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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「あなたたちは向こうを守ってて、あの人たちに何かあってはいけないから。すぐに合流するわ」
 こうと決めたら頑ななのは、どちらかといえば母のほうだ────そう思ったティミーがこめかみを押さえ、はあと大きくため息をついて妹を促す。
「行くよ、ポピー。お母さんが頑固なの知ってるだろ」
「そう、だけど」
 ティミーの言葉にニイと口の端を上げた母を見て、ティミーは目を吊り上げて釘を刺す。
「お母さんも早く戻ってよ。戻らなかったらクソババアって呼んでやるからね!」
 吐き捨てるように言い残し、妹を連れ出口へと向かっていった。
 ビアンカは息子の暴言にも顔一面に満悦の笑みを浮かべ、口元を緩ませている。
(とかなんとか言っちゃってー。こそっとスクルトかけてくれちゃうんだから)
 汚水が目前に迫っている。
 ビアンカは表情を引き締め、意識を集中させてベギラゴンを唱えた。
 迫り来る汚水を食い止めるように炎の壁を作り出し、その間に急いで遠ざかる。
 ブクブクと音がして、洪水と言うよりも雪崩に近い汚水の動きが一瞬止まった。
(蒸発は一応してるっぽいわね。新しい魔物ってわけでもなさそう)
 それからじりじりと後退しつつ二度三度とベギラゴンを放ち、様子をくまなく観察した。
 こめかみから首の後ろにかけてちりちりと嫌な気配がし続けているせいか、全身の神経が研ぎ澄まされているようだった。

 城を出た一行は城下町まで戻り、ビアンカを待った。
 双子たちは心配そうに城をじっと見つめたまま、微動だにしない。
 ルヴァは顔面蒼白となったアンジェリークを木陰に連れて行き、芝生の上に寝かせた。
 出口付近でアンジェリークと同じ状況に陥ったロザリアはリュミエールに支えられ、アンジェリークの側に腰を下ろす。
 女王陛下と補佐官は、元はと言えば次期女王候補として選ばれた者であり、調和のサクリアを持つ者同士である。
 その二人だけが誰よりも先に異変を感じ取っていた────ルヴァとしては看過できない事態だと思ったが、ひとまず回復が先とばかりに回復呪文ベホマラーを唱えた。
「柳絮よ、広く降り注げ────」
 アンジェリークとロザリア以外の守護聖たち、双子にも柳絮の綿毛のような光が優しく降り注ぎ、一つ一つが肌に触れる度に過呼吸気味の息苦しさから解放されていく。
 頬に赤みが差してきたのを確認して、ルヴァの顔には虚脱したような安堵の色が浮かぶ。
「ご気分はいかがですか、お二人とも」
 ルイーダが持たせてくれた薬草茶を飲み干し、アンジェリークとロザリアは静かに息を吐いた。
「ありがとう、もう落ち着いたわ。ロザリアはどう?」
「わたくしも平気です。何事かと思いましたわ」
 上体を起こしたアンジェリークが座り直し、辺りの様子をきょろきょろと見まわす。
「やっぱり誰もいないわね……あの変な水と、何か繋がりがあるのかしら」
 周辺ではベホマラーの効果か、落ち着きを取り戻した守護聖たちが木陰へと集まってくる。
 懐から手帳を取り出したルヴァが、瞳を凝らして検分するような目つきで質問を投げかける。
「先程は一体、何を見ていらしたんですか」
 ルヴァの問いに、アンジェリークとロザリアは顔を見合わせ、眉尻を下げた。
「……奥のほうからとても邪悪な気配がしたの。じっと見られてたような気がしたわ」
「わたくしもです。奥の階段から何かが降りてくるような……」
 二人の漠然とした話を全て手帳に書き込み、ルヴァは頭の片隅から沸き起こる幾つかの新たな疑問へと思考を巡らせる。
