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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「サントハイムの王女様も、勇者様と旅をしていたんですよ。なので、皆さんこの世界の救世主なんです」
「王女に姉妹か……全員女性なんだなあ」
 リュカの言葉にどこか誇らしげなホイミンの横顔を見上げながら、プックルが更なる疑問を口にした。
「勇者なあ。てことはアレか、ビアンカやティミーのご先祖サンかな」
「ご先祖……?」
 小首を傾げたホイミンへ、ピエールがいち早く補足の説明を入れる。
「ご子息のティミー様と奥方のビアンカ様は天空の勇者の末裔です。リュカ様は唯一無二の魔物使いですが、勇者の父君でもあります」
 リュカが声を出すよりも早く告げられた内容と得意げな彼の表情に、当のリュカは照れ臭そうに笑ってピエールを窘める。片やホイミンは、驚愕の眼差しでリュカを見ている。
「勇者って、もしかしてソロ様のっ……!?」
 声に出してから、ホイミンははっとした顔で口をつぐむ。
「ふうん、ビアンカのご先祖様はソロって名前なのか〜。勇者ってこの時代でも一人だけなんだよね?」
 バツの悪そうなそぶりで恐る恐るリュカを見上げたホイミンが、声のトーンを落として嘆願する。
「は、はい……あの、できるだけ内密にお願いできますか。ソロ様は勇者と呼ばれるのを毛嫌いなさってて、人に所在を尋ねられることもお嫌だったようですので……」
 リュカは気の毒そうな顔つきを見せて小さく頷く。
「……そうだろうね。うちの子も勇者だからって特別視されるの、ちょっと嫌がってた時期があったよ。君は勇者と会ったことがあるんだね」
「はい。平和になって間もない頃、ブランカでソロ様と偶然お会いしたことがありました。ほんの僅かな時間お声をかけただけでしたのに、私の顔を覚えていてくださいまして」
 キングレオ城で初めて見かけたとき、彼は少年から青年へと移り変わる年頃だったにも関わらず、随分とオーラのある方だった────とホイミンは記憶を辿る。
「こっちにいる間に会えたらいいなあ」
 そんなリュカの呟きに、にこりと口角を上げてホイミンが頷く。
「ソロ様と、末裔勇者様の父君ですものね……お二人のご対面なら私も見てみたいです。奥様は勇者ではなかったんですか」
 観光船とおぼしき大型の客船が、月明かりに淡く照らされた海路を行く。船上は華やかな明かりが灯され賑わいを見せているようだ。
 とぼとぼと歩きながらそちらへぼんやり視線を向けていたリュカが、穏やかな笑みを浮かべて口を開く。
「うん。勇者は奥さん側の天空の血筋と、ぼく側のエルヘブンの血筋と混ざらないと生まれなかったって話だよ。ぼくらの時代では天空人側の血筋がかなり薄くなってるってことだろうね」
「先程から気になっていたんですけど、そのエルヘブンというのは、地名なんですか」
「エルヘブンはぼくの母方の故郷でね、グランバニアは父方の国なんだ。あんまり詳しいことはぼくにも分からないんだけど、母に関して言えば魔物の邪気を払って人間にしたり、魔界と人間界の門を開閉したりする能力があった」
 未来では人とそれ以外の者が門を隔てて棲み分けをしているらしい────と何となく理解したホイミンが、ほうと溜め息を漏らした。
「魔物の邪気を……それは凄い」
 ディディにしがみついていたピエールがぴくりと顔を上げ、ホイミンの感嘆の声に重なるようにして会話に割り込んできた。
「……リュカ様、西から魔物の気配がいたします」
 リュカが耳を澄ませると、ピエールの言葉通りに遠くから金属がぶつかる音が複数近づいてきている。風が運んできた匂いに、プックルが鼻をひくつかせた。
「嗅いだことのある匂いだな…………さまよう鎧か」
 プックルの小声にリュカは頷きを返し、すぐに指示を出した。
「ピエールとプックルは後方待機。まずはぼくが行く────ホイミンはピエールの側にいて」
「お任せください!」
 きりりと表情を引き締めているものの、どこかウキウキとした様子のホイミンがピエールの側へと歩み寄る。
 戦力外通告されたピエールが慌ててディディから飛び降りて、リュカへ直談判し始めた。
「わ、私も戦えます……!」
「何言ってるの、だめだよ」
 にべもなく言い切り、外套を掴んで訴えるピエールを抱え上げて再びディディの上に座らせると、両肩に手を置いて言い含める。
「パデキアで完治したらいっぱい頑張って貰うから、今は安静にしてなさい」
 取りつく島のない様子を見て取り、ピエールはそろりと手を放して項垂れた。
「…………承知しました」
 あからさまに落ち込むピエールにリュカは少しだけ途方に暮れて、彼の兜を撫でて慰める。
「何かあったら回復は任せるから、そんなに落ち込むなよ」
 兜の奥の青い瞳が丸く見開かれた。主を気遣わせてしまったことに気付いたピエールが慌てて頭を下げた。
「失礼しました……私は大丈夫です。どうぞお気をつけて」
「ん、行ってくる。すぐ戻るよ」
 くるりと踵を返したリュカへ、今度はホイミンが心配そうに声をかける。
「さまよう鎧はここらでは強敵ですよ」
 背中へ投げかけられた不安げな声にリュカは目線だけ振り返り、不敵に笑って言い放つ。
「こう言っちゃ悪いけど、ぼくの敵じゃないね」
 すごろく場で単身戦う方が色々な意味で何倍もしんどかった────などと思いながら、さまよう鎧の動向を窺う。
「よし、見えてきたな……対話できそうなら話してみるか」
 勇者一行の働きで平和になったというホイミンの話通り、こちらの世界では魔物たちの数自体とても少ない。それは魔物たちの邪気を高めるような存在がいないことの表れでもある。
 さまよう鎧たちは人間や馬の通り道を避け、草原の中をゆっくりと移動していた。
 リュカはそちらへ向け草原へと足を踏み入れていく。順調に近づいていくものの、彼らからの敵意を感じることもない。
 やがてリュカの存在に気付いた鎧の一人が、仲間に話しかけていた。
「……人間が来るぞ」
 他の鎧たちも一斉にリュカへと視線を向けた。
「おお、本当だ。こちらに向かっているな」
「道にでも迷ったのか」
「そんな馬鹿な。一本道なのに」
 不審な人間の動きに多少警戒した様子で遠ざかる彼らを早足で追い掛け、声をかけた。
「あのー、すみません」
 リュカに話しかけられた鎧が、ぴたりと足を止めた。
「……なんだい兄ちゃん」
 怖がりもせず武器を構えない人間に戸惑いながらも、全員が足を止めて耳を傾ける。
「アネイルから来たんですけど、次の町は近いですか」
「ああ、そっちに道があっただろ。あれ下っていけばすぐ港町だよ」
 穏やかな声色の彼らに一安心して、リュカはにこりと笑みを浮かべた。
「そうですか、どうもありがとう」
 通り過ぎていく鎧たちを見送る間際、彼らの会話が聞こえてくる。
「変なやつだなあ。俺たちの言葉が分かってるみたいだぞ」
「なんか獣臭いしなぁ……魔族かねえ」
「魔族なんだろうよ。最近は結構な数が人間の姿で生活してるって話だからな」
 月の光を受けて鈍色に光る鎧たちは、がやがやと喋りながら去っていった。

 顎の無精ひげをさすりながら、考え込んだ様子で戻ってきたリュカ。
「なんだ、すっかり拍子抜けしてやがるな」