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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 詩人は空色の瞳をまあるく見開いたが、それはどちらかと言えば恐れよりも興味津々といった顔つきになっていた。
「……動物じゃ、ないんですね」
 ぽつりと放たれた詩人の言葉に、それまでじっと会話を聞いていたピエールがぱちりと目を開け、主の外套を強く掴んだ。
 リュカの腕にはピエールの緊張がありありと伝わってくる。身を強張らせ、顔の片面を外套に埋めるようにしながらも横目で詩人をはっきりと睨んでいた。
「リュカ様……離れてください、この人間は何か……なにか、変です」
 ピエールが魔界の言葉で告げた内容は普通の人間には聞き取れず、リュカとプックルにだけ分かる筈だった────が、目の前にいる人間の顔色が明らかに変わったのを切っ掛けに、リュカの顔からも笑みが消えた。
 敵か味方かすら分からない状況下である。警戒心を露わにしたリュカはピエールを守ろうと更に深く抱え込み、じりじりと間合いを取った。
 詩人は身を乗り出すようにしてピエールを見ようとしていたが、リュカがそうさせまいとしたために諦めてしょんぼりと肩を落とし、代わりに質問を投げかけてきた。
「その子も、人間じゃ、ない……んですよね?」
「……」
 夕暮れ時で人気がまばらとは言え、街中である。
 リュカは詩人の問いを無視して歩き出した。
「わっ、私は敵じゃないです。信じていただけるか分かりませんけど、元ホイミスライムなんです」
 詩人の思いがけない暴露が背中越しに聞こえ、ぴたりと足を止めた。
「…………今なんて言いました?」
 冗談にしては滑り過ぎて面白くないとリュカは内心毒づいていたが、顔と言葉に出さぬよう注意して聞き返した。
 外套に包まれ埋もれているピエールが呟きを漏らす。
「元ホイミスライム……?」
 ピエールの呟きを聞き付けたプックルがちらとリュカを流し見て、それから詩人に話しかけた。
「詩人サンよ」
「は、はい?」
「おれたちの言葉は分かっているんだよな」
 プックルの言葉にこくりと頷きを返した詩人へ、更に質問は続いた。
「この世界にも、どこかにエルヘブンの民がいるのか?」
「エル……ヘブン?」
 詩人は言葉の真意を計りかねたのか、小首を傾げて戸惑っている。
「……違うなら、アンタはどうやって人の姿を手に入れたんだ」
 帰宅途中の女性が一人、怪訝な顔をして横を通り過ぎていく。傍目にはうにゃうにゃと奇妙な鳴き声を上げる大きなヒョウと独り言を言う吟遊詩人をちらりと流し見て、彼女は歩く速度を速めた。
 この状況は拙いと判断したリュカが間に割って入る。
「プックル、場所を変えよう……本当にぼくたちに危害を加える気はないんですよね?」
 尤も、危害を加えられたところで早々負ける気もない────それなりに含みを持たせた言い方をしたリュカだったが、言われた当人はぱっと明るい表情に切り替わり、満面の笑みで幾度も頷いている。
「あなたの仰っている話が本当なら、続きはもう一匹と合流してからお話しましょう。着いてきてください」

 リュカたちはそのまま街を出て、近くの雑木林へと移動した。
 茂みに向かってピエールが口笛を吹き鳴らすと、奥からがさがさと音を立てて彼の相棒の大型スライム、ディディが姿を現した。
 ディディに向かって抱き着くような形でピエールが飛び乗り、ぷよぷよしたスライムの肌に頬を寄せて小声で話しかけている。
 宿屋にいた間、ディディの面倒を見ていたのはリュカだった。ピエールの容体なども細かく伝えていたが、実際に姿を見て安心した様子にリュカもまた嬉しそうに目を細めている。
「プックルやぼくより冷たいから気持ちいいんだろ、ピエール」
 顔色の赤みが引き、幾分か持ち直したピエールを軽く茶化しながら、リュカの視線は元魔物だという詩人へと注がれる。
「うわああっ、おっきいスライムですね!」
 全く動じずに目を輝かせている詩人へ、ディディの上で大の字になっていたピエールが顔を上げて問いかけた。
「怖くはないんですか」
「はい、ちっとも! 先程も言った通り、私自身がホイミスライムでしたし……古い友人にね、ベホマスライムのベホマンと、ベホイミスライムのベホイミンがいるんです。なかなか会う機会もないんですけど」
 ピエールに断りを入れてから、詩人はそろりとディディに触れた。どこか懐かしげに撫でる手つきや慈愛に満ちた優しいまなざしを見て、ピエールが押し黙る。
 プックルが尻尾をぶんと下向きに振り、リュカに忠告する。
「リュカ、ピエールが丸め込まれてるぞ。こいつスライム好きに悪いやつはいないってクチだからな」
「流石にディディを見たら態度変わるかなって思ったんだけど、杞憂だったみたいだねー」
「それにしたってなあ……魔物を人間にするなんて、おまえの母親ぐらいしか知らないぞ、おれ」
 リュカとプックルの会話を聞き、詩人は長い睫毛をそっと伏せて話し出す。
「私は……魔物に襲われて一度死んだんです。それでお爺さんからの質問に答えたら、雷に打たれて……気付けばこの姿に」
 小さく頷きながら話に聞き入るリュカたち。それぞれがジャハンナでマーサに人間にして貰ったと言う住人たちの姿を思い返していた。
「それにしても、あなたは本当に凄いんですね。なんだか私の尊敬する方に少し似てます」
 興味が湧いたらしいリュカの片眉がくっと上がり、視線で促された詩人は言葉を続けた。
「人間になりたいって願いを持っていただけの……ただのホイミスライムだった私を、友と呼んでくださった優しい方なんです。少しの間、一緒に旅をしました……」
 ピエールとプックルが顔を見合わせ、それから二匹はリュカへと視線を向けた。
 穏やかな口調にはどこか寂しさの陰が付きまとう。物憂げな詩人へ、リュカがふと思いついた言葉を口にする。
「…………ホイミン」
「はいっ!? って、あれっ? 私、名乗りましたっけ……?」
 それまでじっと注意深く様子を窺っていたリュカの表情が、そこでふっと和らいだ。
「いや、うちにもホイミスライムがいるんだ。そいつの名前がホイミンだから、もしかしたらって試しに呼んでみただけだよ。……当たり?」
「あ、当たり……です。名乗りもせずに失礼しました……私はホイミンと言います」
「気にしなくていいよ。ぼくはリュカ、こっちがピエール、そっちがプックル。よろしく」
 リュカは二匹を紹介してからすいと手を差し出す。詩人ホイミンは照れ臭そうにはにかみ、握手を交わした。
「そちらのホイミンさんは、今日はいらっしゃらないんですか?」
「あー、うん。城で留守番してるよ。実はぼくたち、今の時代よりもっと後の時代から来てるんだ」
 一瞬の間を置いてから、目を皿のようにして驚くホイミン。
「……!? ど、どういうことですか」
「ぼくたちのいる時代で伝染病が流行っててさ。調べたらパデキアって薬草がこの時代にあるって分かったから、まぁ色々あって今ここ」
 ぽかんと面食らっていたホイミンが、視線を魔物たちへと移動させて合点のいった顔で頷いた。
「だから、ピエールさんとプックルさんは見たことのないお姿なんですね」