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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「このまま手ぶらで帰っても、一つ懸念があるんだよ」
 話の意図が掴めない様子で、プックルが小さく唸る。
「……ピエールね、苦いのダメなんだ」
 プックルの尻尾がだらんと下がった。
「…………初耳だぞ」
「本人隠してるからね。多分すんなりと飲んではくれないと思うから、奥の手を用意しておこうと思ってさ」
「子供じみてるのは見た目だけじゃねえんだな……」
「ぼくが子供扱いするの、分かったろ?」
「お、おう……」
 温泉の近くに出ていた屋台で買い物を済ませ、再びルーラを唱えた。

「ただいまー」
 リュカが何気なく扉を開けた瞬間、ピエールがすっ飛んできた。
 早くから足音に気付いて待機していたと思われる動きの速さに、リュカは苦笑を禁じ得ない。
「お帰りなさいませ……!」
「こら、寝てなさい。パデキアの根っこと種、貰えたよ」
 担いでいた麻袋を床に下ろし、宿の人間に借りたすり鉢は丸テーブルに置いた。肌に丘疹は残るものの青白さが少し薄れ元気そうなピエールに、リュカはほっと胸を撫で下ろした。
「ご無事の帰還、安心いたしました。これで元の世界に戻れますね」
「結構早かったろ? 早速擦り下ろすから、ピエールは寝台に戻ってて」
 ピエールははいと返事をしてすぐに寝台に上がり、いそいそと横になった。
「ホイミンも付き添ってくれてありがとう。無理言ってごめんね」
 空色の瞳をぱちくりと瞬かせ、ホイミンは頭を振って答えた。
「いえ、お構いなく。とても楽しかったので、名残惜しいくらいです」
 リュカは一口大に切ったパデキアの根っこをすり鉢に入れ、すりこぎ棒で大まかに叩いて潰し始めた。ある程度潰れたところで擦りながら少しずつ水を注ぎ入れ、ペースト状になるまで擦り混ぜた。完成したペーストへ無造作にスプーンを突っ込んで、リュカはピエールの元へと歩み寄る。
「はい、できたよ。飲んで」
 ピエールはすり鉢を受け取ってすぐに鼻を近づけ、くんくんと臭いを嗅いだ。
 見た目は完全に泥である。意を決して口に運ぶが、少し舐めただけで鼻を衝くすさまじい匂いと苦味に耐え切れず、スプーンを持つ手をそうっと下ろした。
「あ……あとで、いただきます……」
 ほら来た────とリュカは内心思いながら、警戒させないように気を配る。
「ん。薬効はしばらくあるらしいから、後で飲んでね。ぼくは体拭いてくる」

 そしてリュカが言葉通りに湯を絞った布で体の汚れを落としている間も、ピエールはスプーンを持っては離しを繰り返していた。
「ピエール、お薬飲めた?」
「いえ、あの……まだもうちょっと……」
 そろそろ怒られるだろうか、と少し上目遣いにリュカを見る。目が合うとリュカはにこりと微笑んで頷く。
「早めにね。ちょっと休むよ、昨日の宿屋ほんと酷くてさー……プックルもこっちおいで」
 そう言ってリュカは隣の寝台にごろりと寝そべり、呼ばれて飛び乗ってきたプックルに体を寄せると間もなく寝息を立て始めた。
 静かな部屋に小さな寝息だけが響く中、ピエールはとても嫌そうにすり鉢の中のパデキアを見つめた。

