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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 温かな手のひらと泡の滑りに耐え切れず、彼が果てるまで責め苦は続けられた。

 オロバスを修繕したときのことを思えば、今度のことは望んだ行為ではなかったが全く言い逃れできない。故に、こうして嫉妬を露わにされたほうがずっとマシだと言えた。
 そして魔物に対しては驚くほど無反応だった己の体が、あの翠のまなざしの前にはあっさりと陥落する事実。それは彼を心なしか雀躍させていた。
(例え姿形を真似たとしても、贋作は所詮贋作なんですねぇ。魅力はアンジェの足元にも及ばなかった……)
 宇宙を広く見渡す慈愛の瞳が、あの優しく名を呼ぶ声音が、ルヴァを捉えて離さぬ威力を持っている。
 その至高の存在は今、ルヴァに寄り添い髪を撫でている。
 そろりとアンジェリークの顔を見上げて、二人の視線が交錯した。
 見つめ合っているうちに、ルヴァは贋者などではなく、このただ一つの至宝の瞳が甘く潤む姿を見たくなった。
 指先を絡めアンジェリークの腕を引きながら、思いを吐露した。
「心も体も、この髪の毛一本に至るまで全て……私はあなたのものですよ、アンジェ」
 腕の中にいる彼の天使がとびきりの笑顔でもって答える。その幸せそうな顔にすっかり嬉しくなり、額に口づけを落とした。

