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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「ええと…… ”王の命により姫と従者が出立した暫く後に、国王を含め城内にいた人間全てが忽然と姿を消し行方不明となる。世界に平和が戻った際に彼らは無事に帰還したがその間の記憶はなく、サントハイムに伝わる謎のひとつとして後の世に語り継がれた” ……ですって」
 言葉が耳に届く内に、ポピーの顔色が徐々に青ざめていく。
「お母さん、それって……」
 ビアンカは顔色一つ変えずに、ポピーが口ごもり言えずにいた言葉を事も無げに告げる。
「……さっきの、ラインハットと似てるわね」
 その冷静さはリュカと共に旅をしてきた経験や、過酷な旅の中で妊娠出産を経験した女性だからこその強さも含まれていて、ポピーは心の中でただただ称賛する。このかっこいい人がわたしのお母さんで良かった、と。
 少し自慢げな表情のポピーの傍らで、ルヴァは眉間にしわを寄せて険しい顔つきになっていた。
「平和が戻った際に帰還、ですか……。ラインハットの件にも同じような原因があって起きた事案だと仮定すると、どこかにいる黒幕を倒さない限り、あの城の人々が戻る可能性は低いのかもしれませんねぇ……」
 普段ならこれほど雑な推測など口にはしないルヴァであったが、再現とも思える一連の流れを考えても、無関係だとは言い切れない感覚があった。
 挑戦的な色を湛えたビアンカの瞳が、じっとルヴァを見据える。
「やっぱりルヴァさんもそう思う?」
 遥か高みの青空のように澄んだ青がどこか楽しげにすら見えるのは、気のせいだろうか────ルヴァがそんなことを考えた矢先、書物を抱えたアンジェリークとロザリアが戻ってきた。
 話が聞こえていたのか、二人の顔つきが少々険しい。
 二人は音を立てないようそろりと机の上に本を下ろし、静かに息を吐いたロザリアが口を開いた。
「オリヴィエとゼフェルからは、進化の秘法を使ったデスピサロが夢に出て来ていたと報告されてますしね」
 一同の間に暫しの沈黙が訪れたが、その間に幾つかの考察を済ませたルヴァが沈黙を破った。
「とにかく、もう少し調べてみましょう。もっと目を通さなくては」
 その言葉へビアンカが強く頷き、ニッと口角を上げた。
「そうね。もうちょっと頑張りましょ!」

 その後、無人のサントハイム城はバルザック率いる魔物たちに占拠されたこと、その事件の少し前には予知能力のある国王が声を奪われ、王女がもたらしたエルフの秘薬「囀りの蜜」で声を取り戻し、世界に広がる不穏の原因を探るべく王女たちが旅立った経緯が判明した。ルヴァはそれらの情報を手帳に書き留め、他にも手掛かりがないかと山のような書物を片っ端から広げて目を走らせた。
 アンジェリークがその手帳をじっと覗き見て、ふと思ったことを口にする。
「……王様には予知の力があったのね。何かを予知して言おうとしてたけど、それが敵には都合の悪い話だったとか……?」
 アンジェリークの翠の瞳がルヴァへと注がれ、彼はその視線へ頷きを返す。
「そう考えるのが筋でしょうね。先手を打たれないように、或いは邪魔をされないように」
 二人の会話を聞いていたビアンカが、右手の指先を唇に押し当てて僅かに眉根を寄せる。
「でも変じゃない? それならそんなまどろっこしいやり方しないで、殺しそうなもんだけど」
 けろりと物騒な言葉を口にしてアンジェリークたちが固まる中、娘のポピーが同じようなノリで応える。
「それ言ったらお父さんだって、奴隷にされてなかったと思うよ。お母さん」
「そっか、それもそうね。魔物も意外と無益な殺生はしないのかも」
「面倒くさいだけかも知れない」
 母子で納得して頷き合っている最中、ロザリアも口を開いた。
「警告だったんじゃないかしら。余計なことを喋るなっていう……」
 ロザリアの考えにルヴァは頷き、話し始めた。
「私もそう思います。屠るならそれなりに抵抗もあるでしょうし、魔物側も無傷とはいかないでしょう。それなら国王を脅して国民全てを黙らせるほうが、有益かつ効率がいいですね。大将クラスであれば、人間を屠るなどいつでもできただろうと思うんですよ」
 皆の会話を聞きながら考え込んでいたアンジェリークが、はっと息をのんだ。
(もしかして……もしかしたら)
 アンジェリークの顔つきが変わったことを怪訝に思い、ルヴァは声をかける。
「陛下、どうされました?」
「もしかしたら……なんだけど。人がいなくなってから魔物がお城に居座ったんでしょ? 魔物たちはビアンカさんの言うように、殺しに来ていたんじゃないかしら。もしそうだとしたら、それを知った誰かの力で事前に避難させられたのかもって」
 一同もはっとした顔つきになり、辺りは再び水を打ったように静かになった。

 きっとこの会話も聞こえているのだろう────宇宙のあちこちから思念の声が届く女王であるアンジェリークはそう考えて言葉にはしなかったが、彼女の中ではマスタードラゴンの仕業ではないかと思っていた。
 ラインハットは世界を救った勇者の父、リュカの親友の国だ。そしてサントハイムも勇者の仲間の国である。この類似、そして先程のルヴァの質問に対するマスタードラゴンの返答に覚えた違和感。わざとはぐらかされたように感じたのは間違いではなかったと、アンジェリークは心の中で呟いた。

 アンジェリークの言葉に、ルヴァが嬉しそうにふ、と息で笑った。
「そんな大それたことができそうな味方は、早々いるもんじゃありませんねー。それこそ、全知全能の誰かさんくらいでないと」
 見つけてくれと言わんばかりの誘導を真っ先に疑問視していたルヴァは、アンジェリークの答えに満足気な表情を見せた。そして竜の神がそうさせる意味についてもまた、彼はある程度の正確性をもって推測していたのだった。

 その頃、城内をざっくりと見て回ったオスカーとオリヴィエの二人は、天空城西側の広場にやって来た。
 言葉を交わさぬまま目前を悠々と流れゆく雲を見つめているうち、オスカーが口を開いた。
「どうした。随分おとなしいじゃないか、極楽鳥」
「……ちょっと気になっててさ。さっきのルヴァの態度、あんた気づいた?」
 ちらと横目で視線を投げかけるオリヴィエに、オスカーは頷きを返す。
「ああ……ルヴァにしては妙にきつかったな」
「星の視察に出向いたときでさえ、あんな態度取ってるの見たことないよ。何か考えがあってのことだとは思うんだけどねぇ……おーや、リュミちゃんとクラヴィスじゃなーい!」
 扉から出てきたリュミエールとクラヴィスを見つけ、手を振るオリヴィエ。
 ハープを片手にいつも通りの様子で近づいてきたリュミエールが、にこりと笑みを浮かべて話し出す。
「オリヴィエ、オスカー。ここにいらしたんですね」
 少し遅れてゆっくりと歩いてきたクラヴィスは、三人とはほんの少し離れたところで景色を眺め始めた。
 リュミエールはそちらをちらりと確認しながらも、闇の守護聖が思案を巡らせる時間を邪魔立てしないよう、オリヴィエたちの輪に加わる。
 オリヴィエが両腕をさすり、羽根のショールを引き寄せてぼやき出す。
「なぁんかさー、このお城ってちょ〜っと落ち着かないんだよねー。変にざわざわするんだけど、あんたたちはどう?」