 それから半刻ほど経過しただろうか、ぱちりと目を開けたリュカが体を起こし、首を回して関節を鳴らす。
 恐らくパデキアは手つかずだろうと思いながら、ピエールへと視線を流した。
「パデキア飲めたかな?」
 ピエールはバツの悪そうな顔で問いかけに答える。
「…………申し訳ございません、まだ」
 そろそろ実行するべきだと判断したリュカが、袋から包みを取り出してピエールの寝台へと腰を下ろした。
「はい、これ。お土産だよ」
 ピエールの手からすり鉢を取り上げて、代わりに包みを手渡した。
「わ、私に?」
 ピエールは困惑した表情で包みに目を落とし、それからリュカを見上げた。
「そうだよ。開けてごらん、食べていいから」
 ひょいとピエールを抱き上げて、右の太腿の上に内向きで座らせる。
 促されてがさがさと包みを開けた瞬間甘い香りが鼻先を掠め、ピエールの目が見開かれていく。
「これは……!?」
 好物の焼き菓子の詰め合わせを前に、ピエールはごくりと生唾を飲み込んでいる。
 口を真一文字に閉じたリュカがにっこり頷いて見せると、ピエールは思い切り破顔して頷きを返した。
 そんなピエールに申し訳なく思いながらも、リュカは心を鬼にする。
 ピエールが喜び勇んで菓子を口に入れようとした瞬間、リュカの手が彼の頬を押さえ、顔を近づけた。
「…………!!?」
 間髪容れずぬるりと舌が割り込んでくる。口を閉じようにも主の舌を噛むわけにはいかず、ピエールはそのまま身を強張らせるしかできなかった。
 やがて少しずつ苦い液体が口移しされてきて、ピエールは口中に広がる酷い味から逃れようと暴れ始めた。が、両腕をリュカに抑え込まれて動きを封じられた上に、後頭部もガッチリと掴まれている。
「んーっ……んぅ……!」
 余りの苦みに嫌がるものの、唇を解放して貰えないため吐き出すことも叶わない。
 とんと後頭部をはたかれる。飲み込めと合図しているようだった。
 一口も飲み込めないまま何とかリュカの舌を押し返そうとすると、リュカが顔の角度を変えてより一層深く舌を入れてきて、遂にピエールの鼻をつまんだ。
(い、息が! 息ができない……!!)
 もう一度とんと後頭部をはたかれた。
 とうとう息苦しさに負けてごくりと飲み下すと、今度は労うように後頭部を優しく撫でられ、すぐに鼻は自由になった。
 呼吸を整えていてもまだ唇はぴったりと重ねられたままで、リュカが口腔内を隅々まで調べ上げる────飲んだ振りをしていないかの確認だ。
 舌の裏側や上顎をなぞられ伝わる未知の感覚に、ピエールの声が微かに漏れる。
 きちんとパデキアが飲み込まれたと確認できたところで、ようやく唇が解放された。
「はっ……はぁっ……」
 突然の出来事にすっかり息を乱し涙目のピエールに対し、リュカは平然と唇を舐めて笑っている。
「ははっ、にっがいね……頑張って飲めたな、偉い偉い」
 想定外の事態にかたかたと震え固まっているピエールをぎゅうと抱き締めて、柔らかな髪を梳いて落ち着かせた。
 ホイミンの近くで寝そべっていたプックルが顔を上げて話し出す。
「リュカ」
「んー?」
「おまえ、いたいけな男児に手ェ出す変態に見えるぞ。ホイミンがビックリしてんじゃねーか」
 心外だと言いたげにきゅっと眉根を寄せたリュカが言い返す。
「ええー? だってピエールお薬全然飲まないしさ、こうするしかないでしょ。変態呼ばわりは酷いなぁ」
 その会話の最中、ピエールは舌を出して自分の指でなぞっては不思議そうな顔つきをしていた。
 とぼけた猫のような見た目に気づき、リュカがツッコミを入れる。
「……ベロ出てるよ、ピエール。何してるの」
「変れす。自分ろ指れ触っれもらんえもらいおい、さっきは違いまひら」
「ごめんちょっと何言ってるか分かんないけど、さっきの気持ち良かったってこと?」
 真面目な顔でこくりと頷くピエールにリュカはふむと考え込んで、それからにやりと笑う。
「よーし分かった、じゃあここからは快気祝いってことで。……そのままでね」