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戴く冠

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 フランスの胸ぐらを掴み上げたプロイセンが凄味を利かせて問い質した。
「お前達がお兄さんの家のものを勝手に占領してくれるから、大事な国宝ものの宮殿を壊されてないか監視に来たんですぅ」
「壊さねぇよ! それに占領される弱いお前が悪ぃんだろうが」
「ひどい。お兄さん弱くないからね! ちょっと前まで凄く強かったんだから!」
「今現在の状況を見て言え」
「あんまりな言いようじゃない、それ!? お兄さんだって本気出せばやれる子なんだからね!」
 胸ぐらを掴まれたままの状態を気にした風もなく、フランスは本気なのか遊んでるのか判断の付けにくい調子でプロイセンとの言い合いを続けていた。
「あー、その、フランス。大丈夫なのか? お前がここに来ていて」
 おずおずとこちらは本気で心配そうに、ドイツがフランスに声を掛ける。
 その言葉にいきなりプロイセンの手を弾き落としたフランスは、ドイツに向かってにんまりと笑って見せた。
「大丈夫、大丈夫。それに、お兄さんも立ち会った方が効果も抜群でしょ」
「…?」
「周辺諸国に知らしめる為にこの宮殿使ってるんでしょうが。他国の者も見てた方が効果はあると思うよ?」
「あー…、」
「なるほど、そういうのも有りと言えば有りか」
 合点がいったようないかないような、という微妙な顔のドイツの隣で、プロイセンが弾かれた手をさすりながら呟く。
 と、そこに先ほどの男がドイツたちに追い付いてきた。
「まだこんなところで油を売っていたのか」
 呆れた様子を隠そうともせずにそう言ってくれる。それから、ドイツたちと一緒にいるフランスに目を向け、軽く目を眇めた。
「フランス、何でお前がここに?」
 その問いかけに、フランスは肩を竦める仕草をする。
「みんなして同じことばっかり聞くね。お兄さんは歴史の立会人ってことで、宜しく」
「今この時も、お前の軍が敗戦しかけているのに、わざわざ敵国の戴冠式の立会人か?」
「軍は上司が仕切っちゃってるから、俺は一足先に引き上げて来ちゃった。それに、わざわざ近隣諸国の代表として立ち会ってあげるっていうんだから、そちらにとっては文句無いんじゃない?」
「どういう理屈だ、それは…」
「お兄さんもね、戦いに勝ちたかったけど、上司ったら俺の話聞かないんだもん」
 本気か冗談か、そんなことをにこやかな口調でフランスは言う。
「それで自国の軍を見捨てる、か…?」
「まさか。見捨てるわけないじゃない、この愛の国のお兄さんが。ちょっとだけ、今後の為を思って先にお兄さんだけ抜けてきただけだよ」
 そう言いうなり、フランスは話をしていた男ではなく、その隣に立っていたプロイセンの胸ぐらを掴み引き寄せた。
「…プロイセン。この戦いが終わったら、覚えてろよ」
「あー、無理。俺様くしゃみしたら忘れっから」
 へらへらと笑いながら、プロイセンは胸ぐらを掴むフランスの手を弾き落とす。
「痛たたた…」
 大げさに手をさすり痛がってみせるフランスを、男が呆れた様子で眺め、そして呆れた調子で呟いた。
「物好きにもほどがあるな、お前は」
「そうかな。こういうものって直に見ておきたいと思うのが人情ってものじゃない? わざわざお兄さんとこの宮殿使ってくれちゃってるわけだし?」
 その言葉に男が顔を僅かだが顰める。
「くそ…。軍部に引き摺られなければ、こんな時期にこんな所でやってない…」
 男の言葉にフランスは人を食ったような笑いを口の端に乗せた。
「それにね、お兄さんとしては、お前を見に来たってのもあるんだよねぇ。本当、お前がプロイセンと一緒に統一の道を選らんだことには驚きを隠せなかったよ。ねぇ、バイエルン?」
 フランスの言葉に、バイエルンと呼ばれた男が今度は露骨に顔を顰めてみせた。
「お前らがあれこれちょっかいを掛けてくるおかげで、いい加減に一つに纏まらないとまずいと思い始めたんだよ。しかし、オーストリアの坊ちゃんの案には賛同する気にならんし、いつまで経っても纏まらんわで、プロイセンを推した方が賢いと判断したまでだ」
「それは、妥協ってことかな? 本当に、お前らっていつまで経ってもバラバラだねぇ。統一目前の今現在までも」
 にやにやとした笑いを見せるフランス。バイエルンは苦虫を潰したような顔をする。
「バラバラにも程があるよ。そんな調子で統一なんて大丈夫なんだか」
「うるさい。元々が、俺たちは独立国家名乗る連中の集まりなんだよ」
「その筆頭がお前だったけどな。統一に参加する条件に独立国家並の権限を寄越せとかぬかしやがって」
 そう会話に割り込んできたのはプロイセンだった。不機嫌そうな顔をしている。
 フランスが嫌味の利いた笑みを浮かべ、何か言おうと口を開きかけたが、それより先にプロイセンはドイツの腕を掴み立ち止まっていた廊下を再び進み始めた。
 その仕草は、これ以上フランスとバイエルンの会話を聞かせたくないとでも言ってるいるようにも見えた。
「兄さん?」
 怪訝そうにプロイセンを伺うドイツに、少しの間を置いた後、プロイセンは振り返って微かに笑ってみせる。
「気づけば、いつの間にか、お前を戴きに置いて統一を果たすことが、俺様の悲願になっていた」
「…ああ、そうだな。そう聞いてきた」
 プロイセンの言わんとすることが今一つ掴めず、ドイツは困惑気味に兄の顔を眺めた。
「お前があって、初めてドイツ諸国が纏まるんだ。俺ではなくな」
「………」
「だから、お前は必要な存在だった。お前は必要な存在として生まれた。お前は大丈夫なんだ」
 この統一に異を唱えるものはいないにしても、プロイセン王がドイツ統一を纏める盟主となることをずっと拒み続けて来ていたことを、ドイツは気付いていた。
 ドイツ帝国が生まれることで、プロイセン王国という存在がドイツに呑まれドイツの中に消えていくのではないかという恐れがプロイセン王室の中に充満していることに、気付いていた。
 ドイツが気付いていたことに、プロイセンは気付いていたのかも知れない。
 適切な言葉が見付からないまま、ただ幼い子供を宥めるように安心させるように、大丈夫だと繰り返したプロイセン。
 彼は、ドイツという地に沸き起こる統一を望む声を、どんな思いで聞いていたのだろうか。
 統一の為のまとめ役として周囲から押された時、どんな思いでそれを見つめていたのだろうか。
 統一が目の前にありながら、しかし、そこには、プロイセンではなくドイツという存在がいたことを、彼はどういう思いで見つめていたのか。
 どんな思いで、ドイツを見守っていたのか。
 決して、プロイセンが頂に立つことは無いと分かっていながら、彼は、ドイツを育てた。
 そこには、どんな思いがあったのか。
 この日が近付くほどに、ずっとそんなことを考え続けていた。
 自分は、それらに報いることが出来るのだろうか。
 彼の覚悟を、受け止めることが、可能だろうか。いや、可能にしなくてはいけないのだ。

「兄さん」

 ドイツは先を進もうとするプロイセンの腕を引く。

「俺は、俺のすべきことを、出来る限り早く見出してみせる」
「あ?」
作品名:戴く冠 作家名:氷崎冬花