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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「オーブに私の記憶と力の一部を入れておく。砂絵の前で使うと良いだろう」
 天空人が水晶球を手触りのいい紺色の布に包み、ルヴァに手渡してきた。
「どうぞ、お納めください」
 落とさないように両手で受け取ったルヴァが、神妙な顔つきで竜の神に問いかける。
「確かにお預かりします。あとは妖精の女王のお力を借りれば過去に渡れるんですよね?」
 グル、と喉が鳴る。軽やかな鳴りは笑っているようだった。
「既に借りている。そのオーブを作ったのは妖精の女王だからな」
 薄笑いを含んだ声音に、竜の神の企みを薄々感じているだけに何か罠でもあるのでは、とルヴァの胸の内に少々の危惧が沸き起こってくる。
「あー、その。私は腹の探り合いというものが苦手な性分でしてね……あなたが我々に何をして欲しいのかを私なりにある程度は予測できたと思うんですが、ひとつだけ確認させてください」
 ルヴァは言葉をひとつひとつ選びながら、マスタードラゴンを真っ直ぐに見上げた。
「我々があなたの過去を知っても、構いませんね?」
 竜の神を見据えるルヴァの眼光は鋭い。過去を晒して不都合はないかとの問いかけと念押しの確認に、マスタードラゴンは静かに目を伏せて答えた。
「…………ああ、構わぬ」
 それきり物言わぬ竜の神の仕草に何かを感じ取り、ルヴァが不敵な笑みを浮かべて見せた。
「分かりました。では行って来ましょう、過去へ」
 このときのルヴァの口ぶりには「あなたの代わりに」という言葉が含まれていた。

 アンジェリークは一人で謁見の間に残り、静かなまなざしでマスタードラゴンを見やる。無表情な竜の顔がどこか気落ちしているようにも見えた。
「……見守っていることしかできない立場も辛いですね、プサンさん?」
 アンジェリークがあえて冗談めかして言うと、ぽつりと声が降ってきた。
「女王よ、巻き込んでしまってすまない」
 無礼を承知でマスタードラゴンの大きな前足の爪をそうっと撫で、アンジェリークは小さく笑う。
「不器用な方ね。わたしたちを巻き込んででも守りたいのでしょう? この世界を────」
 マスタードラゴンは神鳥宇宙を統べる女王の翠の目を見つめ、穏やかな声で答えた────彼女のまなざしに見つめられると不思議なほど気持ちが凪いでくる、と考えながら。
「その通りだ……どのような手段を用いても、今回ばかりはそなたたちの力を借りねばならぬ」
 アンジェリークは強く頷いてみせ、混じり気のない明るい声で励ました。
「できる限り手を尽くしてみますわ。その代わりと言っては何ですけど、ご相談があるんです」

 そして、竜の神と神鳥宇宙の女王陛下の密談は続けられた。

 天空城の広場で女王陛下の到着を待っていた一行の元へ密談を終えたアンジェリークが歩み寄り、ゼフェルが半笑いでブーイングを入れる。
「お、来た来た。おっせーよ!」
 へへ、と照れ臭そうに笑ったアンジェリークが肩を竦めた。
「ごめんなさい、ちょっと話し合いしてきたわ」
 ロザリアがすぐに隣に並び立ち、声をかける。
「もうよろしいんですの?」
「ええ、行きましょう!」
 アンジェリークの視線がロザリアからポピーへと移り、二人は視線を重ねてこくりと頷き合う。
「えと、妖精のお城はルーラでは直接行けないんです。なので、ここからは────」
 ルーラでサラボナへ向かい、魔法の絨毯に乗り換えて行く旨を説明しようとしたとき、彼らの上を大きな影が通り過ぎた。
 びゅうと音を立てて巻き起こった突風に驚いた若手守護聖たちはすかさず影を目で追い、その正体を口々に叫ぶ。
「マスタードラゴン!?」
「すごーい、やっぱり大きいねー!」
「うは、カッケーな! レア映像だろこれ!」
 マスタードラゴンは少し先で旋回し、一行の元へと降り立つ。
 アンジェリークは落ち着いた様子で口角を上げたまま、竜の神を見つめていた。
「妖精の城まで送っていこう」
 竜の神の提案にティミーがぱちりと指先を鳴らし、にんまりと笑う。
「やったー。ひっさしぶりー!」
 嬉々として一番乗りを果たすティミーの姿を見て、ポピーは少し項垂れる。
「こ、この高さから乗っていくのは初めてなんで、ちょっと怖いです……」
 本来の高度に戻った天空城は、当然ながら大神殿よりも遥か高みにある。
 振り返ったティミーが右手を差し出す。
「大丈夫だって。ほら、おいで」
 ポピーは差し出された手を頼りに背に上り、恐々とティミーの胴に両腕を回してしがみつく。
「ぼくにくっついてれば怖くないだろ。頑張れ!」
 ほぼ半べその妹に発破をかけ、ティミーは胸元に回されたポピーの手に自分の手を重ねた。
 その後ビアンカが続き、守護聖たちも恐る恐るマスタードラゴンの背に上る。
 見た目では艶やかに輝いて見えたマスタードラゴンの鱗には僅かなざらつきがあり、それが滑り止めの役目を果たしていた。
 アンジェリークはルヴァの体にもたれて跨り、目の前の棘のように尖った背びれを両手で掴んだ。他の守護聖たちやロザリアも同じように掴まっている。
 最後尾に座ったルヴァはアンジェリークの細い腰を引き寄せるように腕を回し、片手でアンジェリークと同じ背びれを掴む。
「怖くはありませんか、陛下」
 腰に回されたルヴァの手に自らの指を絡めながら、アンジェリークは振り返って囁く。
「ええ、大丈夫よ。ルヴァがいるもの……」
 その囁きにすっかり気を良くしたルヴァはアンジェリークの白い頬にこっそりとくちづけて、それから頬をすり寄せた。

 マスタードラゴンが羽ばたくと同時にぐんと景色が動き、あっという間に天空城を見下ろす高さに舞い上がった。
 強風に吹き飛ばされるのではないかと思っていた幾人かが、ふわりと浮いた感覚に怯えつつゆっくりと目を開けていく。
 アンジェリークとすぐ前に座るロザリアは、心地良さそうに寛いだ表情で流れゆく景色を見つめている。
 特に懐かしそうに目を細めたロザリアの横顔を見て、アンジェリークが話しかけた。
「ねえ、ロザリアー」
「なんですの、陛下」
 ロザリアの視線がちらとアンジェリークへと向けられ、ふふと笑ったアンジェリークが一言告げる。
「なんか懐かしいわね!」
 アンジェリークが思い出したのは、女王候補の頃のことだ。
 かつて魔法の絨毯に乗ったときにも思ったが、大切に育んだかの地が成長するにつれて、意識を飛ばし見渡す範囲も広くなっていった。
 今はアンジェリークが宇宙の星々を見つめているが、補佐官であるロザリアにとってもあの頃を思い出すには十分すぎる感覚であった。
「……そう?」
 素っ気なく言い放ちツンとそっぽを向くも、口元は僅かに緩んでいる。アンジェリークと同じように考えていたのは明白だった。

 雲の合間を抜けパッチワークのように広がる下界に眺め入るうち、すぐに険しい岩山に囲まれた湖が視界に入ってきた。
 そして、マスタードラゴンの声が響く。
「降りるぞ。しっかり掴まっていてくれ」
 ゆったりと旋回しながら高度が下がっていき、陸地が間近に迫ってくる。