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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「オレもこんなことされたの初めてだから、よく分かんねえけど……もうオレ、元に戻れない気がする」
「おや、戻ってもらっては困ります。あなたはこれからも沢山の人を喜ばせてあげないとね。さあ、最後の仕上げをしましょう」
「あ……そっ、その白いのなに? なんかべたべたする。それにちょっと臭いし……なんでこんなの塗るんだよ」
「あー、これはですねー」
 説明しようとしたとき、かつかつと早歩きで近づいてくる聞き慣れた靴音に、ルヴァは満面の笑顔で振り返った。
「ああ、これは女王陛下。よく来てくださいましたね、私も後ほどお伝えしようと思っ」
 ばちーーーーーーーーーーーーーーん! という大きな音が、ルヴァの執務室に響き渡った。
 ぼろぼろと大粒の涙を零しながらルヴァの頬に平手打ちをかましたアンジェリークは、彼の周囲に一切目を向けることなく踵を返して行った。

 ぱたんと静かに閉められた扉を、オリヴィエとランディが見つめる────こんな現場に居合わせて言いたいことは山ほどあっただろうに、部屋を出ていくときには表向き平常を取り繕い、毅然とした足取りで去って行った女王陛下の姿を。
「……へ、へい、か……なんで……?」
 ルヴァは事態がうまく飲み込めず茫然と立ち竦み、じんじんと痺れる頬を押さえていた。
 そこへ安堵と呆れのため息をついたオリヴィエがマルセルを抱えて現れた。
「……そりゃーまあ、恋人の情事をほぼ一部始終聞いちゃったらねー……」
「陛下……大丈夫でしょうか。かなりショックだったみたいですけど……」
 しきりに扉のほうを気にしながらランディも続いて歩いてきて、ルヴァはぽかんと三人を見つめている。
 いつまでもこちらを見ようとしないオリヴィエとランディに、不思議そうに首をかしげて問いかけた。
「ああいらっしゃい、いまお茶を淹れますね。マルセルは一体どうしたんです?」
 心配そうにマルセルの額に手を伸ばしてきたルヴァからさっと離れ、きょとんとする彼をきつく睨みつけるオリヴィエ。
「……いいから、触んないで。あのねルヴァ、正直に答えてくれるかな」
「? は、はい」
 さっきの陛下といい、オリヴィエといい、何故かとても怒っている。一体何があったというのか────と、ルヴァは不安そうに眉尻を下げた。
「今何してたの」
 オリヴィエの視線がルヴァの全身をくまなくチェックした。服はきちんと着ていて特に乱れはない。何故か幅の細い板に挟まれた不気味な表紙の本と針、はさみや糸などが机の上に置かれていた。
 咎めるような鋭い視線にも負けず、ルヴァはいつもののほほんとした口調で答えを返す。
「はあ、今ですか? 本の修繕をしていましてねー、これがちょっと変わっていてお喋りする本なんですけど、もう泣くわ喚くわ大騒ぎで……と言っても、後は表紙だけなんですがね」
 微塵も危機感を感じられない言葉にランディも素早く机の上に視線を走らせ、そこでようやく強張っていた全身の筋肉が緩むのを感じた。
「本当だ……じゃ、じゃあ、今まで聞こえていた声って」
 あははと苦笑いをしたルヴァが板挟み中の悪魔の書の表紙をぽんと叩いた。
「おや聞こえてしまいましたか、煩くしてしまってすみません。この『悪魔の書』があんまり古くてボロボロだったんで、可哀想になっちゃいましてねー」
 人数分のお茶を淹れている間中完全に放置された悪魔の書が、ここで文句を言い始めた。
「おい、背中すーすーするぞ。白いのなんとかしてくれ」
 表紙の目玉がぎょろりと動いてそこから声がしたため、驚いたランディが小さく「うわっ」と叫んだ。
「あーそうでしたね。糊が乾かない内に貼り付けてしまいましょう。二人ともすみませんが、ちょっと待っていて貰えますか」
 それぞれの前に湯飲みを置いてから、ルヴァは作業の続きに取り掛かる。机の下に落ちていた布地に気づいて拾い上げ、丁寧に畳んで机の上に置く。その布地は悪魔の書の表紙によく似た緑色をしていた。

 元の表紙の上に布を重ね張りして角を新たな金具で補強すると、その下に隠れたはずの目玉が浮かび上がって来てすっかり元通りになった。
 綺麗に補修され嬉しそうにあちこち飛び回る悪魔の書を、唖然とした顔で見つめるオリヴィエとランディ。
 満足げに頷いて口元を綻ばせているルヴァへ、すっかり呆れ返ったオリヴィエが突っ込む。
「あんた……また何かいわくつきのものを手に入れたってワケ? 何なのよアレ」
「手に入れた、というのは語弊がありますねえ。図書館でたまたま遭遇してしまったので止む無く持ち帰った、というところです」
 悪魔の書はルヴァの膝にぽすんと落っこちてきて、読めと言わんばかりに頁を開いている。
「今度は製本用の針、ちゃんと用意しとけよ。なんだってあんな太い針使うんだよ、痛かったぞー」
「あれは革細工に使った針ですからねえ……そもそも本の修繕なんて、私は専門外なんですよ。でもちょっとは新しくなったみたいで良かったですね」
「中もぴかぴかだぞー。ほら遠慮なく読め」
「はいはい、後でね」
 それまで悪魔の書との会話を黙って聞いていたランディが笑いを噛み殺している。
「なんか……ルヴァ様にすごーく懐いてますね、この本」
 それはどこか、幼子が母親の気を引こうと何度も呼ぶ姿を思い起こさせる。ランディの言葉に反応した悪魔の書が嬉しそうに話し出した。
「だってよう、こんなに本を大事にしてくれる人間なんて滅多にいないんだからな」
 無類の本好きが本に好かれるのは当たり前の話────と思いつつ、オリヴィエは気になっていることを聞き出す。
「ふうん……修繕って言ってたけど、あんたは何されてたのさ。客観的には完全にアウトな会話だったけど」
「こいつの触り方が無茶苦茶気持ちいいんだから仕方ないだろ」
「……!」
 誤解を招く発言にぎょっとしたルヴァが固まり、どんよりと沈んだ顔になった。
「はあ……あなたが作業中にいちいち変な声を出していたのは、そのせいなんですか? 別に普通だったと思うんですけどねえ……」
 その言葉に、何かを思いついた様子のランディが口を開く。
「あ、もしかしたら」
 ルヴァとオリヴィエの視線がランディのほうへ集まり、次の言葉を待つ。
「ルヴァ様って頁をめくるとき丁寧だし、じっくり読み込んでいる最中にちょっと紙を擦りますよね。それがいいのかな」
 ルヴァは片眉を上げて考え込んだ。自分の癖を思い出そうとしてみるも、どうだったかよく分からない。
「うーん……ではちょっと再現してみましょうか」
 そう言ってルヴァは適当に悪魔の書を開いて文章を目で追い始め、集中し始めたところで親指がすりすりと頁を撫でた。
「はぅんっ!」
 親指と人差し指に挟まれていた頁がびりびりと震えたのを見て、三人が目を丸くしていた。
「あー、これでしたかー。成る程、無意識でした」
「ほんと頼むから、しょっちゅう『そふとたっち』しないでくれよ。骨抜きの廃本になっちまったら、責任取ってくれんの?」
 発言に色々と難のある悪魔の書を無理やり閉じて、オリヴィエは肩を竦ませた。
「なーに、あんたたち結局いちゃついてんじゃないの」
 ジト目で睨まれたルヴァが、慌てて首を横に振る。