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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 何気なく発された彼女の言葉に、ルヴァは少し目を丸くさせてからゆるりと微笑みを浮かべる。
「流石は神鳥宇宙の女王陛下。察しのよろしいことで……私もその意見に同感ですよ」
 アンジェリークの翠の瞳が真っ直ぐにルヴァの青灰色の瞳を捉える。
「分からないって仰ってたけど、余り口にしたくないような出来事があるのかも知れないわ。そう思えるくらい、言葉を濁してらしたもの……」
 いつの間にか、二人の歩みは止まっていた。
 アンジェリークの長い睫毛が小さく震え、閉じ合わされる。すぐに上下の瞼は離れたが、視線は伏し目がちに床を見つめていた。
 宇宙を統べる者として、竜の神が抱えている重責を分かち合えるのだろうか────二人の間に暫しの沈黙が訪れる中、ルヴァは隣でふわふわと揺れる金の髪をそっと撫で、おもむろに口を開いた。
「立場上、自由に動けないときもあるでしょうからねぇ。それなら、外野の私たちにできることを頑張ってみましょう」
 励ましの意味を込めてにこりと口角を上げたルヴァを前に、少し翳りを帯びていた翠の瞳にも輝きが戻る。
「ええ!」
 ルヴァの手がアンジェリークの背に宛がわれ、二人は図書室へと向かった。

 その頃、一度は退出したクラヴィスが再びマスタードラゴンの前に引き返してきていた。
 クラヴィスとマスタードラゴンの視線が交錯する中、クラヴィスが先に話を切り出した。
「マスタードラゴンよ、少しいいか」
「構わぬ」
 許可を得て一歩、二歩とクラヴィスが歩み寄ると、側仕えの天空人がびくりと身を強張らせた。
 彼の持つ安らぎのサクリアを感じ取っているのか、安らぎの終着点にある死を本能的に恐れたのか、恐怖心が彼らの身を穿つ。
 僅かに後ずさる天空人には一瞥もくれず、クラヴィスが口を開く。
「……我々もまた、運命の輪の中にいるのだな?」
 金の瞳をすがめて、マスタードラゴンは問う。
「何故そう思う、闇の守護聖」
「私の水晶球がそのように指し示しているからだ。今は抗えぬ流れのただ中に在ると」
 少しだけ考え込んで俯くクラヴィスへ、マスタードラゴンは刹那瞠目して、それからゆっくりと言葉を選んだ。
「いかに私と言えど、未来のことは分からぬ。だが……」
 言葉が一度途切れ、グルルと喉を鳴らしてから話は続けられた。
「理は存在する。そなたが守護聖として選ばれたように。そなたたちがこちらの世界と縁繋ぎになったのも、全て────」
「デスピサロ」
「……!」
 クラヴィスがマスタードラゴンの言葉を遮りゆっくりと告げたその名に、マスタードラゴン他、従者の天空人たちにも緊張が走った。
 アメシスト色の瞳が冷たい光を纏い、大きな金色の竜を縫い止める。
「先程、地の守護聖が口にしなかった名だ。あれはもう勘付いているぞ、竜の神の大いなる企みにな」
「…………」
 マスタードラゴンは小さく唸り声を上げそれきり黙りこくったが、闇の守護聖はそれを気にも留めずに釘を刺す。
「我々に嘘や誤魔化しは効かぬと、覚えておくがいい……では失礼する」
 クラヴィスは抑揚のない平坦な声でそう言い切り、踵を返して謁見の間を退出していった。

