未来のために 9
「敵襲か!」
ロベルトは叫ぶとアムロ離す。
しかし、そんなロベルトを不安げに見つめるアムロに気付き、もう一度強く抱きしめてやる。
「俺がお前を守ってやる。だから俺のトコにいろ!俺が側にいる限り、お前は俺の弟だ!」
「兄さん…」
「それじゃ行ってくる。お前は無理しなくていいからな。あ、帰ったらアポリーと俺のどっちのディアスを置いてくか、カード勝負で決める約束なんだ!絶対勝つからアポリーのデータのバックアップを取っておけよ!」
ウィンクしながら笑うロベルトに、つられてアムロも笑顔を浮かべる。
「お、やっと笑ったな!じゃあ、頼んだぞ!」
「ははは、分かったよ」
微笑むアムロの頭を撫でて、ロベルトはモビルスーツデッキへと駆け出した。
その後ろ姿を、アムロは笑顔で見送る。
この先もずっと、この優しい兄と一緒にいたいと、そう願いながら…。
ロベルトがモビルスーツデッキに着くと、既にクワトロとアポリーが搭乗準備をしていた。
「ロベルト、レイは?」
ロベルトに気付いたクワトロが声を掛ける。
「大丈夫です。今は目が覚めて落ち着いています」
「そうか…」
ホッとするクワトロに、ロベルトが近付き、耳元で囁く。
「また…少し思い出したようです…アイツが…ガンダムに乗る事になった時の事です…」
その言葉に、クワトロが目を見開く。
「やっぱり…思い出すのは…怖いようで…、不安になっています。後で声を掛けてやって下さい」
「分かった」
「それから…、俺がいる限りは守ってやりますが…もしもの時は、大佐、アイツをお願いします」
「ロベルト?」
ロベルトは小さく頭を下げると、リックディアスのコックピットへと乗り込んで行った。
「…ロベルト…」
クワトロの百式を先頭に、モビルスーツ隊が敵編隊に向け、アムドムラのデッキからドダイに乗って飛び立って行く。
〈ロベルト中尉とジム二機はアウドムラを守れ!私とアポリー中尉で敵機へ攻撃を仕掛ける〉
〈了解!〉
クワトロの指示に従い、ロベルトはアウドムラの前方に位置を取り攻撃に備える。
アムロは大事をとって整備のメンバーには入らず、艦橋へと姿を現した。
「レイ、大丈夫か?」
アムロに気付いたハヤトが心配気に声を掛ける。
「はい、すみません。お騒がせしました」
その、他人行儀な言葉に少し切なさを感じつつも、体調が思ったよりも悪くない事にホッとする。
「そうか…。無理するなよ」
「はい、ありがとうございます」
そして、アムロは艦橋から見えるロベルトの機体に視線を向ける。
ロベルトもアムロに気付いたのか、艦橋のアムロに向かって合図を送る。
そんなロベルトに、アムロも笑顔で手を振り返す。
「本当にロベルト中尉とレイは仲が良いな」
ハヤトがクスリと笑いながらアムロを見つめる。
「あ…、ははは。アポリー中尉にはいつも呆れられてます。年が離れているせいか、ついつい甘えてしまって…」
「でも、ロベルト中尉もレイが可愛くて仕方がないって感じだ」
「ええ、すごく大切にしてくれます。血の繋がりは無いけれど、兄は俺にとってかけがえのない大切な家族なんです」
「…そうか…」
笑顔で答えるアムロに、ハヤトは少し胸が締め付けられる。
本当の家族にはあまり恵まれなかったアムロが、他人とは言え、家族と呼べる存在を得る事が出来たのだ。
少しすると、クワトロ大尉達が敵機と交戦を始める。
「始まりましたね」
「よし!アウドムラは右に旋回して海に出るぞ」
その時、アムロは敵機編隊とは反対の方向から敵の気配を感じる。
