星の糸 もう一人のウルトラマンACE (1)
「そんな…ヤハウェ星の民はどうなってもいいと言うのですか?メシアを待望して待っているヤハウェ星人たちの気持ちはどうでもよいと?僕と南さんが心を一つにしなければヤハウェ星から出る悪は一掃されないんですよ。あなたは預言など作り事だと言いたいようだが僕らヤハウェ星人はヤハウェの神の実在を信じているし、預言は予言ではなく神の意志の啓示ですよ。それは神が人間に与えた警告であり希望です。現に預言は確実にヤハウェ星の歴史を物語っているのです。恋に盲目になっているあなた方の気持ちは分かりますが、それはあまりに自分勝手ではないですか?それが正義のヒーローとして許されるんですか?もしもあなたがウルトラマンエースとして誇りを持って使命を全うしようとしているなら恋に盲目になっている場合ではない。愛ではなく正義こそあなたが大切にすべき理念だ。ウルトラマンエースだってそう望んでいるはずです。…こんなことは言いたくありませんがあなた方は愛し合ってはいけないお二人だったんですよ」
バシッという音と共に小鳥遊涼平はバランスを崩して崩れ落ちた。
「…お前に夕子が今までどんな思いで生きてきたか分かるのかよ。生まれながらの王子のお前には分からないだろうが、人の幸福を軽々しく踏みにじるなんて俺には許せない。それもヤハウェ星人たちの悲願だの希望だの神の預言だのと同調圧力をかけて潰そうとするなんて俺はそんなやり方大嫌いだ。ヤハウェ星と地球は似てるというがこの星には人権ってものがあってな、その人権を踏みにじることは犯罪なんだ。お前の言ってることは脅迫だぞ。この宇宙はヤハウェ星中心になんか回ってないんだ!夕子は地球で生まれ地球で育った地球人だ。どこにも行かせはしない俺の恋人だ」
小鳥遊涼平は殴られた頰をさすりながらやれ切れないというようにため息を吐いた。
「どうやら何を言っても平行線ですね。いいですよもう…そのことについては後でじっくりと時間をかけて分かってもらいます。その話がどうしても不愉快だと言うなら棚上げしましょう。どうせ緊急の問題ではないですから。大体議論している時間はないんです。それよりも今は奴らテロリストが放ってくる超獣に警戒すべきです」
そう言うとは小鳥遊涼平はもう一度満月を見上げ手を振った。そして月の方でももう一度キラリと何かが光った。そして今度はゴーっという音と共に地面が強く揺さぶられた。
「なっ何?」
「…夕子、あれを見ろ!超獣だ」
グワォーンという雄叫びと共に現われた超獣は、頭から腹部にかけて赤い目をランランと光らせた狼で、胸元にはミサイルを発射する器官があり全身は宇宙怪獣のような硬い皮膚で覆われていた。
「ルナサウルス…こいつです!こいつですよ、ヤハウェ星をテロリストたちの走狗となって死の都にした一匹は!」
「夕子、本部に連絡だ」
「分かったわ」
星司さんはタックガンを取り出し、胸元のミサイルで近隣を焼き尽くそうとするルナサウルスというらしい超獣に向かっていった。
私がTAC本部へ連絡すると間もなくタックファルコンとタックアロー二機がやってきた。しかしルナサウルスはファルコンやアローの攻撃にビクともせず、赤い目から発するレーザー光線と胸元のミサイルで全機を撃ち落とし隊員たちは脱出した。
その時地上でタックガンで応戦していた私と星司さんのウルトラリングが光った。
「夕子ーっ」
「星司さーん」
私たちはお互いを求めて駆け寄りジャンプして一つになった。そしてまばゆい閃光が光ると地上にはウルトラマンエースが登場した。
『…本当だったのね小鳥遊さんが言ったこと』
『いや待て…見ろルナサウルスは小鳥遊に攻撃一つしかけてないぞ。あいつの話が本当ならあいつは超獣の標的になっておかしくないのに。むしろ小鳥遊を避けているように見える』
『それじゃ小鳥遊さんは自分で超獣を呼び出したって言うの?』
『あいつが月に合図してそれに月が光ってその直後に超獣は出たよな… あとで必ず正体を暴いてやる、行くぞ夕子!』
地上ではTACの隊員たちが小鳥遊涼平を保護するとともに事情を聞いているようだった。私はまた変なことを言わなきゃいいなと思いながらウルトラマンエースとしてルナサウルス目がけ突撃していった。
一分くらいの鍔迫り合いの後、ルナサウルスは赤い目から放たれるレーザー光線を鎖状にしてウルトラマンエースを身動きできないようにするとミサイルの一斉連射で苦しめた。しかしその時ルナサウルスは地上から放たれる青い光線に目を潰されレーザー光線を使えなくなった。そこでウルトラマンエースは再びミサイル攻撃で闇雲に突進しようとするルナサウルスに、サークルバリヤーで飛びかかるとそのミサイルがルナサウルス自身に当たりルナサウルスは苦しがって倒れた。エースはルナサウルスを持ち上げると思い切りよく地面に叩き落とした。グワァオーン、グワァオーンと苦しがるルナサウルスは誰かに助けを求めているようでもあった。だがルナサウルスに加勢する動きはなくエースはミサイルを発射する火薬庫となっているルナサウルスの胸元にメタリウム光線を放った。するとルナサウルスの身体は大爆音と共に四散した。
変身を解いてみんなが集まる場所へ行くと皆が神妙な顔で私と星司さんを見た。星司さんは小鳥遊涼平を横目で見やると竜隊長に向かって言った。
「隊長、こいつは宇宙人です。しかも超獣を操っていたのもこいつです。彼が月に合図を送った瞬間月が光って超獣が現われたんです。超獣は意図的に彼への攻撃は避けていました。彼は宇宙難民ではなく侵略者の先兵です!信じてください!」
「…北斗。お前の気持ちが分からぬわけではないが、小鳥遊さんの話が嘘だという証拠がどこにある?現にウルトラマンエースを救ったのは小鳥遊さんの持っていたレーザー銃だ。少なくとも彼は敵ではないと思う。地球の最先端の科学ではヤハウェ星という星はアンドロメダ銀河に発見されていないがね。彼の話では月に部下の先遣隊がいて超獣出現を教えてくれたそうではないか。お前が見たのはその部下とのテレパシーのやり取りではないか。世間で謎とされてきた彼の経歴もこれで納得がいく。彼が宇宙人ではあるが敵だと見なせない以上我々は彼の話を聞きアンドロメダ銀河にあるヤハウェ星というものの動きを見極めなくてはならないんじゃないかね」
「そんなじゃあ私はヤハウェ星に?」
私は震え声で聞いた。
「夕子ちゃん…混乱しているのは分かるわ。ただヤハウェ星の神の預言のことまでは…TACは何とも言えないの。預言は科学じゃないけどヤハウェ星の人は皆それを当たり前だと思ってるしその通りに実現してるのよね。私だって引き裂きたくないのあなたと北斗くんのことはずっと応援してきたんだもの。できるなら私が代わってあげたいわよ。私も困惑してるのよ」
美川先輩が心底同情するという顔で私を制した。
「北斗…大切な人を奪われそうになって逆上した気持ちは分かる。だがな、彼を宇宙人の先兵と見なせばそれこそテロリストたちの思う壺じゃないか。ヤハウェ星の神の預言だって正鵠を射ているんだ。本来ならそんな非科学的なものは信じられんが」
作品名:星の糸 もう一人のウルトラマンACE (1) 作家名:Savarog