 その頃、ゼフェルは屋上から周辺の景色を眺めていた。
 生まれ故郷の星とは似ても似つかない緑豊かな土地が、慌ただしかったここ数日に溜まった疲れを癒している。
(キレーなとこだな。遊べそうなモンは何もねーけど)
 聖地から持ってきたミネラルウォーターを片手に、緩やかに流れ去る雲が森に落とす雲影をぼんやりと見つめていたところへ、不意に背後から声がかかった。
 鈴を鳴らしたような特徴的な声音に彼はすぐ振り返り、頬を上げる。
「よぉ」
 アンジェリークを見る赤い瞳は優しく弧を描く。彼女はその視線へ小さく笑い、かつかつと小さな靴音でゼフェルの隣に並ぶ。
「ゼフェル、何してるの」
 彼女が女王に即位してから二人で話す機会はほとんどなくなっていたせいか、何だか少し居心地の悪さを感じつつ答えを返す。
「ん、することもねーから散策してた。結構広いから場所の把握もしとこうと思ってさ。……そっちはどうよ?」
 プライベートな場面では一貫して態度を変えずに来た────彼女の他に同じ名を持つ少女が現れても、ずっと。
 あの頃の淡い恋心はなりを潜めて、胸の奥深くに沈んでいる。彼が尊敬する守護聖と一途に想い合う姿を、二人の友として応援しようと思ったからだ。
 そんなゼフェルの何気ない問いに、アンジェリークは笑みを引っ込めて憂鬱な表情を見せた。そのまま口を閉ざしている彼女へ、ゼフェルが微かに眉根を寄せる。
「……どうした、何かあったのか」
 アンジェリークは頭を振って消え入りそうな声で話し出す。
「言ったら迷惑かけちゃうから……」
「んな暗い顔して言われたら余計気になるだろ、言えって」
 長い睫毛が小刻みに震えている。ゆっくりと目を開けてゼフェルへとすがるようなまなざしを向けた。
「言っても怒らない?」
「ああ」
 何か困ったことがあるならできる限り力になりたいと、頷いて見せた。
「わたし……ゼフェルが好きだって気づいたの」
「……はぁ!?」
 アンジェリークの口から飛び出た言葉は、ゼフェルを混乱させるには十分な威力を持っていた。
「ちょ、ちょっと待て。じゃあルヴァはどーすんだよ! あいつは本気でおめーを────」
 アンジェリークはゼフェルの手を取り、自分の胸に押し当てる。
 突然の行動に彼は絶句し、何かを言いたげに口元だけが動いた。喉仏が音もなく上下している。
「オレをからかってどーすんだよ。変なこと言ってねーで、とっととルヴァんとこ行け」
 今のは聞き間違いだ。そうに決まっている────だが、真っ直ぐな目に射抜かれて、アンジェリークの手を振り解けない。
「触って欲しいって思ったら、だめかな」
 驚いた拍子にゼフェルの手がびくりと動いて、振動にアンジェリークの喉から甘くため息が漏れる。
「自分がいま何言ってんのか、分かってんのかよ……アンジェリーク」
 アンジェリークの両手がゼフェルの手から頬に移った。
「好きよ……」
 優しい声音で囁かれた言葉は、かつて夢に見るほど望んだものだった。
 だが今その言葉を前にしても、消せない違和感────目の前の女が知っている彼女ではないような気がして、ゼフェルはすぐに一歩後ずさる。
「おめーがオレを好きだって……?」
 女王候補生として聖地に呼ばれてから今まで、あれだけルヴァ一筋だったというのに。
「ルヴァのことは好きだったけど……わたしだって人間だもの、心変わりすることもあるわ」
 アンジェリークの若草色の瞳はどこか空ろで、言葉とは裏腹に何の感情も浮かんではいなかった。
「へえ、それじゃルヴァを捨てるんだよな。そんで今度はオレに乗り換えるってワケだ」
「意地悪な言い方しないでよ……」
「……いーぜ、そっちがそんだけ覚悟決めてんなら」
 アンジェリークの両腕が絡みついてきて、顔が間近に迫る。
 唇が触れそうな距離になり、ゼフェルの手がアンジェリークの口元を押さえて呟く。
「誰だよテメェ」
 眉間にしわを寄せ、至近距離で睨みつけた。
「誰って、アンジェリーク……」
「見た目はな。だけどあいつじゃない」
 近付いてみれば、一体どこをほっつき歩いたのかと言いたくなるドブ臭さが鼻について、ゼフェルは言葉に力を込めた。
「あいつがこんなこと言うはずも、するはずもねーんだよ。オレのことなんかハナっから眼中になかったんだから」
 アンジェリークの姿をしたものは、ニイ、といびつに笑って言い返す。
「……なんだっていいじゃない。見た目はあなたの好きなアンジェリークなんだもの」
 言うが早いか、女はゼフェルの足を絡め取り、肩を押した。後ろにバランスを崩して転倒したゼフェルに馬乗りになる。
「ふざ、けんな……っ! どけよ!」
 女の指先がつ、と胸を這う。
「寝てていいよ。終わるまで本物のことでも考えてたら?」
 密かに想い焦がれた相手と瓜二つの女の尻が下腹部と擦れ合い、甘い刺激にゼフェルの頬がかっと熱くなる。
「やめろ、どけって!」
 腕を掴もうと暴れてみるが、彼女は余裕の笑みを浮かべて腰をゆっくりと動かす。
「ふふ、ちょっと反応しちゃってるね」
「う、うるせー! 誰がおめーなんかと……ッ!」
 押してだめなら引いてみろ。押し退けられないと悟ったゼフェルは女の腕を引いて抱き寄せると、ぐるりと体を反転させた。そして両手首を掴んで押さえつけたまでは良かったが、そこからさてどうしようと一瞬固まる。

「そこで何をしている!」
 聞き慣れたオスカーの怒号に、ゼフェルはほっとして顔を上げ、声のするほうを見た。
 怒りの形相でつかつかと近づいてくるオスカーの後ろには、ジュリアスが信じられないものを見たといった険しい顔つきで立っていた。
「ゼフェル、陛下に何をしているんだ! 離れろ!」
 押し倒しているように見えたであろうオスカーの叱責の声が今はとても頼もしく思えて、ゼフェルはほんの少し目を潤ませて叫ぶ。
「違う、こいつは陛下じゃねえ!」
「おまえ、何を根拠にっ……!」