 ルヴァとアンジェリークが図書室へ向かっていた頃、マルセルたちは謁見の終わりを待ち構えていたエルフたちにせがまれ、彼女たちが丹精込めて育て上げた美しい花々を見に来ていた。
 満面の笑みを浮かべたエルフたちに腕を絡め取られたマルセルが一番前を歩き、何とはなしに着いてきたランディとゼフェルが続く。
 エルフは本来臆病な種族だが、こちらの世界にはない守護聖のサクリアを感じ取ったのか、好奇心を抑えきれずにいるようだった。
 ランディがぼそりと隣のゼフェルに話しかける。
「動力室、まだ見に行けそうもないな」
 その言葉にゼフェルは唇を尖らせ、小さく頷く。
「だな。まあしゃーねーな、頼んだって見せて貰えるとは限らねーしよ……時間はまだあるだろ」
 そう言いながらスタスタと廊下を行くゼフェルに置いて行かれないようにとランディも足を早めた。
「俺もちょっと気になるから、後で一緒に行こう」
「あ? 着いてくんのかよ……別に構わねーけど、見たって分かんねーと思うぜ」
「そんなこと言うなよ。見学できるならその方がいいだろ、何かの参考になるかも知れないし」
 二人がそんな会話をしていたところへ、マルセルとエルフたちが小部屋に入っていったのが見え、慌てて後を追う。

 中ではエルフの一人が小さな鉢植えを両手に抱え、マルセルへと向けていた。
「ここで世界樹の苗木を育てているんです」
 緑の守護聖の特性か、普段から草花の手入れを好むマルセルが、エルフの手の中の苗木に視線を落とす。
「へえー、これが世界樹? まだ小さいね」
 葉水をやり艶やかに光る若葉を眺めながら話すと、苗木を手にしているエルフが答えを返す。
「はい、まだ赤ちゃんなので……でも育つととても大きくなるんですよ。名前の通り、世界中に根を這わせるくらい!」
 僅かな風を受けて、世界樹の苗木はさわさわと揺れる。
 温室のように明るい室内の光があるだけではなく、世界樹自身が自ら輝きを放っているようにも見え、マルセルは興味津々で更に覗き込む。
「ちょっとだけ、葉っぱを触ってみてもいい?」
 そう尋ねたマルセルへエルフたちは笑顔で頷きを返し、マルセルがそろりと葉に触れた。
 その瞬間マルセルの手から輝きが溢れ出し、エルフたちが小さく悲鳴を上げた。
 部屋中を満たす緑のサクリアは通路にまで輝きを溢れさせ、驚いたゼフェルとランディがすぐに飛び込んでくる。
「おいマルセル! 何やってんだ!」
「どうしたんだよ、これ……!」
 眉尻を下げて弱り切った様子のマルセルが飛び込んできた二人を振り返り、大きな声を上げた。
「ランディ、ゼフェル! ぼくにも分かんないよ、急にこんな……!」
 眩しさに目を細めていたゼフェルは、すぐに胸元のサングラスをかけて彼の手元を見た。
 世界樹の苗木が、まるで枯れた土が水を吸い込むかのごとくマルセルのサクリアを吸収している。
「マルセル、サクリア出すんじゃねぇ!」
 ゼフェルの声に、マルセルはかぶりを振って言い返した。
「だ、出してないよ! 葉っぱに触っただけだもの!」
「一旦離れよう、マルセル。植物は緑のサクリアに敏感なんだから」
 と言って無理やりマルセルを離したランディだったが、守護聖なら当然の疑問がわいていた。
 豊かさをもたらす緑のサクリアとて、他のサクリアと同じく呪文のように直接的な作用はない。
 彼らからしてみればそう恐ろしい体験ではなかったが、本来サクリアの恩恵を緩やかに受け止めていくはずの植物が自ら意思を持ったようにも思えて、マルセルはごくりと喉を鳴らした。
 すっかり笑みの消えたマルセルの横で、ランディが呟きを漏らす。
「……何が起きてるんだ、一体」
 この世界に、という言葉は飲み込まれた。
 エルフたちの反応はというと、苗木の様子を細かく確認をして、にこりと笑んでいた。
「若葉が増えています! ほらここ!」
 先程はなかった若葉が数枚、青々と繁っていた。
 それを見たランディとゼフェルが、マルセルと視線を合わせて困惑の表情を浮かべた。