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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 駆け足で進むと、反射光の正体が明らかになってきた。
 砂漠で戦ったサソリの上位種と思われるメタルスライム色のサソリが、群れを成して威嚇のポーズを取っている。
 ピエールは前方の人々に視線を走らせる。ほとんどが武器を持っている様子もなく、荷台を押す者、両手に荷物を持った者ばかりだった。避けて通るか、来た道を引き返すかの選択をするべき事態だったが、商人と思しき人々は眼前の危機に気付いてもいない。
(……仕方がない、片付けるか)
 兜の内側は汗で蒸れ、額から滝のように溢れた汗が顎へと流れていく。発熱による消耗が酷く、一匹ずつ相手をするよりも呪文で決着をつけようと意識を切り替える。
「ディディ、一気に行くぞ!」
 猛スピードで駆けるディディと呼吸を合わせながら、メタルスコーピオンの群れへ向けて呪文の詠唱を始めた。
 最前列の人々に追いつく時間を逆算して早詠みに切り替え、追い付いたと同時に呑気な彼らへ向けて大声を張り上げる。
「皆さん!」
 大声に驚いて振り返った人々が、見慣れない大きなスライムに乗った騎士を見た。
「向こうに敵がいます、伏せてください!!」
 言われて初めて道の先に蠢く魔物の群れに気付いた最初の商人が、叫びをあげて荷台の影に身を潜める。それに倣うように他の人間も次々と身を伏せた。
 ピエールはぐっと前傾姿勢になり、右膝をディディに押し当てる。ディディのてっぺんを左の膝裏と右の膝で強く挟むような形でバランスを取った矢先、ディディが大きく跳ね上がった。スライムの弾力を使い更に高く跳躍したピエールが上空からイオラを放つ。
 メタルスコーピオンの頭上で圧縮された大気が大きな爆発を引き起こし、鼓膜を震わせるほどの爆音と共に、彼らは粉々に砕け散った。
 ディディが放物線を描いて落ちてきた主を受け止め、ピエールは真っ先に人々のもとへ行く。
 甲殻の破片が当たっていないか一人一人に声をかけていたピエールへ、リュカが後方から労いの言葉をかける。
「お疲れ〜。もうミントスが見えてきたよ」
 そう言って微笑んだリュカが治癒呪文ベホマを唱え、よしよしと頭を撫でた。

 無事にミントスへと到着し、リュカは素朴な雰囲気の街並みをざっと見回した。
「宿屋はあれだね。大きな宿だなー」
 すぐに宿屋へ向かって歩き出したリュカを、ピエールは慌てて引き留める。
「お待ちください、リュカ様……あの、私の着替えはどういたしましょう」
 ピエールの言葉に足を止めたリュカが振り返り、ふむと片眉を上げてピエールを見下ろした。
「……そのままで行ってみよう」
「えっ」
 青い瞳を丸く見開いて聞き返すピエールをよそに、リュカは自信ありげに口の端を上げている。
「だめだったら着替えればいいさ。今朝だって何も言われてなかったろ」
「ですが……ディディが」
 大型だがスライムと一目で分かるため、危害を加えられないかと心配そうにディディを見つめるピエールへ、ホイミンがフォローの言葉を投げかけた。
「平和になって暫く経ちましたから、以前ほど疎まれてはいませんよ」
「ね、大丈夫だからぼくに任せて。君だって相棒と一緒のほうが気が楽だろうし、何かあったときにすぐ逃げられるからな」
 主の決めたことだからと渋々頷いたピエールだったが、リュカは宣言通りディディとプックルについて大人しいペットだと堂々言い張り、全員一緒に宿泊できたのだった。

 午睡にちょうどいい時刻になり、一行は二階の東側の部屋に荷物を下ろした。
 室内はよく手入れされていて清潔感もあり、居心地の良さそうな空間となっている。寝台は二つあり、簡易寝台は後で用意してくれるとのことだった。
 ピエールを部屋着に着替えさせている間、リュカは休む間もなく持参する物を袋に纏め直し、口をぎゅっと結んで肩に担ぎ上げた。
「よし、ぼくとプックルは早速ソレッタへ向かう」
 ふにゃおん、とプックルの間延びした返事が聞こえる。
 部屋着のズボンを履いたところで、ピエールは慌てて着替え直そうとする。
「リュカ様、それなら私もっ……」
 予想通り後を追おうとするピエールにきっぱりと言い渡す。
「君はダメ。ここでホイミンとお留守番」
「いやです……!」
「嫌じゃない、命令だ」
 それでも頑なに頭を振り続けるピエールに、リュカは笑みの消えた目をすいと細めた。
「……ぼくの言うことが聞けないって?」
 リュカの片手がピエールの顎にかかり、ぎゅうと頬を挟んだ。
 中指と親指がピエールの両の頬に強くめり込み、今にも首を絞められそうなほどの鋭い視線を向けられたピエールは、微かに身を震わせた。
 元来従順で忠実な気質のピエールが、こうして怒られた経験はほとんどないに等しい。
 二人の様子を見かねたプックルが仲裁に入る。
「リュカ、もうそれくらいにしとけって」
 プックルの言葉で我に返ったリュカが、そっとピエールから手を離した。
「君の仕事は体を治すことだ。すぐにパデキアを持ってくるから、それまで我慢して」
 主に怒られたショックですっかり項垂れてしまったピエールの両肩に手を置き、リュカはこつりと額を合わせて目を閉じた。
「もう誰も失いたくないんだ。分かってくれよ……」
 リュカの祈るような声色に、ピエールはすんと鼻を鳴らす。
 ゆっくり目を開けると、濡れた睫毛に縁取られた青い目がこちらを見つめている。
「我儘を言って申し訳ございませんでした。行ってらっしゃいませ」
 いつもの分別を取り戻した騎士の黒髪を片手でかき上げて、リュカは白い額に口付ける。わざと子供扱いをして膨れっ面を拝もうとしたものの、彼は寂しそうに小さく笑うだけだった。
 緩い曲線を描く柔らかな髪を鳥の巣よろしくぐしゃぐしゃに崩して、それから彼の手に小袋をそっと置いた。
「……行ってくる。この袋に薬草とか入れておいたから、状況を見て使うんだよ。ホイミンも、悪いけどちょっとついててやって」
「分かりました。気を付けて行ってきてくださいね」
 リュカとプックルが部屋を出て行くまで、ピエールは扉へ向けて正座をし深々と頭を下げ続けていた。

 ミントスを出たリュカとプックルは険しい岩山の麓にソレッタが見えてくると聞き、進路を南西に向かう。
 こちらもそこそこ人が行き交っているようで、轍の後を追うことができた。
 リュカを背に乗せたプックルが黙々と走る。石灰岩がぽつぽつと点在する草原を抜けて、緩やかな傾斜を上っていく。小高い丘を下ると僅かな森林地帯に突入し、再び草原に出た。
 西に傾いた陽の光がチゾットの山脈のような岩肌を照らし出している。その麓に小さな集落が見え、リュカは安堵の溜め息をついた。
「あれかな」
「他にそれらしい道もねえし、行ってみようぜ。もう日が暮れちまうし」
 南側にうっすらとけもの道ができていたが、交易とは無関係な何かがあるのだろうと考えた。
「そうだね。じゃあもうひとっ走り頼む、重いのにごめんな」
「おまえ一人くらいどうってことないさ。行くぞ」
 得意げな声でそう話すと、プックルは再び軽やかに走り出した。