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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「心にも思ってないんじゃなくて? それで、どうしたらいいのよ」
「えっとね、集中してみて」
 アンジェリークのざっくりとした説明にも慣れているロザリアは、言われたとおりに杖を両手で構え意識を集中させる。
 桃色の宝玉が黄金に輝き、その光は目の前のオロバスをふんわりと包み込んでいく。
 そして────光が治まった頃、ほつれや破れのあった箇所も元通りの姿になっていた。だがオロバスの大きな一つ目は絵のままで、一向に動く気配がない。
 ロザリアが少し不安げなまなざしで目の前のオロバスを見つめて呟く。
「見た目は元通りのようですけれど……どうなのかしら」
 同じくオロバスを覗き込んだマーリンがルヴァを促す。
「眠っているのやも知れませんぞ。お声をかけてみては如何かな」
 促されたルヴァはこわごわと表紙に手を伸ばし、そっとさすりながら声をかけてみる。
「オロバス……オロバス、起きてください」
 煩い空間ではかき消されてしまいそうな細い声に応えるように、オロバスの目玉がぎょろりと動き出しぱちくりと瞬きを繰り返す。
 無事に蘇生が成功した安堵でルヴァはぱっと愁眉を開き、すぐに目を潤ませた。
 オロバスは見知らぬ空間を眺め回し、不思議そうに喋り出す。
「あれ? オレなんでここにいんの? まあいいや、何か用か?」
 今も脳裏に焼き付いている最期の姿が幻かと思えるほど呑気なオロバスの声に、すっかり喉が詰まってしまったルヴァは無言でかぶりを振る。そして両手を差し出すと、すぐにオロバスが飛んできて手の中に着地した。
 そのまま溢れる喜びを示すようにぎゅうと抱きしめ、再び表紙を撫でさすっている。
 それをじっと観察していたマーリンは、微笑ましさに目を細めた。
(友人としてならと言ってはいたが……これはもう契約しておるのと変わらん関係性に見えるがの)
 僅かに硬直していた顔の筋肉がゆるりと解けたロザリアへ、アンジェリークが労いの言葉をかける。
「うまくいったわね、さすがロザリアだわ!」
「……褒めたって何もあげませんからね」
 そう言ってつんとそっぽを向いたロザリアの耳が紅潮しているのに気づき、アンジェリークが嬉しそうにくすりと小さく笑った。
 そこへ、ネイルの状態を確認していたオリヴィエが軽い口調で話を切り出してきた。
「ルヴァ、いちゃいちゃしてるトコ悪いんだけどさー、さっき何か聞きたそうにしてたよねェ? 早くエロ本に聞いてみたら」
 いちゃいちゃって、エロ本って、というツッコミがあちこちから入る前にルヴァはこくりと頷いた。特に気にしたふうでもない彼の態度に、幾人かは笑いを堪えている。
「あ……ああ、そうですね。オロバス、マネマネという魔物について教えてくれますかー」
「うーんと……マネマネだな。ちょっと待て……ほいあった」
 すぐにマーリンとルヴァが開かれた頁を覗き込む。
 幾つかの魔物の絵と名が並ぶ中、炎のようにも人魂のようにも見える絵とともにマネマネと書かれている。その頁をオロバスは淡々と読み上げていく。
「ドッペルゲンガーとも呼ばれる悪魔の一種で、マネマネ銀を有する希少な魔物。稀にラーの鏡を隠し持っている。モシャスで色々なものに変化する」
 ゼフェルの顔が僅かに気色ばみ、退屈そうに丸めていた体を乗り出す。
「……マネマネ銀? おいエロ本、そこんとこ詳しく話せ」
「最後の鍵の先端に使われている特殊金属。冶金、鍛錬方法については一部の魔族にのみ伝えられ、その詳細は一切不明」