 そして、何かを思い出すかのように見取り図を書き始めた。
 そのまま言葉を失くして間もなく、双子の喜びの声が耳に届いた。
 軽やかに駆け寄ってくるビアンカのもとへ、二人は一斉に駆け出していく。
「お母さん!」
「良かったー無事だー!」
「たっだいまぁ。こっちは全員無事ね?」
 ビアンカの問いに頷き、双子は肩に腕を回して母を挟むように並び、戻ってきた。
 歩く途中でビアンカがひょいと両足を持ち上げ、双子に支えられた状態で運ばれてくる。
 母を心配していたのだろう。いつもなら苦情のひとつでも言いそうな状況でも何も言わず、楽しそうに足をぶらつかせる母の横着を許している。
「アンジェさんの具合はどう?」
 ビアンカに問われたルヴァが柔和な笑みで話し出す。
「あーお帰りなさい、ビアンカさん。この通り、回復しましたよー」
「ご心配おかけしましたぁ」
 元気そうなアンジェリークの声にほっと胸を撫で下ろしたビアンカが、明るい表情を見せる。
「ああ、だいぶ顔色が良くなったわね。良かったわ!」
 そうしてアンジェリークの前にすとんと座り込み、思い切り両腕を伸ばして緊張を解く。
 すっかり寛いだ表情に戻ったビアンカへ、ルヴァが話を切り出した。
「あのー、奥の階段を上がってすぐと、反対側にもお部屋がありましたよね。あれはどなたのお部屋なんでしょうか」
「えー? あなたたち、覚えてる?」
 ビアンカ自身はリュカに連れられて来るくらいなので、ヘンリー夫妻の部屋以外を見に行ったことがなく、子供たちに視線を投げた。
 ティミーが手帳に書かれた城内の見取り図を眺めてうーんと考え込んでから、ゆっくりと話し出す。
「奥に小部屋があるほうは、コリンズの部屋だよ。階段すぐのって……学者さんがいなかったっけ?」
 ティミーとビアンカの視線が今度は妹に移る。
「あー、いたいた。お父さんが、確か進化の秘法について調べてる人だって言って……」
 これまで幾度も出てきたキーワードに、一同の顔色がさっと変わった。
 驚愕と当惑を含んだ視線が交差する中、ルヴァが動揺を見せない声で言葉を紡ぐ。
「……先に天空城へ向かうべきかも知れません。調べたいことがあります」

 そうして、一行はポピーのルーラで天空城へと移動してきた。
 以前よりも遥か高みに上った天空城を目の前にして、高所が苦手だというポピーは城だけを凝視して身を強張らせている。
 吹き荒ぶ風が薄雲を運び、遥か下には地上の景色が雲の合間から見えて、絵画のような美しい光景に歓声が上がった。
 真っ先に話し出したのはオリヴィエだ。
「ふーん、これが噂の天空城か。確かにいい眺めだよね」
 ゼフェルはというと両腕を後頭部で組み、手持無沙汰に歩き回っては足元をとんとんと踏みつけている。
「景色はいーんだけどよ、これ動力源って何だよ?」
 そう言われてみればとアンジェリークも改めて足踏みをしてみた。綿あめのようなふわふわした見た目とは裏腹に、なかなかしっかりとした感触が足の裏に伝わっている。
 そして実に鋼の守護聖らしい疑問に、ルヴァとアンジェリークの頬が思わず緩む。その問いへはポピーが答えた。
「シルバーとゴールドのオーブ、二つの力が浮力になってます。前に片方だけになっちゃって、エルヘブン南の湖に落下してました」
「ほーん、おもしれーな。てことはどっかに動力室があるんだよな? 頼んだら見せて貰えっかなー見てぇなー」
 ロザリアにアンジェリークの付き添いを任せ、ルヴァはまだきょろきょろと観察しているゼフェルヘと声をかけた。
「はいはいゼフェル、もう行きますよー。皆さん足元に気を付けてくださいっ、ねっ!?」