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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 言い争いが始まりそうなところへ、ジュリアスがゆったりとした動きで膝を折りゼフェルへと視線を注ぐ。
「どういうことだ、ゼフェル。私に分かるよう説明してくれぬか」
「見た目は一緒だけどよ、こいつ……どうやったか知らねーけど陛下に化けてやがるぜ」
 召使の男に化けていた魔物を目の前で見たオスカーが、すぐに納得して頷く。
「ほう……成る程な。人間そっくりに化ける化け物なら、おまえたちが来る前に対峙したところだ。これも恐らくそうなんだろうが……」
 オスカーはそこで一旦言葉を区切り、冴え冴えした眼光でアンジェリークの姿をした女を見下ろす。
 ゼフェルの体の下でぽっかりと開いた無感情な瞳。その視線は定まっておらず、どこか遠くを見ているような、しかし何も見ていないような不気味さが窺えた。何よりも醸し出す雰囲気がまるで別物だ。
 それから視線を外し、ゼフェルへ向けて言葉を続ける。
「どうして化けていると分かった?」
「こいつさっき自分で別物だって認めたぜ。それに……オレをす、好きだとか、ありえねーこと言うからよ」
 ジュリアスとオスカーの険しい顔がほぼ同時に呆ける決定的瞬間を、ゼフェルは見てしまった。それに多少悔しい思いはあったものの、今はこの誤解されそうな状況を乗り切るのが先だと頭を切り替える。
 オスカーが口の端で笑って言い放つ。
「それは確かにあり得んな。ルヴァしか男と認識してないぞ、陛下は」
「オスカー、口が過ぎるぞ。私もそう思ってはいるがな」
 ジュリアスまでもが真顔で言い放ち、ゼフェルが苦笑交じりで応える。
「ひっでー言い方だけど実際そうだからな……」
 ジュリアスはゼフェルに押さえ込まれたまま抵抗することもない女へと視線を落とし、小さく嘆息する。
「……オスカーが見た化け物と同種なら、可哀想だがここで逃がすわけにもいくまい。狙いは不明だが、不穏なものを感じる」
「その件ですが、ジュリアス様。ティミーの剣が魔物の変化を解くようですから、まずはそちらへ連れて行きましょう」
 オスカーの言葉に、ゼフェルがくいと片眉を上げた。
「オレたちがこいつ連れて行くより、ティミー連れてきたほうが早くねーか?」
 ゼフェルがそう突っ込むと、ジュリアスが思案顔になった。
 ティミーはあれから暫くは野暮用でルイーダの酒場にいると言っていた。連れて行って変化を解いたとして、そこで戦闘にでもなっては被害が大きい────とジュリアスは思い至り、ゼフェルの言葉に頷く。
「そうだな。ではオスカー、ゼフェルと交代してやってくれ。ゼフェルは応援を頼みに行くように」
「御意。レディ、ちょっと手荒になるが許してくれよ」
 オスカーはそう言って女をすぐにうつぶせにして、背中で両手首を纏め左手で掴む。右手には愛剣を持ち、女の首筋に突きつけた。
「サンキュ。じゃあオレが連れてくるから、ここで待ってろ」
 急に明るさを取り戻したゼフェルの顔には、安堵が浮かんでいる。ジュリアスは微笑ましい気持ちになったが、表情を引き締めて声をかける。
「待てゼフェル。ティミーはルイーダの酒場にいると言っていたから、まずはそちらへ向かえ」
 ジュリアスの助言に振り返り、親指を立てるゼフェル。
「任しとけ!」
 持ち前の身軽さで駆け出して、あっという間に姿が見えなくなった。

 ゼフェルがティミーを連れてくるまでの間、ジュリアスもオスカーの側について様子を見ることにした。
