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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 言われてみれば、とリュミエールが小さく頷く。
「地上より高い場所にいるせいでしょうか、確かに少し寒々しい感じはします」
 対して、オスカーは片眉をくいと持ち上げ、不思議そうな顔をして見せた。
「そうか? そうでもないと思うが……」
 ふっ、と笑う声がした。
 リュミエールが声のした方を見やり、頬に戸惑いを浮かべて声をかける。
「クラヴィス様……?」
 クラヴィスはくつくつと笑って、気だるそうな声音で話し出す。
「あれの執務室に行き慣れている者と、そうではない者の差だな」
 何の話かと首を傾げたオリヴィエが、すぐに言葉の意味を察してぱちりと指を鳴らした。
「ええ? ……あー! ホントだ、ジュリアスの執務室っぽいわ、ここ!!」
 リュミエールはどう答えていいものかと悩み、困った末に曖昧な笑みを浮かべ、違う話題を切り出す。
「クラヴィス様、先程は竜の神とどのようなお話を……?」
 水の守護聖の問いに、クラヴィスは情味のない顔つきで答えを返す。
「城の人間が消えた理由について、少々釘を刺しておいた」
 淡々と紡がれた言葉が指し示す意味は、他の三人の顔から一瞬にして笑みを奪った。
 その中でも殊更真剣な表情になったオリヴィエが、じっとアメシスト色の瞳へ視線をぶつける。
「クラヴィス。それってマスタードラゴンと関係があるってことだよね?」
 温和なルヴァの不遜な態度も、それに気づいてのことなら納得がいく────と、オリヴィエはある程度納得した様子で両腕を組んだ。
 クラヴィスの言葉が追うように続く。
「消えた者たちはいわば人質だ。我々をこの世界で動かすための、な」
 オスカーは険しい表情を隠すように右手で顔の下半分を覆い、暫し考え込んだ後にクラヴィスに問う。
「仕組まれたって言うのか……?」
 クラヴィスが静かに瞬きを繰り返し、抑揚のない声が吐息に乗って紡がれる。
「向こうにそのつもりはなさそうだが、結果で考えればそうなるのだろう……」
 静かに話を聞いていたリュミエールが、クラヴィスへと真っ直ぐに視線を向けた。
「……考えようによっては」
 皆の視線が一気に集まる中でリュミエールはハープをしっかりと握り、緊張を堪えて言葉を続ける。
「例え人質という側面を持っていても……無益な争いが頻発している現状では、神の庇護下にあるほうが安心ではないでしょうか」
 リュミエールのそんな言葉に、オスカーとオリヴィエはすぐに切り返す。
「竜の神にとっては最善の策でも、こっちまで安全な保証はどこにもないな。生殺与奪の権利が向こうにある以上、今後どう転ぶかは分からないぞ」
「ん……リュミちゃんが言うような優しーい神様だったらイイんだけど。クラヴィスが人質ってはっきり言うくらいなんだから、私たちの味方かどうかは……ねぇ?」
 そう言うと、オリヴィエは毛先まで丁寧にケアし尽した自らの髪を指に巻きとり、それきり口を閉ざした。
 反対の意見が出てもなお、リュミエールは続ける。
「わたくしは……信じたいです。この世界を統治する神の心に、正義はあると」
 迷いなくはっきりとした声で告げられた言葉に、オスカーとオリヴィエも頷いて見せた。そうであればいい、との願いをこめて。

 それから暫し無言の時が流れ、おもむろに袂から取り出した水晶球を覗き込んだクラヴィスは独り言ちる。
「未来のことは分からぬなどと、白々しいことを……」

 彼ら四人が広場で会話していた頃、ティミーはマスタードラゴンから指示を受けた天空人と共に動力室へと来ていた。
 魔王討伐後もリュカと共に定期的に様子を見に来ていたが、今日はティミー一人だけだ。
 シルバーとゴールドオーブの台座をぐるりとくまなく見て回り、満足げに口の端を上げた。
「……うん、異常なし」
 そして梯子の下まで引き返してきたところで、背後の天空人へと話しかける。
「大丈夫だと思うけど、もし何かあったらすぐ知らせてね」
 付き添いの天空人もほっとした様子で胸をなで下ろし、深々と頭を下げる。
「分かりました。いつも気にかけてくださって助かります」
 そこへ賑やかな話し声が上から降ってきて、二人は視線を上へと向けた。
 梯子をするすると降りてきたのは、ゼフェルたち若手守護聖の三人だ。
 下にいるティミーへ向け、ゼフェルが声をかける。
「よーぉ、ティミー!」
「ゼフェル様! どうしたんですか」
「マスドラに動力室見せてくれって言ったらよー、ココロよくオッケー貰ったぜー。よっ、と!」
 ランディとマルセルが恐ろしく長い梯子にもたついている間に、ゼフェルは一人滑るような速さで降りてきた。
 この世界でも珍しい、彼の赤い瞳がきらきらと輝いて見える────嬉し気な表情の前に、ティミーはコリンズの子供の頃をふと思い出し、笑いを堪えた。
(ルヴァ様が言ってたの、本当だな……なんか、似てるかも!)
 緩んだ口元を気取られぬようにそっとよそ見をしている間に、ゼフェルは付き添いの天空人にも声をかけている。
「邪魔はしねーから、ちょっと見せてくれ。この城の動力源が気になるんだよなー」
 ゼフェルがマスタードラゴンを省略して呼んだにも関わらず、天空人は注意ひとつせずに柔らかな笑みを浮かべ、穏やかな口調で返事をする。
「どうぞどうぞ。マスタードラゴンが許可したのでしたら問題ありません。点検は終わりましたので、私はこれで失礼いたします」
 続いて降りてきたランディ、マルセルと入れ替わり、天空人は梯子を上っていった。
 日頃から精密機器を扱っているためか、ゼフェルはいきなりそこら辺をべたべたと触り出すようなこともなく、ただ興味深げにあちらこちらへと視線を飛ばしている姿を見て、ティミーが感心した様子で口を開いた。
「機械、お好きですもんね。ロビンも綺麗に修理していただいたし」
 戦いでへこみ傷だらけだったボディも全て修復されていた、とティミーは思い返す。そして、その技術の高さに武器屋のおやじが驚いていたことも。
「あーあいつな。動く度になんかカラコロ鳴ってたから、開けて見たらボルトが取れてたぜ。それで片腕が動かなくなってたんだけど、直すついでに錆びてたパーツも全部取り替えてやった」
 少し得意げな声音のゼフェルを横目に、マルセルが口を挟む。
「それで懐かれちゃったんだよね! ポピーたちがゼフェルの執務室から連れ出そうとして、随分苦労してたもの」
 くすくすと笑いながら暴露された小話に、ティミーの頬も緩む。
「聖地でそんなことがあったんだ……」
 照れ臭さにガシガシと頭を掻き毟り、口をへの字に曲げたゼフェルが言葉を紡ぐ。
「あー……その、勝手なことして悪かったな。どーも見てらんねー性分なんだよ」
 公園で修理した分だけでは飽き足らず、結局執務室までついてきたのをいいことに気の済むまでとことん磨き上げていたのだった。
 ゼフェルのしおらしい様子に、ティミーは口元を綻ばせて励ます。
「ああ見えて賢いんで、本当に嫌なら暴れますよ。ロビンが嫌がってないならそれでいいんです」
 ティミーの言葉に、ゼフェルは内心ほっとした。もしかしたら攻撃力を削ぐため意図的にああしていたのかも知れない、という考えも頭にあったからだ。