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未来のために 11

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シャアはハヤトと握手を交わすと、議会会場に向かうため、モビルスーツデッキへと移動する。
そこには、リックディアスに乗り込むアムロの姿があった。
久しぶりに見る愛しい人の姿に、シャアは嬉しさが込み上げると共に、拒絶された事を思い出し、アムロが今、自分をどのように想っているか不安が過ぎる。
シャアは小さく深呼吸をすると、意を決してリックディアスへと乗り込んだ。
「アムロ、君に送ってもらえるとはな。今日はよろしく頼む」
「…ああ」
シートに座るアムロに声を掛けるが、素っ気なく返事が返って来るだけで顔を背けられてしまう。
「…まだ、私のことが怖いか?」
アムロのその反応に、シャアが悲しげに確認する。
「…ち…違う…」
その答えに、何か様子がおかしいアムロの顔をシャアが覗き込む。
すると、アムロは顔を真っ赤に染めてシャアから顔が見えないように逸らしてしまう。
「レイ…?」
「…アムロだ…」
「…アムロ…」
「別に…もう怖くない…」
「ならば何故こちらを向いてくれない?」
「貴方が………から」
ボソリと呟くアムロに、シャアは不安を抱えながらも、もう一度尋ねる。
「?すまない、もう一度言ってくれ」
「だから!…貴方がいつもと違うカッコしてるから…驚いて…」
アムロはシャアに振り向くと、顔を真っ赤にして答える。
そして、スクリーングラスを外してこちらを覗き込んでいたシャアの素顔と間近で目が合い、更に顔を真っ赤にして固まってしまう。
アムロは会いたくて堪らなかったシャアをデッキの入り口に見つけ、喜ぶと同時に、いつもとは違うスーツ姿にドキリとした。
落ち着いた色のスーツを綺麗に着こなした立姿に思わず見惚れてしまったのだ。
「反則だよ…なんで貴方そんなにカッコいいんだよ」
アムロの言葉に、自分の危惧が杞憂であった事に気付き、シャアの顔に笑みが浮かぶ。
「アムロ…君はもう、私を恨んではいないのか?許して貰えたのか?」
アムロの肩に手を置いて戸惑いながらも尋ねる。
すると、アムロは少し視線を逸らしながらも、首を横に振る。
「…まだ…許しては貰えないか…」
その反応に、シャアは肩を落としながら呟く。
「…違うんだ…許すとか…そう言うのじゃなくて…」
とアムロが言いかけたところで、ハヤトから通信が入る。
〈アムロ、ベルトーチカが配置に付いた。発進してくれ〉
「りょ、了解!」
アムロは一瞬シャアの顔を見上げ、操縦桿を握る。
「出るから、シートに捕まって下さい」
「アムロ!」
「…演説が終わったら…時間を下さい…」
アムロはシャアから視線を外し、正面を見つめながら告げる。
「分かった」
シャアの返事に、アムロはコクリと頷くと、リックディアスを発進させた。

無事にシャアを送り届け、議会をジャックしたカラバのメンバーにより、シャアの演説は地球の人々へと送り届けられ、ティターンズの暴挙を知らしめ、エゥーゴの真の目的を世界に伝える事が出来た。
そして、そこでシャアは自身の出自についても明かした。
ジオンの赤い彗星のであり、ジオン・ダイクンの血を受け継ぐ者である事を…。

演説後、アウドムラでは演説の成功を祝って皆が酒を酌み交わしていた。
その中心には、今日の主役であるクワトロ・バジーナ大尉、いや、シャア・アズナブルが居た。
それを、アムロは遠くからグラスを片手に見つめ、演説の成功を喜びつつも、シャアから伝わる複雑な想いを感じて少し眉を顰める。
シャアにとって、ジオン・ズム・ダイクンの子だと公表する事は、連邦はもとより、ネオ・ジオン、ジオン残党、様々な組織から干渉を受け、自由を失う事を意味していた。
おそらく、それはシャアの本意では無いだろう。ブレックス准将が生きていれば、表舞台に立つつもりなど無かったはずだ。
アムロはグラスの中身を一口含むと、その場を後にした。
私室でグラスを傾けていると、ドアをノックする音がする。
誰が来たかなど、開けなくても分かる。
金と赤の入り混じった強烈な気配。自分が求めてやまない存在を扉の外に感じる。
アムロは小さく深呼吸をすると、立ち上がり、訪ね人を部屋へと招き入れた。
そして、迷いなくその人物を見つめる。
「シャア…」
そこにはスクリーングラスを外し、ネクタイを緩めたシャアが立っていた。
「みんなとはもう良いのか?」
「ああ、私の責務は果たした。あとは皆で騒いでいるだけだ」
「そうか…」
アムロは小さく微笑むと、シャアをベッドに座るように促す。
「時間を取ってくれてありがとう」
アムロはお礼を言いながらシャアの隣に座ると、ゆっくりと話し始める。
「…あれから…自分なりに色々と考えたんだ。思い出した記憶を一つずつ思い返して…貴方への…アムロとしての想いと…レイとしての想いを…でも、どうしても答えが出なくてずっとぐるぐるしてた」
アムロはそこで一呼吸置いて小さく息を吐く。
「アムロの記憶を辿るたび、ララァの事を思い出して胸が苦しくなった…。自分の罪に向き合うのが辛かったんだ…」
膝の上で組んだ指に力が入る。
「アムロ…」
「ホンコンシティで、昔の仲間に会ったんだ。ミライさんって言って、ホワイトベースの操舵手をしていた女性。ブライトさんと結婚しててびっくりした。子供も二人いて、二人とも何処と無くブライトさんに似てて笑っちゃったよ」
小さく笑うアムロに、シャアも少し表情が和らぐ。
「ミライさんにさ、言われたんだ。もう一度貴方との出会いから振り返ってみろって」
「…それで?」
シャアは焦らずに、ゆっくりとアムロの言葉に耳を傾ける。その優しさに、アムロは胸が暖かくなるのを感じる。
「初めて貴方に会ったのはモビルスーツ越しで…只々怖かった。ジオンの赤い彗星と呼ばれた凄腕のパイロットを目の前にして、殺されると思った。ガンダムの性能のお陰で助かったけど、力の差に愕然とした」
「私も驚いた。ガンダムは、今まで見て来たモビルスーツとは段違いな性能だった」
「ふふ、親父が心血を注いで作ったマシンだからね。とにかくあの人は“ザク”に勝ちたかったんだよ。自分の息子の事も忘れて本当に子供みたいに開発にのめり込んでた」
「テム・レイ博士か」
「うん。偏屈で変わり者で…多分、自分が戦争の道具を作ってるって言う自覚も無かった人だったよ。お袋に見限られても仕方ない様な人だった。でもまぁ、それでも俺を引き取ってくれて…大して構ってはくれなかったけど、捨てないでいてくれたからね、嫌いじゃ無かったよ」
「寂しかったか?」
「そうだね、寂しかったな。でも、あの人が夢中になってるものに興味があって…こっそり端末を盗み見てたりもした。あんな風に凄いものを作り出せる親父を…誇らしくも思ってた」
「そうか…」
いつだったか、ロベルトがアムロはあまり家族に恵まれていなかったかもしれないと言っていた。だから自分が家族になってやりたいと…。
「ああ、話が逸れちゃったね。何度か貴方と戦う度に…ガンダムの性能だけじゃなくて…自分の力で貴方に勝ちたいって…思うようになっていった。貴方はさ、当時の俺にとって目標だったんだよ」
「私が?」
作品名:未来のために 11 作家名:koyuho