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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 よろしく頼むと言い残して飛び去っていくマスタードラゴンを皆で見送り、地上に降りてあからさまに安堵の表情を浮かべたポピーの案内で、一行は妖精の女王との謁見に臨んだ。

 うっすら靄のかかる青く美しい湖上をいかだで進むと、間もなく荘厳な城が見えてきた。
 中に入るなり花が咲き乱れ光が燦々と降り注いでいる光景に、マルセルがわあと歓声を上げていた。
 それを微笑ましく思ったのか、くすりと笑いながら通り過ぎる妖精たちにこんにちはと挨拶しつつ歩くと、正面の玉座には長い耳が特徴的な女性が腰かけている。
 ティミー、ポピー、ビアンカが膝を折り挨拶を交わしている間、アンジェリークたちも跪く。
「砂絵に描かれた方々ですね。どうぞ皆さん、お顔を上げてください」
 柔らかな声音がして、一行はついと顔を上げる。花の精と呼んでもいいほど可憐な印象の女性が一行を見つめていた。
「よくぞ遥々参られました。リュカを探しに行くのですね?」
 煩わしい挨拶など無用とばかりに、妖精の女王が単刀直入に問いかけてくる。
 アンジェリークがちらとルヴァを見やり、彼はすぐにマスタードラゴンから預かったオーブをアンジェリークに手渡した。
 紺色の包みからそうっと青く輝くオーブを取り出し、彼女の視線は手元から妖精の女王へと移る。
「はい。これを使ってマスタードラゴンの記憶を辿れば、過去へ行けると聞きました」
 アンジェリークがそう言うと、妖精の女王は少し眉根を寄せた。
「一つだけ、問題があります」
 人形のように整った顔に憂いを乗せ、妖精の女王は言葉を続けた。
「あなたがた全員を過去へ送ることはできません。先日の異変のこともありますから……人数を絞ってください」
 女王の言葉にきゅっと口元を引き結んだアンジェリークが小さく息を吸い、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「それは戻ってこられなくなる、という意味でしょうか」
 髪と同じ淡い紫色の瞳を伏せて、妖精の女王は頷きを返す。
「それもあります。単純にあなたがたの持つ魔力が大きすぎるというのが主な理由ですけれど……」

 妖精の女王に勧められ、一行は別の部屋に移動して話し合いを始めた。
 ロザリアが口火を切り補佐官らしい意見を述べる。
「陛下にはこちらへ残っていただきたいですわ。冷たいようですけど、宇宙の存亡をかけてまでこの世界に肩入れする必要があるとも思えませんし」
 落ち着いた声音はやや冷たさを伴って一同の耳に届いたが、ルヴァは素直に頷きながら彼女の意見に続く。
「……過去から戻ってこられる保証はない点を鑑みると、陛下とロザリアにはこちらに残っていただいて、引き続きサクリアのバランス調整をお任せしたほうが良いと思いますねー」
 世界中の恐慌はまだ終わったわけではなく、今はただ沈静化しただけに過ぎない。ルヴァからすれば過去と現在どちらにいても危険に変わりはないと思っていたが、恋人の安全が第一である。ここは補佐官ロザリアと一緒に、仲間の魔物たちも多くいるグランバニアにいて貰ったほうが安心できると考えた。
 二人の意見に同意を示したジュリアスが口を開く。
「そうだな。陛下を無暗に危険な目に遭わせるわけにはいかない」
 目を伏せてじっとやりとりを聞いていたクラヴィスが、ここで割り込んでくる。
「それならば首座たるおまえも、こちらへ残れ」
「なっ……!?」
 眉ひとつ動かさずに淡々と告げるクラヴィスをジュリアスはキッと睨み付けるものの、当のクラヴィスは動じることなく言葉を続ける。
「おまえのサクリアが一番必要な時期だろう。残って陛下のお傍にいるといい」
「クラヴィス、何を勝手なことを……!」
 怒りのボルテージが上がってきた気配を察知し、ルヴァがすかさず二人の仲裁に入った。
「あーまあまあ、二人とも落ち着いて。今は言い争っている場面ではありませんよ」
 ルヴァは光と闇の守護聖の肩に手を置き、とんとんとなだめながら言葉を続けた。
「クラヴィスの意見も一理あります。私もこちらに残ったほうがいいと思いますよ、ジュリアス」
 役立たずと言われているように感じたのかいまだ不服そうな顔のジュリアスへ、アンジェリークが声をかけた。
「ジュリアスのサクリアは定期的に必要だわ。だからわたしたちと一緒にお留守番しましょうね」
 きっぱり残るよう言い切られ、ジュリアスは首を垂れる。
「……御意。陛下がそう仰るのなら、異論はありません」
 残る意思を示した女王陛下に驚いたオスカーが、すぐに口を開いた。
「陛下とジュリアス様が残られるのなら、俺もこっちに────」
「オスカーは過去へ行って頂戴。何があるか分からないし、戦える人がいてくれないと……」
 翠の瞳が真っ直ぐにオスカーへと向けられる。不安そうに揺れているまなざしの中に無言の請願を察知したオスカーはすんなりと承諾した。
「承知しました。陛下の頼みとあらば、どこへなりと行ってきますよ」
 ついでに誰かさんの護衛も務めようと心の中で思いつつ、オスカーは口を真一文字に結んだ。
 続いてランディが眉尻を下げた顔でアンジェリークへと問いかける。
「陛下はそれでいいんですか? その……俺はてっきり、過去に行きたいのかなって思ってましたけど」
 好奇心が旺盛だった少女の頃を知るランディには、彼女が無理をして我慢しているように見えたのだった。だがそれは杞憂であったとアンジェリークの言葉で理解する。
「うーん……どんな世界だったのかなって気にはなるけど、それよりこっちを何とかするのが先ね。リュカさんが戻ってくるまで守ってあげないと……ただいまって言えるようにね」
 ポピーに守ると約束した手前、アンジェリークは自分の好奇心よりも使命を優先させた。その頼もしい言葉に誇らしげな顔を見せたルヴァが、小さく頷いている。
 ビアンカが少しだけ目を潤ませながら、ゆるりと頬を上げる。
「ありがと、アンジェさん……心強いわ」
 真剣な目つきをしたティミーが母へと視線を向けていた。
「お母さん」
「なあに、ティミー」
「ぼくは向こうに行くよ。お父さんを探してくる」
 ティミーの言葉に唖然とするビアンカへ、ポピーも言葉を続けた。
「わたしも……行きます」
「ええーっ、じゃあわたしがお留守番確定じゃないの!」
 予定が狂い目を丸くさせた母を前に、ティミーは平然と言葉を紡ぐ。
「グランバニアはお母さんがいれば大体間に合うよ。サンチョとピピンもいるんだし、モンスターたちも控えてる。戦力は十分でしょ」
「だからって屋台骨が抜けてどうするのよ……」
 王家の直系として子供たちのどちらかには残って貰おうと考えていたビアンカは、拍子抜けした声を出す。
「魔物さんたちにはわたしから言っておくから、お願い!」
 ポピーの考えでは、守護聖が二つの世界に分かれることで仮に魔物たちの言葉が分からなくなったとしても、アンジェリークさえいれば魔物たちとの意思疎通はできるはずだという算段があった。アンジェリークが過去へと渡るなら、自分がこちらに残るつもりでいたのだった。
「う〜……わたしが探したかったんだけどなぁ〜……。仕方ないわね、分かったわ。ちゃんと連れて帰ってきてよね!」