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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 世間で魔物使いと呼ばれるグランバニアの王リュカにも通じる優しさを感じ取り、バトラーは言葉を失くしたまま微かに笑った。
「んだよ、笑うなって」
 苛ついたそぶりでもう一度舌打ちをしてみせるが、頬が赤らんでいたために照れているのだと丸わかりである。
「いや……慈悲深いと思ったまで。リュカ様やこの国の人間のようだと」
 そしてあの方も優しかった、とバトラーはふと思い出す。
「あん? 普通だろ、こんなの」
 魔族でもないこの若者の赤い瞳と銀髪のせいで、どうしようもなく懐かしく思えてくる。バトラーはその感傷を振り切るようにゆっくりと頭を振り、皮肉気に唇を歪めた。
「……いいや。オレから見た人間とは、無慈悲で、強欲で、愚かしい生き物だった────かつてロザリー様を手に掛けた者たちのように」
「…………!」
 驚愕に目を見開いて、バトラーを凝視するゼフェル。
「おい、なんでそれ知ってんだよ……!」
「なんでも何も、その時代から生きているからだが……」
 きょとんとした顔のバトラーに、ゼフェルは更に質問をぶつける。
「じゃ、じゃああれか? デスピサロってやつも、知ってんのか!?」
 声色に焦りを乗せ今にも掴みかかりそうな勢いのゼフェルに対し、バトラーは先程の穏やかさとは裏腹な冷酷さを顔に浮かべて見下ろしてくる。
「ピサロ様に失礼な口をきくな。客人だからといって、無礼は許さんぞ」
「だぁああ、ンなのどーでもいいっつーの! 今大事なトコだろーがよ! つーか敬称つけてるってことは、やっぱそっちの味方なのかよ」
「当然だろう。あの方は偉大なる魔族の長だったからな……勇者どもに討たれたとも、どこかでひっそりと余生を送ったとも聞いているが、真相は分からん。その前にオレは一度死んでいるからな」
 バトラーは顎髭をさすりながら、何かを思い出している様子で視線を天井へと向けた。
「……おまえらの死生観と価値観ってどーなってんだよ……頭痛くなってきたぜ」
 簡単な話だ、とバトラーは口角を上げる。
「ピサロ様と違いリュカ様は人間だが、決して我々をないがしろにはしない。下賤なゴミどもと同じ扱いはできんのだ」
 バトラーが何やら誇らしげに胸を張ったところで、マーリンが入室してきた。
「もっと言えば、リュカのしつこさに根負けしたんじゃろう? バトラーよ」
 からかい混じりの声音に、バトラーもまた肩を竦めて笑う。
「マーリンか……まあな、同胞たちがうんざりしていたよ。何度も戦いを挑んできたからな、おちおち飯も食っていられんと評判だった」
「おぬしと出会うまでに二千回以上出向いたらしいぞ」
 ルヴァとポピーも続けて入室し、バトラーとマーリンの話を聞いて笑っていた。
 ゼフェルだけは一緒に笑い出すこともなく、真剣な目をマーリンに向ける。
「よぉ爺さん、こいつデスピサロのこと知ってたぜ。どーゆーことだよ」
 マーリンのグレーの瞳がまあるく見開かれ、視線はゼフェルからバトラーへと移った。
「なんと……おぬしと話す機会はほとんどなかったからのう。まさか魔族の長を知っておったとは知らなんだ……」
「知っていたというか、オレはピサロ様配下の四天王だったからな」

 恐るべき告白に、辺りの空気が凍り付いた。
 ゼフェルが仏頂面でガシガシ後頭部を掻き毟っている。
「っか〜、マジで頭痛くなってきたぜ……ルヴァ、なんか薬持ってっか」
「ああ、鎮痛剤ならここにありますよー。一回二錠です」
 懐から小さなピルケースを取り出し、錠剤を手渡す。
「ん、サンキュ」
 ゼフェルが手渡された鎮痛剤を水で流し込んでいる間、マーリンもルヴァに声をかけた。
「……ルヴァ様、すまんがオロバスを出していただけますかな」
 ゼフェルを心配そうに見つめていたルヴァは、少々頓狂な声で答える。
「ええ? あ、はいー、少々お待ちを……オロバス、オロバス起きてくださいー」
 とんとんとオロバスの表紙を軽く叩くと、目玉がぎょろりと動き出して宙に浮かぶ。
「なあにー」
 マーリンはルヴァのほうを向いているオロバスをがしっと掴んで強引に自分のほうを向かせ、問いかけた。
「デスピサロの配下、四天王を教えなさい」
「ええーと……してんのう……あった、これかな。『デスキャッスルを包囲する四つの結界の守護者、アンドレアル、ギガデーモン、ヘルバトラー、エビルプリースト。対デスピサロ戦の前に勇者一行に討たれ、結界が解かれた』……」
 オロバスの説明に、ポピーとマーリンはがくりと肩を落とした。
「なんかすっごい遠回りしちゃった気がします……」
「このヘルバトラーが、おまえだったのか……それならそうと早う言わんか!」
「聞かれてないから言いようがない」
 率直すぎるバトラーの返答に、ゼフェルが呆れたように言い放つ。
「そりゃそーだな」
「まあ……その通りなんじゃがな。はぁ……」
 大きな溜め息の後に気を取り直したマーリンがロビンへと視線を走らせる。
「……して、触手がどうとか言っておったな」
 ゼフェルがマントの上の死骸を指し示す。
「中にこいつが絡まってたぜ。あ、そっちの歯車は動かすなよ、順番分かんなくなったら元通りにできねーかんな」
 ひとつ頷いたマーリンが身を屈めて観察し始めた。
「どれ……ふむう」
 腐臭を気にした様子もなく、マーリンは丁寧に触れていく。
「お爺ちゃま、どう?」
「オレはホイミスライムの触手じゃないかと思うんだが……」
 マーリンはポピーとバトラーの言葉には反応せず黙々と触手を調べ終えると、次に頭を持ち上げて眺めている。どろりと液体が動くものの破れてはいなかった。
 そっと元の位置に戻し、懐から取り出したハンカチで手を拭ったマーリンが、ようやく二人に視線を飛ばした。
「そうじゃの。かなり腐敗が進んでおるから細ってはいるが、触手の数はホイミスライムと同様。頭の色味も黄緑がかっているが、元は青のようじゃの」
 マーリンの言葉に全員が頷き、話は続いた。
「疑問点は三つ。こやつがいつからここにいたのかと言う点がまずひとつ。次に、誰かに閉じこめられていたのか、自ら閉じこもったのかが二つ目。最後は」
 しわがれた声が静かな大会議室に響く。皆が老魔法使いの言葉に耳を澄ませていた。
「何のために、じゃな」
 そう言って表情を少し和らげた彼は一同を見渡す。
「しかし今は過去へ向かうのが先だろう。この件はわしが調べておこう」
 そう言ってマーリンは口を閉ざし、ルヴァをちらりと流し見た。
 視線を受けてこの話が終わったものと理解したルヴァが頷いて見せる。
「そうですねえ、それがいいでしょう。私たちは出立の準備をしましょう……ゼフェルも急いでくださいねー」
「…………」
 ルヴァの言葉にゼフェルは例えようのない表情で床に視線を落とし、じっと考え込んでから口元を引き結ぶ。
 ついと顔を上げたゼフェルが真正面からルヴァを見て、二人の視線がかちりと合った。
「悪ィ、ルヴァ。オレはこっちに残る」
「ええっ?」
 的に向け矢を放つような強い視線とはっきり決意のこもった声色に、ルヴァは驚きを隠せない。