 不明と聞いてつまらなさそうに口を尖らせたゼフェルが文句を垂れる。
「んだよ、肝心なトコ何にも分かんねえのかよ」
 椅子の背もたれに体を預け小さく舌打ちをするゼフェルヘ、ポピーが穏やかにフォローを入れた。
「先端が鍵穴に合った形状に変形するんで、どんな錠前でも殆ど開けられます」
「うげっ、セキュリティまるっと無視かよ。物騒な代物だなー……」
 ゼフェルのそんな呟きに、オリヴィエとマルセルが反応を示して吹き出した。
「逃亡用に楽々カード偽造できるアンタが言うことじゃないよね〜」
「今一瞬それ欲しいとか思ってたでしょ!」
 そんな二人の言葉にゼフェルも笑いながら言い返す。
「だってよぉ、そんなんあったらスゲー便利だろ」
 今度はランディがそれへ反応を示して笑いをかみ殺しつつ言葉を紡いだ。
「おまえじゃロクな使い方しなさそうだけどな」
「うっせーんだよランディ! おめーだって持ってたらロクな使い方しねーぞ絶対!」
「さあ、それはどうかな。俺はどっかの誰かと違って、聖地から逃げようとかしたことないし」
 笑顔で軽口を叩き合う彼らを微笑ましく眺めていたポピーが、再びフォローを入れる。
「最後の鍵ならお父さんが持ってますから、興味があるなら後でお貸ししますよ」
 目の前に出されていた紅茶を口に含んでいたルヴァが、場が賑やかしくなってきた辺りでやんわりと仕切り直す。
「はあ、不思議な金属もあるんですねぇ。それはひとまず置いておいて、話を戻しますよー」
 手帳の頁を手繰り、それへじっと視線を落としたルヴァが再度オロバスに問う。
「オロバス。マネマネはどこに生息していたのか、分かりますか」
 きょろと目玉を動かして、オロバスが自らの頁をめくる。そこに浮かんできた文字を読み上げた。
「マネマネの生息地────デスパレス、デスキャッスル、闇の洞窟と闇の世界辺りに分布」
 オロバスの頁に浮かんだ文字を素早く目で追っていたルヴァが、読み上げられた文章の続きに注目する。
「……続きを」
 促されたオロバスが再び文章を読み上げた。
「豆知識────デスキャッスルの先には勇者一行とデスピサロの決戦地、デスマウンテンがあった」
 すぐにティミーが険しさを頬に浮かべ、忌々し気に呟いた。
「またデスピサロ絡みか……!」
「……やはりこれも、その時代の何かが今に引き継がれて災いを起こしている、と考えて良いでしょうね」
 そう話しながらルヴァは手帳にペンをとんと当て、丸を付けた────進化の秘法と書かれた箇所をぐるりと囲み、更にペンで二度小突く。
(進化の秘法を用いた魔族の存在。現在生息していない魔物に代わり、変身できる範囲を広げた新種とも言える魔物の出現……)

 これまでに書き留めた全ての情報に目を通してみて、ルヴァはひとつひとつの点がいよいよ薄く線になり始めたと実感する。
 新型のジェリーマンにも彼はひとつの仮説を立て、丸印から一本線を伸ばして思い浮かんだ言葉を書き加えた────進化、若しくは品種改良、と。

 状況の確認が大まかに終わったところで、ジェリーマンの変化を解くにはティミーの天空の剣とラーの鏡が必要とポピーが告げ、緊急会議はお開きとなった。
 会議の間はほぼ後方に控えていたサンチョが扉の修復が終わったとロザリアに伝えると、彼女はルヴァへと向き直り話を切り出した。
「……扉は直していただけたようですわ。わたくしに代わって引き続き陛下の護衛をお願いしますわね、ルヴァ」
「はっ……?」
 ルヴァはロザリアの顔を正面からぽかんと見つめた。
「ですから、あなたとわたくしが交代します。できる限り陛下の傍に付き添って、離れないようにしてくださいね」