「ハヤト艦長!十時の方向に敵だ!モビルスーツが一機こちらに向かって来ている!」
「何!?」
アムロの言葉に艦橋が騒然とする。
「まずい、アウドムラを直接攻撃する気だ」
咄嗟に、ハヤトは護衛のロベルトとジム二機へと連絡を入れる。
「ロベルト中尉!敵機接近!迎撃願います」
〈了解!〉
ロベルトが、敵機に向かってバーニアを吹かす。
「ダメだ!兄さん!コイツは普通じゃない!」
アムロは向かい来る敵機のパイロットに違和感を感じて叫ぶ。
『何だ!?カミーユ…いや、俺に似た気配…。気持ちの悪い気配を持ったパイロットだ!』
アウドムラを攻撃しようと向かってきているのは、一年戦争当時に、ジャブローで収集されたアムロの実験データと、戦闘パターンをインプットされた強化人間、ロザミア・バダムだった。
ロザミアは、専用機であるギャブランを駆り、真っ直ぐにアウドムラへと向かって来る。
「クワトロ大尉に応援を!このパイロットは普通じゃない!兄さんだけじゃ無理だ!」
アムロの言葉に、ハヤトがクワトロへと応援要請を送る。
「ハヤト艦長!俺の乗れる機体はありますか!?」
「いや、全ての機体が出撃していて、レイの乗れる機体は残っていない!」
「クソっ!」
アムロは通信席へと移動してロベルトに通信を繋げる。
「兄さん!この敵は普通じゃない!クワトロ大尉達の応援を待って!」
〈普通じゃないってどういう事だ!?〉
「多分…ニュータイプ…いや、違う、強化人間だ!」
〈強化人間!?〉
「ハヤト艦長!ジムを一機帰艦させて下さい!代わりに俺が出ます!」
アムロがドックへと走り出そうとしたその時、ギャブランがサーベルを引き抜き、アウドムラへと攻撃を仕掛ける。
それをロベルトのリックディアスがサーベルで受け止め、応戦する。
「兄さん!」
〈レイ!言っただろう!お前は俺が守ってやるって!俺を信じろ!〉
「でも、兄さん!」
ロベルトと同時に、ジムもギャブランを攻撃する。しかし、その攻撃をギャブランは難なく避けると、ジム二機を次々と撃墜する。
そこに、クワトロの百式とMk-Ⅱが姿を現わす。
「クワトロ大尉!カミーユ!」
アムロが安堵の声をあげた瞬間、ギャブランのサーベルがアウドムラの艦橋に向かって振り下ろされる。
「まずい!!」
ハヤトが叫び声をあげるのと同時に、ロベルトのリックディアスがギャブランとアウドムラとの間に入る。
「兄さん‼︎」
そして、そのサーベルがリックディアスのコックピットへと突き刺さる。
『レイ!!』
その瞬間、ロベルトの声がアムロの脳裏に響きわたる。
「兄さん!」
まるでスローモーションの様に、リックディアスのコックピットへと、サーベルが吸い込まれていく。そして、そこから幾筋もの閃光が走り、ロベルトを包み込む。
『レイ…』
光に包まれながら、ロベルトは大切な弟の名を呼ぶ。
その顔には、アムロを守れた事による安堵の表情が浮かんでいた。
けれど、残していくアムロに不安も感じ、瞳からは一筋の涙が零れる。
『一緒に居られなくて…ごめんな…』
ロベルトの想いは、艦橋に居るアムロの元に届いていた。
『愛してるよ。お前の幸せを祈ってる』
リックディアスを包み込む光が膨れ上がり、爆音と共に炎に包まれる。
その光景を、アムロは瞬きも忘れ、茫然と見つめる。
目の端に、カミーユのM k-Ⅱがギャブランを倒しているのが映ったが、何も考える事が出来なかった。
ただ、リックディアスが粉々になって墜落していく様を言葉も無く見つめる。
「…兄…さん…?」
『一緒に居られなくて…ごめんな…。愛してるよ。お前の幸せを祈ってる』