「話を聞いたときにはまさかと思ったが……ロザリアの報告通りというわけか」
 補佐官ロザリアから、女王陛下がルヴァに成りすました魔物に襲われた────と、驚くべき話題を告げられたばかりである。
 それを告げに来たロザリアは、部屋の扉が壊れたので城の者に伝えに行くと言って慌ただしく退出していったため、怪我の治療も終わり無事とは聞いたものの、詳細はまだ分からない。内容的に人に聞かれないほうが望ましい話題ゆえ、二人はこうして屋上へとやって来たのだった。
 オスカーがいつもの声音でジュリアスに問う。
「陛下は今どちらに?」
「ルヴァのところだ。陛下を四六時中お守りするには適任だろう」
 オスカーは予想しジュリアスは予想だにしていなかったが、時系列ではこの時点で陛下と地の守護聖はいちゃつき真っ最中である。
「はあ……まあ、そうですね。別の意味で襲われてるかも知れませんが」
 あくまでも自分なら傷心しているであろう恋人を心身ともに慰めているはずと思ったが、ルヴァなら側に寄り添っているだけかも知れない、とオスカーは考えた。
 オスカーの言葉に不思議そうな顔をしたジュリアスが尋ねる。
「……どういう意味だ?」
「あーいえ、ちょっと独り言です……しかし、これほど似通っているとは驚きましたね」
 慌てて話題を逸らしたが、それを気にするふうでもなくジュリアスは頷いている。
「そうだな。そなたは先に化け物と対峙したと言っていたが、どのような状況だったのだ」
 不意にサンチョの体を刺した生々しい感覚が蘇り、オスカーは知らず知らず手に力がこもる。
「……召使に化けて、王子の首に切り傷を。我々の到着が一足遅ければ、王子の命が危ぶまれる状況だったと思われます」
 そう言うとジュリアスに異変を気取られぬよう、少しずつ息を吐いて気持ちを落ち着けた。
「そうか……続いて女王陛下が狙われたのも、単なる偶然とは考えにくい。早急に情報の共有と対策を講じるべきだろう」
「仰る通りです。これはルヴァの受け売りですが、これから何が起こり得るかを知っているのと知らないのとでは、初動に大きな差がつくでしょう」
 小さく頷いたジュリアスが青い瞳をゆっくりと瞬かせ、下へ視線を向ける。
「しかし解せぬ。そなたは一体なぜ、その姿を選んだ」
 問われた女は空白な表情でジュリアスを見つめ返し、暫しの沈黙の後小声で答えた。
「人間は好きな人と子供をつくるんでしょう?」
 変な質問に聞こえたのか、ジュリアスの問いに小首を傾げている。
 どこか性善説を前提とした教育を受けたような純粋な物言いが、彼女が模している天使のような顔や声と似合い過ぎるせいもあり、オスカーの表情が思わず緩んだ。
「……別に好きじゃなくても、子供は作れるんだがな」
 ごく小声で呟いた言葉に、ジュリアスの眉がぴくりと動いた。
「何か言ったか、オスカー」
「あっいえ何でもありません!」
 引き続き押さえ込まれながらも、にこりと笑みを零して言葉を紡ぐ。
「子供を作るには、好きな人になればいいって、センセイが言ってた」
 辺りの空気がほんの少し、変わった。
 後ろで操っている黒幕がいる────二人の顔にごく僅かな緊張が走り、すかさず目で頷き合う。

 そしてばたばたと駆けてくる足音が聞こえ、オスカーはそちらへと顔を上げた。
 ゼフェルの急かす声が聞こえてくる。
「早く来いよ、こっちだって!」
「ま、待ってよゼフェル様……ぼく、鎧っ、着てるんだからさあ……!」
「おお? そーいやそーだよな、おめーフッツーに動き回るから、すっかり忘れてたぜ」
 どうやら鎧を着たまま全力で走らされたのが良く分かるやりとりにオスカーは口元を緩ませたが、すぐに自分が捕らえている女に目を落とし、憐憫のまなざしを送った。