答える。
 羞恥で涙目の彼女とは対照的に、ルヴァは安堵の表情になっていく。
「それならば、もう何かする必要もありませんね。あらかた流れ出てしまったはずですから、その内お腹の具合も回復するでしょう」
 アンジェリークが冷えないように脱衣籠を足元に置き、扉を閉めた。
「ではごゆっくり。私のほうは傷もないですし、普通に洗い流せば……」
 その言葉が出た瞬間、遠ざかっていた足音が止まる。
「待って、もしかしてルヴァも襲われたの?」
 ぱたぱたと駆け寄る足音が響く。
「ええ。追い返そうとしてもしつこくて……やむを得ず対応を」
「…………」
 勢い良く扉が開き、アンジェリークが仁王立ちで目の前に立っている。慌てて目をそらしたと同時に、怒りを含んだ詰問が一言飛んできた。
「……したんですか?」
 普段は軽やかで甘い声の彼女が出した恐ろしく低い声に、ルヴァはすっかり慄いていた。
「ふ、触れてませんが、そのー……触れられた、と、言うのか……」
 視線を彷徨わせてしどろもどろ狼狽えるルヴァへ、アンジェリークは冷たく言い放つ。
「はっきり言ってください」
 口を真一文字に閉ざしてツンと顎をあげ、見下ろすような視線で威圧している────白状しろと翠の瞳が物語っていた。
「あ、あなたには決してしない、したくもないようなことを……」
「ふーん………………」
 それきり黙ってしまったアンジェリークの沈黙を否定と捉えたルヴァが、少し涙目になりながら両膝を付き、彼女の小さな手をそうっと握る。
「お願いですから何か言ってください……!」
「……ルヴァ」
 彼の手をそっと振りほどいたアンジェリークの両手がルヴァの肩へ置かれ、それから襟首をぎゅうと掴まれる。
 満面の笑みを浮かべたアンジェリークだったが、瞳の奥はちっとも笑っていなかった。

 その後浴室を出たルヴァは軽装に着替え、寝台の上で真っ赤になった顔を両手で覆い隠し、横向きで丸まっていた。
 思い返すだけでも刺激の強いお仕置きをされて、平謝りしながら身悶えていたのだった。
(は、恥ずかしすぎてどういう顔をしたらいいのやら……)
 前に洗って貰ったからとアンジェリークは笑顔のまま石鹸を泡立てて、体をくなまく洗ってくれたところまでは良かった。
 その合間に挟まった尋問にうっかり口を滑らせて詳細を話してしまったのが運のつき、魔物と触れ合った一か所だけとても念入りに洗われたのである。