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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 ホイミンは目の前で繰り広げられる光景に耐えきれず、頬の紅潮を両手で隠しそっと背を向けた。

「……プックル、私は新しい発見をしました」
 青い瞳を輝かせたピエールが、プックルの背中を軽くゆすりながら話し始める。
「あん?」
「ベロ同士が擦れ合うと、とてもくすぐったいんです!」
「……………………そりゃ良かったな」
 興奮気味にまくしたてる騎士を呆れたように見つめ、プックルはどうにか言葉を絞り出す。
「あと、吸われながらちょっと噛まれるのも変な感じがしました!」
 背後で会話が聞こえていたリュカがげふっと咽込んでいる。
「それ聞かせておれに何て言って欲しいんだよ……知るかそんなもん……」
 ばしばしと激しく床を叩き回る尻尾が、彼の苛立ちを最大限に表している。
「ビアンカ様が度々腰砕けになっていた理由が明らかになったんですよ! あんな超絶技巧を食らってしまったら、道理でか弱き女性の身が無事では済まない筈だ。やはりリュカ様は唯一無二のお方なんだな!」
 ひたすら斜め上に感動しているピエールを無視して、プックルはこれ以上構っていられるか馬鹿馬鹿しい、とふて寝を決めこんだ。

 ひとまずピエールの容態確認のため、もう一泊すると決めたその夜。
 ホイミンがピエールの背中を丁寧に拭いていた。
 体一面に広がっていた丘疹はすっかり痕跡を消し、顔色も良くなっている。
 ふと左の脇腹から腰にかけての古い傷跡が目につき、ホイミンは何気なく問いかけた。
「そこ、大きな傷ですね」
「ああ、はい。名誉の負傷です」
 ピエールの言葉に、リュカのまなざしが曇る。
「……まだ治す気ないの、それ」
 前面は自分で拭けるからと布を受け取り、首周りを拭き始めたピエールが頷きを返す。
「治しません。これはリュカ様を見送った後にも残る、大切な形見代わりですから」
 むっすりと不服そうな顔で頬杖をついたリュカが言葉を返す。
「そんな御大層なもんじゃないだろ。ぼくが斬った場所なんだからさ」
 話の内容に衝撃を受け、ホイミンの動きがぴたりと止まった。
「……リュカさんが?」
「そうだよ、ぼくがザックリやっちゃったの。治すって言ってもちっとも聞いてくれない」
 治癒呪文で傷跡もある程度治せるが、それには当人の意思が要る。治癒の必要がないと判断していれば効果は打ち消されてしまい、誰にも治すことは不可能だ。
 ピエールは心なしか陶然としたまなざしになり、傷跡を右手でさする。
「あの一件で、リュカ様の一番の騎士になると決めたんです。ですからこれは決意の証でもある……」
 言い掛けて、何かを思い出したように顔を上げた。
「そういえば、リュカ様。あのときいただいたパンツがですね、もう履けなくなってしまいました」
「パンツて」
 プックルのツッコミを無視してリュカが答える。
「むしろまだ持ってたことに驚いてるよ……じゃあ明日新しいの買おうか」
「いえ、そこの洗い替えのがいいです」
「またお下がりにする気? 馬鹿言うなよ、前は貧乏旅だったからやむなくだっただけだよ。城に戻ったらもっといい布で作ってあげるから、暫く買ったので我慢しよう?」
 リュカの提案にもふるふると首を横に振る。
「……分かったよ。じゃあ明日ぼくのを新調するから、君のは当分これね!」
 明日の着替え分に出しておいた青い下着を、ピエール目掛けて放り投げた。
 ピエールはすぐに手にしたそれに着替え始めた。リュカの下着は太腿の中ほどまである丈の長いものを愛用しているが、腰回りは紐で絞れば問題なく、小柄なピエールが履くと見た目にはひざ下丈のズボンである。
「リュカ様、太腿周りも丁度良いです!」
 履き心地を何度か確かめるように足踏みをしてから小さく飛び跳ね、喜色満面の笑みを咲かせた。
 自分のお下がりを欲しがる心境に理解が追い付かず複雑な表情をしていたリュカも、ピエールの余りの喜びように絆される形で眉尻を下げた。
「ピエールは特に太腿の筋肉凄いもんなぁ……あぁ、それでか」
 リュカもピエールも旅の初めの頃より筋肉がつき、体が一回り大きくなっている。その事実に気が付き、太腿の辺りで引っ掛かって履けないのだと合点がいった。
「ホイミン殿、見てください。私の新しい寝巻です、家宝が増えました!」
 上機嫌に目を細めてホイミンに見せびらかし、ホイミンもまた良かったですねと顔を綻ばせていた。
 相棒と共に跳ね回る騎士を眺めながら、プックルがちょいちょいと前足でリュカをつつき、口を開いた。
「リュカ……おれにはあいつが段々五歳児に見えてきてるんだが……」
「一応サンチョの倍くらいらしいよ」
「嘘だろ……」

「さて、と……そろそろ寝るよー、ピエール」
 ごろりと横になったリュカが自分の横をぽんぽんと叩き、慣れた様子でピエールが隣に滑り込む。
 阿吽の呼吸とも言うべきごく自然な流れに、ホイミンは狼狽したように妙な瞬きをした。
 先程の件もあり、この二人の関係が単なる主従ではないような気がして、どう解釈していいのか内心困っていた。
 ホイミンのそんな葛藤など知る由もなく、ピエールはいつもの穏やかな声で主に挨拶をしている。
「お休みなさいませ。良い夢を見られますよう……」
「また明日ね。おやすみ」
 目を閉じてものの数秒で、すうすうと寝息が聞こえ始めた────ピエールの寝息である。
 リュカはそれを確認してからするりと寝台を抜け出し、本を読んでいたホイミンの元へ近づく。
「……ちょっと屋上行かない?」

 外は静かな闇に包まれて、数多の星々が競うように輝きをちらつかせている。夜風はほとんどなく、無風に近い。
 屋上に置かれた椅子に二人は腰掛け、リュカが話を切り出した。
「やー、ごめんね。色々驚いたろ?」
 ホイミンは困惑気味に笑顔を作り、曖昧に頷く。
「そう……ですね。随分と親密そうでしたので……」
「ピエールの腹の傷はね、ぼくがやっちゃったんだけど……それで服をダメにしちゃってさ。下着はそのときに、とりあえず履いてくれって渡したものさ」
「そうだったんですか……」
「ぼくね、誰かの体温がないと眠れないんだ」
 突然話が変わり、ホイミンは彼の言葉を理解すべく脳内で反芻した。
「ピエールが仲間になった頃は、人間の仲間と別れたばかりで……宿では一人で毎晩うなされててね」
 奴隷時代に雑魚寝で育ち、寒さを凌ぐために常に誰か────殆どはヘンリーとくっついて眠った記憶を思い出し、リュカは知らず知らずのうちに両腕を固く組んだ。
「心配して様子を見に来てくれたピエールをね、誤って殺しかけた。それがあの傷」
 改めて淡々と明かされた内容に、ホイミンは二の句が告げられない。
 夢の中であちこちから伸びてくる無数の手を払い除けたつもりで、正気に返ったときには既に遅かった。血塗れでうずくまる小さな騎士を前に、自分の罪深さを悔いた。
「野宿のときは皆がいるから何ともなかった。でも宿で一人だと悪夢を見るから、それからずっと結婚するまではああやって添い寝してくれてね。今は奥さんと子供たちがいるから、普段はそっちと一緒」